本が好きで、読みつづけている。
好きで読みつづけていたら、いつからかそれだけでは足りなくなって、文章や言葉で人に紹介したくなったり、自分でも書いてみたくなったり、本と人とが出会う場所―—本屋につよく惹かれるようになったりしていた。
私はいま36歳で、ありがたいことにそのすべてを仕事にできている。
自分には不相応なくらいの奇跡的なその幸福について、けれど言葉として振り返ったことが、これまであっただろうか。
いまいちばんに大切にしたいと思える仕事のひとつに、本屋が企画するイベント、というものがある。4年前の2012年7月、下北沢にオープンした「本屋B&B」という新刊書店で、私は日々、一冊の本から生まれる企画について考えている。
お店のコンセプトは、「これからの街の本屋」。通常の書店営業にくわえ、毎日イベントを開催している。このイベントは、オープン以降一日も欠かすことなくできていて、それを人に話せば決まって驚かれるのだけれど、できているのは、新刊本が日々発売されているという頼もしい現実があるからこそで、むしろイベントにできなかった本のほうがずっと多かった。そう考えると、くやしいなあと思う。
B&Bのイベントは、1500円の参加料と1ドリンク代をお客さまからいただいている。単行本を一冊買って、喫茶店でコーヒーを飲みながら気ままに過ごす時間と、ほぼひとしい値段になる。本は一度自分のものにしてしまえば、いつどこで読んでも、読みかけのまま何年置いておいても、何度読み返しても、それは持ち主の自由だ。本が一冊あれば、一生だって楽しめる。
けれどイベントとなるとそうはいかなくて、2時間という限られた時間のなかで、本を読むことと同価値の“読書体験”を持ち帰ってもらわなければいけない。そしてそこには、作者がいて、読者がいる。本がイベントになることで作者と読者が実際に出会う、という非日常を、わたしたちは作っていることになる。
本は出会うタイミング次第で、その人の人生さえ左右してしまうほどの力を持っている。この本が世界に存在しなかったら……、と想像すると、自分の存在さえ同時におぼつかなくなってしまう本が、私にもある。本って実は相当なキケンブツであることに、はたと気づく。
それでも、作者と読者のあいだに敢えて立ち入って、一冊の本からイベントを企画するという行為に、なぜこうも夢中になってしまうのだろう。本来なら密やかなおこないであるはずの読書に、なぜ新しいかたちを与えてみようと思うのだろう。自分自身に、問いかけてみたくなった。
この連載では、じっさいに私が一冊の本と出会い、そこから何をひらめき、どう企画していくかというその思考のみちすじを、書いていこうと思っています。
本をつくる人がいること、それを読む人がいること。本に関わるすべての人に、感謝と敬意を表しつつ。
どうぞよろしくお願いいたします。