第2回 《客観》と《主観》ってなンだ!?

キャラクターマンPIP!~全員集合~セカンドシーズン

第2回 《客観》と《主観》ってなンだ!?

2016年11月16日

小池一夫です。

前回、《日常》と《非日常》についてお話しました。
物語とは、その主人公の《日常》から、《非日常》に移行して、また日常に戻ってくるものだ、と。
《日常》とは「想定内」の世界であり、《非日常》は「想定外」の出来事です。
自動小銃や戦車は、我々にとっては《非日常》ですが、自衛官にとっては《日常》。
《日常》とは主人公によって違うんだ、という話をしました。

今回は《客観》と《主観》について、お話します。

小説では、たとえば、このように書き出します。

《久しぶりのストックホルム空港は相変わらず俺には冷たいように思えた。
リカは俺を迎えに来ているだろうか…?》

これは《主観》ですね。
主人公の心の中の声です。

これ、漫画ではどう描きますか?
思っていること全部をフキダシやナレーションに、文字で入れてしまってはいけませんね。

小説は、1行や2行ならともかく、何十行、何ページも《主観》だけで進めることができますし、それでも読み進めることができるのですが、漫画でそれをやってしまうと、面白くないでしょう?

だから、漫画だと、主人公のキャラクターが北欧スウェーデンのストックホルムの空港に到着し、格好よく歩いているところを《画》で描かなければいけない。

(リカは俺を迎えに来てくれているだろうか?)
ぐらいは入れられるでしょうが、出来るだけセリフは減らし、その他の情報は情景とキャラクターの演技で目に見える形で表すか、もしくは、省くかしかありません。

冷え冷えしていた雰囲気、主人公とすれ違っていく通行人たちの態度、あんまり歓迎されていないように思えるようなところを、主人公の表情やしぐさ、風景や出来事などの、《画》で表す。

《客観》というのは、あくまで、一歩引いたところにカメラがある、というのが基本です。
娯楽としての漫画は、この《客観》でなければいけません。
(もちろん、クライマックスや感動を表すシーンなど、ここぞというところで、演出としての効果を狙って、《主観》での描写を行うのでしたら別です)。

小説の《主観》の描写は、《主人公》自身の視点です。
なので、本人が知らないことは、知らないし、見えないものは見えない。
本人は、自分の見聞きしたことはよくわかりますが、他の人のことはよくわかりません。
《主観》は《「主」人公が「観」ている視点》ということです。
スポーツや演劇でいえば、プレイヤーの視点です。
迫力はありますが、限定的な状況しかわかりませんので、よくわからない場合があります。

一方の《客観》とは、第三者の視点です。
読者、視聴者、観客……そうです。
《客観》とは《お「客」さんが「観」るための視点》です。
《お客さん》のために特別に用意された「特等席」です。
エンタテインメントである漫画は基本的には《客観》で描かなければなりません。キャラクターの言動を、外から、見えやすくわかりやすい形で眺めるのです。
スポーツや劇場でいえば、一番見えやすく、わかりやすく状況が見通せて、楽しめるよう演出された、サービス満点の座席からの視点なのです。
(もちろん、全てを見通せるわけでなく、見せるべきを見せ、見せるべきでないところは見せないという演出や、見せたい部分をアップにしたり、状況がわかるように引いてみせたりといったカメラワークが作者によってなされています)。
それが漫画の……いえ、漫画に限らず、エンタテインメントの《客観》です。

エンタテインメント作品は、誰のためのものでしょう?
自分だけのためのものでしょうか?
いいえ。
「お客さん」のためのものです。
いろいろなことがわかっている「自分」の視点におくのではなく、初めて作品に触れる人が「とっつきやすく」「おもしろく」「わかりやすく」「愛着をもてる」ように思えるような視点で描く。
漫画は――少なくとも、エンタテインメントとして売れる漫画、ヒットする漫画は――客観性を持って描かれなければなりません。

客観とは「読者目線」に立って、作品を描くということです。
基本的には、なんの予備知識も、予測もない、興味もない人間、老人でも子供でも、年齢性別を問わず、だれでもが、興味を持ち、近づいてきて、いつのまにか夢中になっている……そのために必要なのが、《客観》で描くということなのです。
外から観た、キャラクターの状況や言動で、読者、観客の目を留め、注目させ、驚かせ、惹きつける。
どうすればいいのでしょうか?
簡単です。
「キャラクターを起て」て、それを目撃させるのです。

それが《客観》が大事だ、という意味です。
よくわからない、得体の知れないキャラクターの内部にいきなり放り込まれ、心の声を聞かされても、戸惑ってしまうことが多いでしょう。
まだ、小説の場合はその他人の心にすっと入っていける部分がありますが、漫画の場合はなかなか難しいでしょう。もちろん、小説の場合も《客観性》を忘れてはいけません。

もちろん、漫画では《主観》描写を使ってはいけないということではありません。
キャラが起っていない、読者が寄り添っていない時には使っても意味がないということです。
読者が感情移入し、共感が高まった上で、心を揺さぶりたい時、驚かせたい時、感情を爆発させたい時、感動のシーンを描く時、読者の本能に訴えかけ、喜怒哀楽の源となる《感情ホルモン》を分泌させたい時……ここぞというところで、劇的に、効果的に使うほうがいいのです。

この《主観》と《客観》は、作品の中でのキャラクター描写においてだけでなく、作者が作品を観る姿勢においても重要です。
自分の作品は、他人にわからない、一人よがりなものになってはいないか?
《主観》に囚われた、観念的なものになっていないか?
《客観》的に、作品を観ることができているか?
《お客さん》を置いてけぼりにしていないか?
新しい《お客さん》が入りやすく、ストレスなく読み続けられるものになっているか?

お店なんかとも同じです。
お客さんとして飲食店に行くと、「この店はダメだな。二度と来ない。すぐ潰れるな」ということが、ありありとわかったりします。
みなさんも、接客の態度、清潔さ、サービスの質などで、不愉快な思いをされたこともあるでしょう。
でも、店主はそれがわからないのです。
客からすると、どんなに明白な欠点があっても、そういう店の主人にはそれを客観的にチェックするという考え方自体が欠如しているので、《主観》でしか観られていないことが多いのです。
(そのため、大手の飲食店やコンビニのチェーン店本部などでは、わざわざ「ミステリーショッパー」という、お客さんのふりをして、店のサービスを客観的に調査する捜査員を雇っているぐらいです)。

作品の場合は、そこまでしなくても、すこし時間を置いて、読者の視点で《客観的》に読んでみると、自分の作品の難点がわかってきます。
読者目線でチェックしてみましょう。
独りよがりでわかりにくくなっている部分が見えてくるはずですので、そこを直していきましょう。

作品の中でも、クリエイターとしても、常に《主観》と《客観》ということを考えながら、創作することが重要なのです。

それでは!

(次回、11月23日掲載予定です!)



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小池一夫
作家・漫画原作者
 中央大学法学部卒業後、時代小説家・山手樹一郎氏に師事。70年『子連れ狼』(画/小島剛夕)の執筆以来、漫画原作、小説、映画・TV・舞台等の脚本など幅広い創作活動を行う。  代表作に『首斬り朝』『修羅雪姫』『御用牙』『春が来た』『弐十手物語』『クライング・フリーマン』など多数。多くの作品が映像化され、その脚本や主題歌の作詞なども手がけている。  また、1977年より漫画作家育成のため「小池一夫劇画村塾」を開塾。独自の創作理論「キャラクター原論」を教え、多くの漫画家、小説家、ゲームクリエイターを育てる。  主な門下生としては、『うる星やつら』の高橋留美子、『北斗の拳』の原哲夫、『バキ』の板垣恵介、『サードガール』の西村しのぶ、『軍鶏』のたなか亜希夫など多数。  ゲームでは『ドラゴンクエスト』の堀井雄二、『桃太郎電鉄』のさくまあきらなど。

 2000年以降は学校教育でのクリエイター育成に力を入れ、大阪芸術大学、神奈川工科大学の教授を歴任。現在は大阪エンタテインメントデザイン専門学校でクリエイターの育成を行う。  また、『子連れ狼』は最も早くに海外でヒットした日本漫画の一つであり、2005年、漫画界のアカデミー賞といわれる「ウィル・アイズナー賞」の「漫画家の殿堂入り」(The Will EisnerAward Hall of Fame)を受賞。  現在も漫画原作を書きながら、コミックコンベンションや講演会などで、日本国内や海外を飛び回っている。

小池一夫先生の著書

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