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マンガ家ユニット「うめ」の小沢高広氏が「Kindle Unlimited」から電子コミックの未来を紐解く!
2016年8月5日


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※『ニブンノイクジ』第1話より

次の段階にはAmazonオリジナルコンテンツが来るんじゃないか

――「『ニブンノイクジ』を紙書籍にしたいと考えている」というツイートを拝見しました。その理由や、紙書籍に対する思いを教えてください。

これは逆ですね。もともと紙書籍と電書(電子書籍)の同時発売を狙っていたんですが、連載の反響が大きかったので、当初の予定の1/4程度のページ数で先行発売したというのが真相です。今出ている『ニブンノイクジ 保育園実績解除編』は約50ページなんですが、さすがに紙書籍は全50ページだと紙書籍の商業出版は難しい。紙書籍を出せるだけの連載分がたまったら、出します。特に『ニブンノイクジ』は、「やっぱり紙の本でほしい」という声をよくいただくので、手触りや装丁にもこだわった部屋に置きたくなるような素敵な本にしたいと思っています。

――現在、電子コミックが多くのユーザーに読まれています。中でも、オリジナルを無料アプリで配信しているサービスと、月額定額で読み放題のサービスがありますが、それぞれにどのような考えをお持ちでしょうか。

いち読者としては、ありがたい時代です。もし自分が十代の頃にあったら、どれだけ助かったか。
しかし、いちマンガ家の立場だと、どちらの仕組みにせよ、「どれだけ描き手にお金を落としてくれるの?」という点に尽きます。そういう意味では、あまり景気のいい話はまだ聞きません。ただウチが定額読み放題の「cakes」で公開しているニブンノイクジ』なんかも、それ1本で食べていける額ではないですが、こういった連載が何本かあると、なんとかなるのかなという感じです。なので、これがロングテールというものなのかな、と日々実感しているところです。

――先日、Amazonの電子書籍定額サービス「Kindle Unlimited」が日本でも始まったことで大きな反響になっています。どのように思われましたか?

ついに始まりましたね。ウチの本も出ていますが、いまだに出版社から契約の説明はありません。まあウチの取引先が特にルーズというわけでなく、他の出版社でも作家に説明していないケースは多々あるみたいです。よそが説明していないんだから、ウチもしなくていい、という話ではないと思いますが(笑)
今はまだラインナップが(特にマンガは)新古書店の棚みたいですね。でも半年も経てば、だんだん充実してくると思うので、そこは心配していません。あと同時に利用できるのが10冊までという制限があって、面白いですね。購入というよりは、レンタルに近いというか、図書館的というか。このちょっと不便なかんじが、これからも本の”購入”というスタイルを継続させる上手な仕掛けだと思っています。Amazonとしては、実は新作もぜんぶ定額読み放題にしたいのかもしれませんが。ただこんな側面もあります。KDP界隈では、サービス開始以降、KDP作家の冷遇が話題です。NPO法人日本独立作家同盟理事長の鷹野凌さんはこのようなツイートをされています。



(アメリカではKENPはいま0.5円程度とのこと)新しいことには「とりあえずNO」という日本の出版社を動かすための厚遇した結果だとは思いますが、このあたりはとても残念ですね。
なにはともあれ、次の段階にはAmazonオリジナルコンテンツが来るんじゃないかと思っています。「Amazonプライムビデオ」「Netflix」や「Hulu」といった月額定額の映像系サービスでも、オリジナルコンテンツ制作が盛んです。そしてそれがなにしろ、面白い。なので、オリジナルコンテンツでマンガがそう遠くないうちに出るんじゃないでしょうか?

そしてそのとき、興味深いのが作り方です。日本のマンガは通常1人の作家(ウチは2人ですが)が描きます。でもアメコミ(アメリカン・コミックス)は分業制。ペンとカラーですらも分かれています。そしてキャラクターの権利は、作家には属さず、会社が持ちます。どちらのやり方にもメリット・デメリットはありますが、日本でもここらでそろそろ分業制を導入して、キャラクタービジネスを本格的に視野に入れた上での作品づくりをする手はあると思います。もしそういうチャンスがあれば、チャレンジしてみたいです。
という想いと同時に、これでいよいよマンガのライバルは「Amazonプライムビデオ」「Netflix」や「Hulu」といった映像のエンタメになったという点です。例えば、アプリでマンガと映像のアイコンが横に同等に並んでいたときに、どっちをタップするかになってくると思うんです。マンガは手に取りやすい、かなり敷居の低いエンタメですが、それでもページをめくらなくちゃ読めない点で、まだめんどくさいんです。その点、映像は何もしなくていいんです。そのハンデキャップを自覚した上で、マンガはどこを売りにするのかを、これからよりきちんと考えなくちゃいけないと思います。

>次ページ「マンガ家のユニットを組みながら夫婦でもある2人の、ちょうどいいバランスを保つ秘訣とは」



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