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第9回 キャラクターの3つの大切な要素とは?

キャラクターマンPIP!~全員集合~セカンドシーズン

第9回 キャラクターの3つの大切な要素とは?

2017年1月11日

小池一夫です。

魅力的なキャラクターに必要な3つの要素についてお話します。
僕はこれまで

「キャラクター原論3部作」
「キャラクター造形学」
「キャラクター新論」
「人を惹きつける技術」
「キャラクター創造論」
「リドル×ドリル キャラクターメソッド」

など、キャラクターに関するいろいろな本を書いてきました。
世の中のキャラクターについて、いろいろ掘り下げて考え、調べてみるうちに、ヒットするキャラクターに必要なものが、見えてきました。
(ここでいう「キャラクター」は、物語の登場人物のことを指しますが、それ以外の背景を持たない絵だけのキャラクター、あるいは「ゆるキャラ」的なマスコット的なキャラクターについても、共通したことがいえると思います)。

その3つとは、

1 「テンプレート」。

2 「ワンポイント」。

3 「ディティール」。

です。
「なーンだ、小池は当たり前のことを言っているなあ」
と思う方は、よくわかっていらっしゃる方です。
そうです。
当たり前のことです。
また、これまでのこの記事の中で言及しているかもしれません。
その場合も、おさらいのつもりで読んでみてください。

でも「なンだそりゃ?」という方もいらっしゃるでしょう。
そんな方に向けてお伝えしています。

それでは、1つずつお話しましょう。

(1) 「テンプレート」~突飛過ぎるキャラクターは感情移入ができない!

テンプレートというと、「類型」「雛形」「型紙」のこと。
何らかの「型にはまっている」ということです。

「えっ、小池さン、日頃からキャラクターの個性が大事だといっているのに、いきなり『型にはめろ』って、頭でも打って、おかしくなったンじゃねえの!?」

と思う方もいらっしゃるでしょう。
どういうことでしょう?

『北斗の拳』の主人公のケンシロウは、どういうキャラクターでしょうか?
マッチョな男で、革ジャンを着ています。
『うる星やつら』のラムちゃんは?
可愛らしい女の子で、鬼のようなツノを持つ、実は地球を奪いにきた宇宙人です。
『ドラえもん』は、まんまるな猫型ロボットで、『仮面ライダー』はバッタの力を持った改造人間。
『ドラゴンボール』の悟空は、尻尾のある天真爛漫な少年で、『ワンピース』のルフィは麦わら帽子を被った元気な少年です。

こうやって、
「だいたいこういうキャラクターだよ」
と言葉で伝える事ができる、ということですね。

時々、「キャラクターを一行で言ってみよ」と言うと、

「ドンメラボンの第一王子でコリッシュ種の最後の末裔」

と、独自の世界の言葉で表してしまったり、

「人知を超えた存在の一つで、形状できない頭部を持っている異次元の王」

のように、ビジュアル化できない表現をしてしまう人がいます。
魅力がさっぱりわからない。伝わらない。
あなたが、新人漫画家で、編集者に、キャラクターの説明をした時に、

「へえ、それ面白そうじゃン。もっと聞かせてよ」

と思わせるような、簡単でかつ面白さが伝わるキャラクターであること。
あるいはビジュアル的にも、ぱっと見て「だいたいこういう種類のキャラクターなんだろうな」と、年齢や職業、性格などが、ぱっと見でわかるということです。

キャラクターに個性をつけようとしすぎて、ゴテゴテにしてしまったり、これまで誰も見たことのない、見た人が拒絶反応を起こすようなビジュアルのキャラクターを生み出そうとしてはいけません。

……そのキャラクターを見た時に、どんなキャラクターであるかが、まったく理解不能なキャラクターや、生理的嫌悪を催すようなキャラクターだと、好きになるとか感情移入する前に、まずストレスや、不安感が生じてしまいます。

まず、ぱっと見て、だいたいわかる職業や階層がキャラクターの根底にあること。
第一印象で拒絶されないように、好感や安心感を与えるキャラクター造形にすることです。
紳士、職人、政治家、野球少年、女子高生、マッチョな男、不良、アイドル、アウトロー、仙人のような老人、農夫、ヒットマン、ひとのいいおばさん、色男、ギャンブラー。ヒーロー。悪の首領。
サムライや忍者、カウボーイ、カンフー使い、モンスターや魔術師といった、国や文化に根ざしたキャラクターもそうですね。

テンプレートというのは、何らかの文化的な類型にあてはまるキャラクターであること、言い換えれば、どこかで見たことがある人物、既存のキャラクターをベースにすること。最初に何らかのわかりやすく、馴染みのあるキャラクターのイメージがあると、とっつきやすく、安心感が生まれます。(もちろん、あとでそのイメージを裏切ってもかまいません)。

宇宙人や異次元人などの得体の知れないキャラクターを描く時には、人間に寄せる必要があります。
あまりにも、おぞましかったり、グロテスクだったりすると、そのキャラクターが善良であったとしても、生理的に人間として見れないので、感情移入が難しくなり、ドラマが描けません。キャラクターとして見ることが難しくなるのです。
『スターウォーズ』や『スタートレック』でもそうですが、異形の宇宙人も、人間の姿や感覚に寄せてキャラクターが造形されています。人間らしさがないと、愛されるキャラクターにはならないのです。
それは、キャラクターが「壮大すぎる」場合も同じです。キリスト教において「全知全能の神」が人間の姿をした「キリスト」となって現われて教えを説き、仏教においては「広大無辺な仏」を理解するために目に見える「仏像」が作られたように、人間が理解できるレベルの存在として、「わかりやすさ」のあるキャラクターが必要なのです。

テンプレートとは、「だいたいこんなキャラクターだろう」と、見た人、聞いた人に伝わり、親近感や安心感を与える、大まかなキャラクターのパターン、共通の文化的基盤を持つ人々の間にある共通のキャラクター像といっていいと思います。

(2)ワンポイント ~とンでもなく○○な✕✕

さて、「野球少年」とか「女子高生」とか「貧相なおじさん」「美人教師」といったテンプレートだけでは、【個性的なキャラクター】になりえないのはお分かりでしょう。
だったら、どうするか。
その「よくある✕✕というキャラクター」に、「珍しい」「突飛な」「すさまじい」「おもしろい」……要するに、「とンでもなく○○な✕✕」にする。
そのためには、「他にない何か」をつけてやればいいのです。

「野球少年」というテンプレキャラクターに何をつければ面白くなるでしょうか。
他にいない「女子高生」にするためにはどうすればいい!?
「貧相なおじさん」に何が加わればすごいキャラクターになるでしょうか?

なんでもいいんです。

たとえば「宮本武蔵の生まれ変わりの」というアイデアをつけるとしましょう。

「宮本武蔵の生まれ変わりの」「野球少年」。
すごいことが起こりそうですね。
「宮本武蔵の生まれ変わりの」「女子高生」。
これも面白い。
「宮本武蔵の生まれ変わりの」「貧相なおじさん」。
なかなか意外性があります。
「宮本武蔵の生まれ変わりの」「美人女教師」。
ハハハ。これもすごそう。

どれもそれなりに面白くなりそうでしょう。いくつかはすでに使われているかもしれません。
この「野球少年」「女子高生」「貧相なおじさん」「美人女教師」という、何気ない「テンプレート」に、先程の「宮本武蔵の生まれ変わり」や

「実は侵略宇宙人」
「謎の暗殺拳の使い手」
「実は凄腕ギャンブラー」
「実は未来から来たロボットに付きまとわれる」
「動物を使う殺し屋」
「閻魔大王の帳面を拾った」
「家族を殺され復讐を誓った」

……という他にない特徴をつけてやると、化学反応を起こして、「他にないキャラクター」になるのです。

ありきたりのキャラクターを、唯一無二の存在にしてしまう特徴。
それが「ワンポイント」です。

この「ワンポイント」とは、「過去」や「血筋」から来るものでも、「能力」から来るものでも、「願望」や「欲望」から来るものでも、「アイテム」や「他のキャラクターとの出会い」からくるものでもかまいません。

誰もが理解できるキャラクターの類型「テンプレート」に、とンでもない特徴「ワンポイント」。
これが、キャラクター創りの基本です。

(3)「ディティール」 ~どれだけ調べ、考え、手を動かしたのか

さて。
「テンプレート」と「ワンポイント」で、キャラクターの元のようなものができました。

でも、これだけでは、ダメなンです。
正直言って、言葉の組み合わせですから、コンピュータで自動的に作ることだってできます。

たとえば、「宮本武蔵の生まれ変わりの美人女教師」のキャラクターを創るとしましょう。
まず、宮本武蔵とはどういう存在なのか。
一般的には「二刀流の剣豪で、佐々木小次郎と巌流島の決闘をした人」でしょう。
もちろん、それだけでも、女教師に付けてやると面白いのですが、よく調べないままの知識で創ると、ワンアイデア、短編で終わってしまいますね。
だったら、宮本武蔵とはどういう人だったのか。どういう技を持ち、思想を持っていたのか。
宮本武蔵に関する本を20冊30冊と読んでみればいいんです。
(読むといっても、しっかり読むのは最初の5冊とか10冊ぐらいでいいんです。あとは調べるために斜め読みでもかまいません)。
実際に作品に使える情報はそのうちのごく一部かもしれませんが、
「武蔵のことなら、この界隈では一番詳しい」
「なんだったら宮本武蔵本人の作品だって描ける」
くらい勉強してみるのです。

こんなことを言うと、
「なンだ、小池は無茶なことを言うなあ。そんなこと出来るかよ」

と思う人もいるでしょう。
もちろん、作品の種類によっては、勉強が不要なこともあるでしょう。
でも、ネタ元となることがらについては、出来る限り詳細に調べることは大事です。
歴史小説の大家・司馬遼太郎さんは、あるキャラクターを書くと決めたら、それに関する本を買いあさり、神保町からその人物に関する本がゴッソリなくなってしまったといいます。
そこまでするかどうかは別ですが、綿密に調べることによって、キャラクター創りのヒントになることがたくさん得られることは確かです。

調べたら、「考える」ことです。
「宮本武蔵」のことを、とことんまで掘り下げて考える。
幼少期のこと、生い立ちのこと、人間関係のこと、時代のこと。彼が持っていた技術や道具のこと。服装や食べ物。社会の制度や規範。
突出した人物であった武蔵は、その時代の普通の人間と比べて、どのように違う思想や価値観を持っていたのか。
「武蔵のこと、こんなとこまで、掘り下げて考えているやつはいるかなあ?」
「今、この1時間で、世界中で一番武蔵のことを考えている人間だろうなあ」
というくらい考えてみる。
そして、キャラクターをプロファイリングする。
今回は、武蔵と女教師をくっつけるという話なので、 武蔵をくっつける女教師のキャラクターについても、掘り下げて考えてみる。
どういう女性なのか。運動音痴なのか。剣道をやっていたのか。荒っぽいのか。暴力が嫌いなのか?
そもそも教師という仕事はどういう仕事なのか、高校と中学ではどう違うのか。どういう勉強をしてきて、担当教科は何か。
宮本武蔵はどういう形で彼女に影響を与えるのか。才能を受け継いでいるのか。乗り移っているのか。彼女をどういう性格にすれば面白くなるか。
アクションがいいのか。青春学園物がいいのか。妖怪退治物がいいのか。
そして……どうやって、武蔵と女教師が出会うのか。
こうやって、キャラクターをプロファイリングしてみると、いろんなことが決まってきます。
たとえば、名前は宮本天流子さん、美人でスタイル抜群、27歳、音楽教師、音大出身のお嬢様。運動音痴で泣き虫……。元はオーケストラのバイオリン奏者で、祖父の遺品からある日、古いバイオリンを見つける……。
男と女、昔と現在、音楽と武術、荒武者と教師……。学校と戦場。ここまでくれば、アイデアはいくらでも出てきますね。
「こうしよう」と決めていくというよりも、「こうだろうな」と絞られてくるわけです。

キャラクターのビジュアルについても、同じです。
「美は細部に宿る」とか、「神は細部に宿る」といった言い方をしますが、どれだけ思い入れやこだわりを持って、そのキャラクターを創り、デザインし、手を動かし、描いているか。
それは、単に絵が緻密であるかないか、ということではありません。
要するに、作者は、どれくらい「愛」を持って、丁寧に描いているかです。
それは、読者に如実に伝わります。
それが作品のリアリティを高め、心を打つ表現を生み出す「ディティール」です。

このキャラクターの「ディティール」ですが、たとえば、最近ヒットした映画『この世界の片隅に』で例えてみるとよくわかると思います。

主人公は、戦時中、広島から呉にお嫁に行った19歳の女性です。これがわかりやすく、安心感をあたえる「テンプレート」ということになるでしょう。なるほど、そういうキャラクターか、短い言葉で、他人にわかるように説明できるわけです。
個性となる「ワンポイント」は、芸術家気質であること。すずさんは、絵が好きで漫画が上手く、人並み外れてノンビリしているのです。これは、演じる「のん」さんの声でさらにきわだちましたね。
しかし、やはり一番は「ディティール」。
この作品では、当時の広島や呉の町、文化や市民生活を綿密に調査し、アニメーションとして再現しました。
その細部のディティールが生み出す時代の空気感は、当然キャラクターの考えや言動にも影響を及ぼします。観ている者は、そこにリアリティを感じ、キャラクターに存在感、説得力を感じるのです。
そのディティールは、原作者を描いたこうの史代さん、監督の片渕須直さん、そして多くのスタッフが、この作品を創り出すために行った調査と思索に費やされた気が遠くなるような膨大な時間と、それを表現するための愛ある仕事によって生み出されています。
それがこの映画を観た人に伝わったからこそ、大ヒットにつながったのでしょう。

まとめてみましょう。
キャラクターには「わかりやすさ」「親近感」が必要です。そのためには「テンプレート」つまり、誰もが「こういうキャラなのか」と理解できる共通認識が必要です。
そして、そのキャラクターを他のキャラと区別するポイント「ワンポイント」が必要。これは、「ワン」ポイントというように、たくさんゴテゴテと個性をつける必要はありません。
そして、「ディティール」。
「そんなことまで調べたの!?」
「そんなに手がかかっているの?」
「そこまで計算されているの?」
「そんなことにまでこだわっているの?」
と、クリエイターはある種、一つのことに夢中になるとそのことしか考えられなくなり、他に何も見えなくなるモノマニアック(偏執狂的)なところがなければいけないと思います。(ちょうど、『この世界の片隅に』のすずさんにも、そういうところがありますね)。
一般の人が気づきもしないところが気になって、常軌を逸した、驚くほどの情熱をもって調査し、思索を重ね、こだわりをもって作り出された作品……クリエイターの息遣いや情熱、執念、あるいは隠そうともしない狂気のようなものがほの見えるような作品にこそ、人の心をとらえ、心を打つ魅力があるのだといえるでしょう。

それでは!

(次回、1月18日掲載予定です!)

 

【コラム】「キャラクターマンPiP!(ピッピ)~全員集合~」はこちら

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小池一夫
作家・漫画原作者
 中央大学法学部卒業後、時代小説家・山手樹一郎氏に師事。70年『子連れ狼』(画/小島剛夕)の執筆以来、漫画原作、小説、映画・TV・舞台等の脚本など幅広い創作活動を行う。  代表作に『首斬り朝』『修羅雪姫』『御用牙』『春が来た』『弐十手物語』『クライング・フリーマン』など多数。多くの作品が映像化され、その脚本や主題歌の作詞なども手がけている。  また、1977年より漫画作家育成のため「小池一夫劇画村塾」を開塾。独自の創作理論「キャラクター原論」を教え、多くの漫画家、小説家、ゲームクリエイターを育てる。  主な門下生としては、『うる星やつら』の高橋留美子、『北斗の拳』の原哲夫、『バキ』の板垣恵介、『サードガール』の西村しのぶ、『軍鶏』のたなか亜希夫など多数。  ゲームでは『ドラゴンクエスト』の堀井雄二、『桃太郎電鉄』のさくまあきらなど。

 2000年以降は学校教育でのクリエイター育成に力を入れ、大阪芸術大学、神奈川工科大学の教授を歴任。現在は大阪エンタテインメントデザイン専門学校でクリエイターの育成を行う。  また、『子連れ狼』は最も早くに海外でヒットした日本漫画の一つであり、2005年、漫画界のアカデミー賞といわれる「ウィル・アイズナー賞」の「漫画家の殿堂入り」(The Will EisnerAward Hall of Fame)を受賞。  現在も漫画原作を書きながら、コミックコンベンションや講演会などで、日本国内や海外を飛び回っている。

小池一夫先生の著書

過去記事はこちら!

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