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キャラクターマンPIP!~全員集合~セカンドシーズン

第6回 なぜ、キャラクターを教えるのか

2016年12月13日

小池一夫です。

「小池塾」がテレビのニュースを賑わせていますが、「元祖・小池塾」の僕も、
2月から小池一夫キャラクターマン講座の第11期をスタートさせることになりました。(http://www.koikekazuo.jp/

もちろん、こちらの小池の塾では、小池本人が直接指導・直接添削します。

教えるのは「創作の基本」であり、「ヒットの必須条件」であり、「人を惹きつける魅力」である《キャラクター》について。

「キャラクターを《起てろ》」というのは、高橋留美子が参加していた『小池一夫劇画村塾』(1977年に第一期開始)の頃から、まったく変わっていません。

「今から40年も前だし、本当なのかな?」と思う人もいるかもしれませんね。
ちょうど、最近見かけた、高橋留美子の対談の言葉から引用してみましょう。

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白井 高橋先生は、マンガは独学で描かれたんですか。
高橋 いえ、小池一夫先生の劇画村塾(第1期生)で、大学2年生のときに半年間学びました。
白井 どんなことを教わりました?
高橋 子供の頃は、マンガそのものがテキスト(教科書)になりますよね。好きなマンガのコマ割りや構図を、理屈はわからないなりに真似して描いていた。小池先生は、その理屈を言葉にして教えてくれる人なんです。「これはなぜこうなっているか」「これはどういう効果があるか」という説明を細かくしてくださって、「ああ、そうだったのか!」とすごく納得できました。小池先生がよく言われるのは、「キャラクターを立てるとはどういうことか」について。“キャラクターが立っている(個性ある人物として特徴づいている)”具体例をいくつも挙げてくださるんですが、そうすると正解は無限にあることがわかるんです。キャラクターとなる要素はさまざまにあるし、作者の試行錯誤の結果“立ったキャラクター”は無数にいて、それぞれが正解です。だけどほかの人が考えて発表したものは新味(ママ)がないので、既に出た正解は使っちゃいけないものになる。ですから答えはどんどん減ってゆくのだけれども、そんな中でも、キャラクターづくりの決まりごと・方程式はあるのだな、とわかってきました。
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引用元:コミックナタリー「月刊ヒーローズ創刊5周年特集 高橋留美子×白井勝也対談」
http://natalie.mu/comic/pp/heros03
 
 
いやはや、懐かしいですね。
高橋留美子は最初、僕が紹介した他の少年誌に持ち込んだんだけど、編集者が作品の魅力を見抜けなかった。そして小学館の少年サンデーに持ち込んだら「絵に色気がある」ということで、サンデーでやることになった。高橋留美子を逃した編集者はさぞかし悔しがってるだろうね。
この対談相手の白井さんというのは、僕が「スピリッツ」で『クライングフリーマン』などを連載していた時の担当編集者です。
余談ですが『クライングフリーマン』連載中に、主人公が所属している「百八竜」っていうマフィアの名前が、「俺たちの組織と一緒だ」といって、香港マフィアから呼び出されたことがありました。結局は「俺たちを有名にしてくれてありがとう!」といってたくさんプレゼントをもらって帰ってきたんですが、そうそうない体験でした。

劇画村塾時代については、板垣恵介も、こんなことを言っています。

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たった半年という短い期間で、売れる漫画を描くためのセオリーを十分に学ぶことはできましたか?
 
半年どころか、まさに入塾したその日にすべてに近いと言っていいほどのものを学びましたよ。講義ではなく入塾式での塾頭の挨拶で。しかもその挨拶の最初の一言だけですよ。そのあと10分くらい塾頭は話を続けられたと思いますけど、何も覚えていませんね。
それはどういった言葉だったのですか?
 
「キャラクターが立てば、マンガは必ず売れる。売れる売れないの全てはキャラクターにかかっている。」と言い切ってしまったんです。とにかく強烈なキャラでなければ売れないということです。「なるほどね~」と思いました。漫画というものが、自分の想像していたものと違ったことを思い知らされましたね。これでは何年やっていてもダメだったはずだ、と。この塾頭の一言で、「もうこれで学費の元は取れた」と確信しましたね。
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引用元:小池一夫ブログ「板垣恵介インタビュー」
http://lineblog.me/koikekazuo/archives/2990069.html

 
 
当時は「キャラクターを《起てる》ではなく《立てる》」と書いていました。でも、20年くらい前から、《「起承転結」の「起」》=《キャラクターを起てる》だな、ということで《キャラクターを起てる》と書くようになりました。

板垣君にはこのインタビューの後ろの方で「塾頭の講義は自慢ばかりだ」と書かれているけど、確かにそうかもしれません。
大学の学生さんの中にも「小池先生の話は自慢話ばかりだ」という人がいました。

実は…それもまた「キャラの起て方」の実践なのです。
聞き手がビックリするような派手な話、思いもよらない話を次から次へと繰り出して「自慢」をするということは、実は自らの《キャラクターを起てる》ことに他ならないんです。
ただ、気をつけなければいけないのは「それが面白いエンタテインメントになっているか」ということ。
面白くないと、ただの「自慢だけの話」になっちゃうんです。
お笑い芸人でも、自分のことをずっと喋ってるわけですが、面白いからずっと聞ける。でも、面白くない人が話すと、ただ出しゃばってるイヤミなやつになっちゃうんですね。
ニコニコ生放送の座談会で話した時に知ったのですが、椎橋寛君なんかは、「小池の自慢話は、キャラ起ての見本なんだな」というのを、当時から見抜いていたそうです。

今回、高橋君と板垣君のコメントを引用し、椎橋君のエピソードも紹介しました。これも、実は「キャラクターを起てる」秘術の一つなんです。

どういうことかというと、「第三者の言葉でキャラクターを起てる」です。以前、やりましたね。
主人公が自分のことを
「どうだ、俺様は強いだろう。空手十段だぞ」
というよりも、
「あいつは小学生の時に先生を再起不能にした」
と他人、第三者の口から言わせたほうがいい、ということ。
それと同じなんです。
「僕の考えたヒットの法則はすごいだろう」と自慢をするよりも、第三者が「小池のキャラクター論は参考になった」「実践してみたら、ヒットのためにはキャラクターが必要だとわかった」と言う方が、より伝わりやすい、ということなんです。

ということで、ちょっと余談が長くなりました。せっかくなので、今回は余談だけにしましょう。
以前もお話しましたが、今からちょうど40年前の1977年に「小池一夫劇画村塾」を始めて、漫画の面白さの秘密や、ヒットするために必要なキャラクターの起て方などを教え始めたとき、手塚治虫先生は
「あなたは原作者なのに、どうして漫画のことを教えられるのですか」
と言われ、梶原一騎さんには
「自分の手の内を明かして、敵を増やしてどうするンだ!」
と言われました。
(それについてどう答えたかは、ここ【https://電子書籍ランキング.com/koike_2/】で書きました)。

また、藤子・F・不二雄(藤本弘)さんは、
「小池さん、漫画のことを若い人に教えるのはとてもいいことだと思いますが、デビューできなかった人には嫌われるかもしれないから、やめたほうがいいンじゃないですか」
とおっしゃいました。
これは…確かにその通りかもしれません。
でも恨まれたり陰口を叩かれたたとしても、若い人にもっと活躍してもらって、漫画の世界の裾野を広げることがいいことだと思ったんです。
結果的に、周囲から反対があったのですが、高橋留美子君や板垣恵介君のように漫画の世界で大ヒット作家になったり、あるいはさくまあきら君や堀井雄二君はゲームの世界で大活躍したわけですから、まあ、間違っていなかったと思っています。

さらに、僕に最初に「漫画=キャラクター、キャラクター=漫画」ということを教えてくれた「伝説の編集者」と呼ばれた方には、
「そンなことより、もっと自分の作品を創ってよ。教えている暇があったら、何十本も原稿を書けるでしょう。才能は教えられないンだから」
と言われました。
これもごもっともです。
確かに、才能というものは教えられないかもしれない。才能がある人が遠回りするのを避けることはできる。
才能があるのに、つまらないことで遠回りしたり、通り方がわからずに立ち往生したりしている人に
「ここはこうすればいいんだよ」
「ここはこうやって突破すればいい」
と、先に迷った先輩として教えることはできる。
そして、自分の個性や才能が何なのかわからない人には、
「これがあなたの突出した才能だよ」
「君はこういうところが個性的だ」
と指摘することはできるんです。

この大編集者が「才能は他の人には伝えられない」というのは、その通りです。
でも、その人の才能を発見して本人が自覚し、武器として活用できるようにすることはできる。
その人の魅力を見つけて、本人に伝えることは出来るのです。
僕からすれば、
その人の才能=その人の個性
なのです。
キャラクターの魅力=その人の才能
なのです。

僕が、劇画村塾時代から、現在のキャラクターマン講座にまで、一貫して教えているのは、魅力的なキャラクターを創る方法。

それは、言い換えれば、
「作者その人の人間性の中から魅力を見つけて、
その魅力を作品の中に「キャラクター」として送り込むための技術、
他の人に伝わるように表現し、楽しんでもらうための技術」

なのです。

これからも、目の前に現れた魅力的な人の、その人自身が気付いていない才能を探して、キャラクターとして世に出すためのお手伝いをしたいと思っています。

もし、人生の中に「クリエイターとして生きる」という選択肢を持ちたいと考えている方や、クリエイターとしての一歩を踏み出したものの、壁にぶち当たってしまったと思う方は、小池一夫キャラクターマン講座の門を叩いてみてください。
第11期は2月からスタートです。
http://www.koikekazuo.jp/

それでは!

小池一夫

小池一夫キャラクターマン講座 第11期 http://www.koikekazuo.jp/

(次回は、12月21日掲載予定です!)

 

【コラム】「キャラクターマンPiP!(ピッピ)~全員集合~」はこちら

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小池一夫
作家・漫画原作者
 中央大学法学部卒業後、時代小説家・山手樹一郎氏に師事。70年『子連れ狼』(画/小島剛夕)の執筆以来、漫画原作、小説、映画・TV・舞台等の脚本など幅広い創作活動を行う。  代表作に『首斬り朝』『修羅雪姫』『御用牙』『春が来た』『弐十手物語』『クライング・フリーマン』など多数。多くの作品が映像化され、その脚本や主題歌の作詞なども手がけている。  また、1977年より漫画作家育成のため「小池一夫劇画村塾」を開塾。独自の創作理論「キャラクター原論」を教え、多くの漫画家、小説家、ゲームクリエイターを育てる。  主な門下生としては、『うる星やつら』の高橋留美子、『北斗の拳』の原哲夫、『バキ』の板垣恵介、『サードガール』の西村しのぶ、『軍鶏』のたなか亜希夫など多数。  ゲームでは『ドラゴンクエスト』の堀井雄二、『桃太郎電鉄』のさくまあきらなど。

 2000年以降は学校教育でのクリエイター育成に力を入れ、大阪芸術大学、神奈川工科大学の教授を歴任。現在は大阪エンタテインメントデザイン専門学校でクリエイターの育成を行う。  また、『子連れ狼』は最も早くに海外でヒットした日本漫画の一つであり、2005年、漫画界のアカデミー賞といわれる「ウィル・アイズナー賞」の「漫画家の殿堂入り」(The Will EisnerAward Hall of Fame)を受賞。  現在も漫画原作を書きながら、コミックコンベンションや講演会などで、日本国内や海外を飛び回っている。

小池一夫先生の著書

過去記事はこちら!

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