『子連れ狼』の原作者、小池一夫氏の作品にはヒットする要素が満載です。
著書『小池一夫のキャラクター創造論 -読者が「飽きない」キャラクターを生み出す方法』では、キャラクターを起てることの重要性が述べられていますが、小池作品は、ヒットする、売るためのキャラクターの立て方を学ぶ良い教科書と言えるでしょう。
不朽の名作『子連れ狼』
「大五郎――!!」“しとしとぴっちゃんしとぴっちゃん♪”馴染みのあるセリフとメロディー。そう『子連れ狼』の有名なフレーズです。
『子連れ狼』は、1970年~76年にかけ漫画アクションにて連載され、幾度も映画化、ドラマ化され世界的ヒットを記録した不朽の名作です。水鴎流の達人で胴太貫を携えた元公儀介錯人、拝一刀と、その息子、大五郎とのさすらいの旅物語です。
柳生一族の手により妻を失い、その復讐を誓う拝一刀と、僅か3歳ばかりの大五郎の無邪気な可愛さという相反する2つの感情が物語の中で随所に見え隠れし、見るものを引き込んでいきます。大五郎を箱車(乳母車)に乗せて旅する姿や、父を呼ぶときの「ちゃん!」という言葉が愛くるしく、より一層引き立たせています。子連れの刺客という何とも訳ありの設定がインパクトがあり、そのキャラクターを起てたのが時代を超えて愛され続ける要因と言えます。
子連れ狼の原作者、小池一夫氏は、『子連れ狼』をはじめインパクトあるキャラクターを世に送りだし続けてきました。その創造力からヒット作の作り方を学んでいきたきと思います。
漫画原作者小池一夫とは
小池一夫氏はどのような人物なのでしょうか。
1936年秋田県大曲町(現大仙市)に生まれ、幼少期より大柄な体格で、ガキ大将だったそうです。
1968年、「少年マガジン」の原作者募集を見て応募したのをきっかけに、さいとうプロダクションに所属し、『無用之介』『ゴルゴ13』などの原作に携わります。
1970年に独立し、『ノスパイプ作戦』(ヤングコミック)で原作者デビューを果たし、ヒット作『子連れ狼』の発表後は売れっ子作家として名を馳せます。
2004年には、漫画界のアカデミー賞といわれるアイズナー賞において「漫画の殿堂入り」を果たしました。
現在、小池氏は漫画原作、小説、作詞、ドラマ・映画・舞台の脚本など幅広い創作活動を行っています。
代表作は、先に紹介した『子連れ狼』をはじめ、『首切り朝』『クライングフリーマン』『御用牙』『修羅雪姫』など多数あり、世界的ヒットを記録しています。多くの作品が映画化やドラマ化され、クエンティン・タランティーノやジョン・ウーなど海外にもファンを持ち、映画界にも影響を与えています。
また、漫画家養成のための私塾「劇画村塾」を開講し、多くの漫画家、クリエイターを育成してきました。その卒業生には、高橋留美子、原哲夫、板垣恵介、堀井雄二、さくまあきら、山口貴由、椎橋寛などそうそうたる名前が連なります。現在は、キャラクターマン講座と名前を変え、後進の育成にあたっています。
小池一夫作品の特徴
当初(1970年代)の小池作品は、バイオレンスでアナーキーな時代劇作品が特徴です。
アメリカでもヒットを記録した時代巨編、『首斬り朝』では、将軍の佩刀の切れ味を様(ため)す幕府御様(おため)し御用を題材とし、三代目山田朝右衛門が土壇場(首斬り場)で刀を振りかぶるときの心情を描き、勝新太郎主演で映画化された捕物アクション『御用牙』では、かみそり半蔵と呼ばれ、江戸中から恐れられる鬼同心、板見半蔵が粋な啖呵と危なすぎる切れ味で、下手人を挙げる痛快さが人気となりました。
また、アクションヒロインの最高傑作『修羅雪姫』は、明治時代の女刺客の物語です。父を殺した4人に復讐するために、母は監獄の中で、誰の子とも知らぬ娘を生み落とします。母の怨念を背負った雪が復讐を果たすために生きるという悲壮の物語ですが、梶芽衣子主演で映画化されたり、タランティーノが『キル・ビル』の中で引用したことでも知られています。
1980年代以降になると、時代劇から離れ、キャリアの中で唯一の少年誌ラブコメ『ラブZ』といった娯楽性のある作品も発表しています。
また、ハリウッドでも映画化され、アニメ化もされたアクション大作『クライングフリーマン』は、チャイニーズマフィア百八竜に殺し屋としての催眠教育を受け、その才能を開花させた陶芸作家の物語です。人を殺すために己の宿命に涙を流す主人公、火野村窯の心情を描いています。
イギリスの名門オークションハウス「オリバー社」に父母の仇への復讐を胸に秘めた日本人柳宗厳を描いた『オークション・ハウス』など扱うテーマも幅広くなってきました。
そのいずれにも共通するのが、主人公のキャラクターのインパクトではないでしょうか。クールなようでどこかに闇を抱えている謎めいた部分と、それを他の登場人物が引き立たせるといった構成が、見るものの印象に残り、その謎解きを一緒に楽しむかのように引き込まれていきます。
小池作品をヒットの作り方を学ぶ良い教科書
小池一夫氏の作風は、著書『小池一夫のキャラクター創造論 -読者が「飽きない」キャラクターを生み出す方法』でも述べられている通り、キャラクターを起てることに重きを置いているのがよくわかります。著書の中では、小池氏のキャラクター創造論が語られていますが、人を惹きつける魅力的なキャラクターの創り方や、心を動かし、興奮や感動を呼び起こすキャラクターの動かし方、また時代や国境を越えて活躍できるキャラクターの活かし方を学ぶことができます。そうした視点から見ても、小池作品にはヒットする要素が満載で、時代を超えた名作であるのも納得できます。小池作品は、ヒットする、売るためのキャラクターの立て方を学ぶ良い教科書と言えるでしょう。
作家・漫画原作者
中央大学法学部卒業後、時代小説家・山手樹一郎氏に師事。70年『子連れ狼』(画/小島剛夕)の執筆以来、漫画原作、小説、映画・TV・舞台等の脚本など幅広い創作活動を行う。
代表作に『首斬り朝』『修羅雪姫』『御用牙』『春が来た』『弐十手物語』『クライング・フリーマン』など多数。多くの作品が映像化され、その脚本や主題歌の作詞なども手がけている。
また、1977年より漫画作家育成のため「小池一夫劇画村塾」を開塾。独自の創作理論「キャラクター原論」を教え、多くの漫画家、小説家、ゲームクリエイターを育てる。
主な門下生としては、『うる星やつら』の高橋留美子、『北斗の拳』の原哲夫、『バキ』の板垣恵介、『サードガール』の西村しのぶ、『軍鶏』のたなか亜希夫など多数。
ゲームでは『ドラゴンクエスト』の堀井雄二、『桃太郎電鉄』のさくまあきらなど。
2000年以降は学校教育でのクリエイター育成に力を入れ、大阪芸術大学、神奈川工科大学の教授を歴任。現在は大阪エンタテインメントデザイン専門学校でクリエイターの育成を行う。
また、『子連れ狼』は最も早くに海外でヒットした日本漫画の一つであり、2005年、漫画界のアカデミー賞といわれる「ウィル・アイズナー賞」の「漫画家の殿堂入り」(The Will EisnerAward Hall of Fame)を受賞。
現在も漫画原作を書きながら、コミックコンベンションや講演会などで、日本国内や海外を飛び回っている。
コラム掲載:小池一夫のキャラクターマンPiP!(ピッピ) ~全員集合!~
※毎週水曜日定期更新