数々の伏線が読者を翻弄する警察ミステリー
警察組織のおける特殊な役職の一つ、広報官。主な仕事は警察が取り扱っている事件や事故に対するメディアへの対応を行う仕事だ。記者会見の準備や進行、また事件の捜査をスムーズにするために、報道管制をしてメディア発表を制限したりなど、警察とメディアの広報の窓となる存在だ。しかし、身内からはメディアに情報を流すスパイに見られ、メディアからは勝手に情報の精査をして、時には情報を隠したりする自由報道の妨げとなる存在に見られ、嫌われ役になる事もある不遇な立場だ。
とある地方警察の広報官、三上義信もその一人である。刑事となって3年目、突如広報室へ異動となり、1年後に刑事として復帰。以来、2度と広報室に戻るまいと、がむしゃらに刑事として働いてきた。ところが、46歳の春、広報室を取り仕切る広報官として刑事課から異動になった。自分の境遇を呪いながらも、結果を出して再び刑事復帰を願い出るため、広報業務の改善を図り、出入りする記者たちとの関係も良好になり始めた。改革が軌道に乗ってきた矢先、厄介な事件が発生する…。
広報室とマスメディアの間で起きた騒動を端緒に、様々な事件が絡み合い、さらに刑事課との対立や、警察本庁の思惑も複雑に交錯する。
数々の伏線が読者を翻弄するミステリー長編。
みんなの感想
◆三上のタフさが、緊張感のあるストーリーを彩る
記者たちからの突き上げ、上司からの圧力、仲間と思っていた古巣の刑事課の冷たい視線。家庭でも問題が起きているにも関わらず潰れない。元刑事で培われた忍耐力なのか、
読み進めるたびに、三上広報官のバイタリティに驚かされます。また、登場人物たちの描写が非常に丁寧で、場面ごとの状況がとてもよく頭に入ってきました。終始緊張感のある手に汗握るストーリー展開と、ちりばめられた伏線がどこで使われるのか、気になってしまい、最後まで一気に読んでしまいました。
◆与えられた職務を全うする決意
警察という一般とは違う職業にカテゴリされながらも、広報官の仕事はどちらかと言えば民間企業の広報と比べても決して遠くはないだろう。しかし、警察という公僕である以上、求められる仕事のハードルは高い。より誠実で、公的な広報という立場で見られると言うこと。作中で描かれている広報官の仕事は非常にハードで不遇だ。故に三上自身も異動を願い出るための対価として、広報業務の向上を図っている。しかし、物語が進むにつれ、広報官という職務に誠実に向き合い、信念を持って事件に相対する。三上の警察官としての矜持に熱くなる物語だ。