『バガボンド』、『ドラゴン桜』、『働きマン』、『宇宙兄弟』など、数々の大ヒット作品を担当した敏腕編集者、佐渡島庸平氏。名門の灘高校から東大へ。そして講談社に入社するという輝かしい経歴を持ちながらも、現在は講談社から独立し、作家をエージェントする会社「コルク」を立ち上げました。現在15名ほどの作家が所属しており、彼らの才能をファンが存分に楽しむことができるコミュニティを形成する手助けをしています。
講談社の社員という恵まれた環境を捨てて、出版業界やコンテンツ業界に一石を投じる変革者として生きる道を選んだ佐渡島氏。電子書籍の現状や未来、そしてコルクで実現していきたいことについて伺いました。
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ITの出現で感じたビジネス環境の変化
――佐渡島さんがコルクを立ち上げようと思ったきっかけを教えてください。
インターネットやスマートフォンなどのITの出現によって時代が急速に変わろうとしていると感じていました。その変わりつつある時代を、ただ見ているだけじゃなくて、思いきり楽しみたいと思ったのが一番のきっかけですね。
そのITの広がりによってコンテンツビジネスの仕組みも、既存の価値観が通用しなくなるくらい、これからも大きく変わっていくと思います。そこで僕は、誰かが与えてくれた枠組みの中で動くよりも、世間がどのように変わっていくのか自分で仮説を立てて、それをもとに行動したいという気持ちが強かったんです。僕は10年間、講談社で編集者として出版業界に携わってきました。でも今まで以上にもっと仕事を楽しみたかったので「作家さんにとってベストな新しい枠組みをつくってみたらどうだろう」という、一つの仮説を立ててみたんです。作家さんが良い作品を生み出して、それを世間にどのように広めていくかを考えたとき「コルク」が必要だなと思いました。
――過去に佐渡島さんはコルクを立ち上げた理由を「好きなマンガ家さんとずっと一緒に仕事をしたい。仕事を楽しむために講談社を辞めて、この会社を立ち上げた」とお話しをされていましたよね。
やはり、出版社の仕組みだと一人の編集者が一人の作家さんをずっと担当することが難しいんです。会社なので、部署異動とかもありますし。だから自分の会社で作家さんと最後まで一緒にやっていきたいという想いもすごく強くありました。
作家が活躍できる仕組みを提供したい
――コルクを立ち上げられた当初は、具体的にどのようなことを始めようとしていたのでしょうか?
作家のエージェントをするというのは決まっていたんですけど、それ以外にインターネットの知識などが全くなくて、今やっていることとかは全く考えていませんでした。やりながら知識を集めてって感じですね。
――作家さんにエージェントが必要だと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
例えば、『宇宙兄弟』という作品は自分が講談社にいたら、担当者として完結を見届けることはできないと思います。安野モヨコさんに対して、一生かけて担当したいと思っても、出版社の仕組みだと絶対にできません。なんとなくそれが寂しいなと思っていて、それを解決する方法がないかなとぼんやり考えていました。
――なるほど。一人の人がエージェントとして万全のサポート体制をとった方が、作家さんのためになるということですね。
そうですね。
一般的なメディアとは別のルートを持つことが重要
――2012年に佐渡島さんは「4年後から5年後くらいにネット上で収益を出せる時代が来るのではないか」とおっしゃっていました。それからちょうど4年たった現在、ネット上で収益を上げる方法は確立されてきているのでしょうか?
いえ、確立されてないと思います。まだ厳しい状況ですよね。日本はネット上にアップロードされているマンガとか小説のコンテンツの量が少ないですし、電子書籍というのはあまりインターネット的じゃないですよね。ネット上でコンテンツが拡散されるためにはSNSでのシェアが重要だと思うのですが、電子書籍はシェアされにくい。さらに、電子書籍は本文をそのままネット検索できないので、そういう意味でインターネット的じゃないです。
――現在、電子書籍のプロモーションは「1巻~3巻無料!」というように割引することが多いと思いますが、こうした販売方法についてはどのようにお考えですか?
電子書籍に関しては、安売りしかプロモーションがないというのは格好悪いですよね。良いブランドって安売りしないですから。だから良い作品でも安売りしないと見つけてもらえないというやり方は、作家さんから作品を預かっている身としてあまり良くないやり方だなと感じています。
でも今はウェブ上のプロモーションの手段は割引しかないので、それをやってしまうんですけど……。早くそこから脱したいですし、脱さないとダメだなとは常に思っています。
――そこから脱却するための具体的な良いアイデアはあるのでしょうか?
まずはファンクラブを作ることです。作家さんや作品のことを深く理解してくれる人たちに対して、ファンクラブを通すと丁寧に情報を伝えることができます。
今はウェブ上の情報量が多すぎるので、一般的なメディアで作品のことを告知しても、その情報がファンの人に届かないことが多いんです。
なので、一般的なメディアとは別のルートを持つことが重要だなと思っています。ファンの方々は作品を安く買いたいのではなくて、より良い作品を欲しいと思っているので、結果的にファンの要望に応えることができると思っています。『宇宙兄弟』はそういったファンの方々がすごく増えてきている例です。ファンクラブを通して、作者の小山宙哉先生のインタビューを、小冊子付きのシングルCDにしたら、多くのファンに購入してもらえるんです。それはファンクラブが一つのプラットフォームとして機能していて、作家さんとファンがより密接につながることができるからこそなのだと思います。
――なるほど。ファンの方へ直接宣伝していくのですね。ところで、佐渡島さんは電子書籍を読まれますか?
電子書籍じゃないと読まないですね! 紙書籍はほとんど買わないです。電子書籍化されるのを待ったりもしますね。紙書籍だと重いんですよね。鞄も小さいものしか持たないので、単行本だと1冊しか持ち歩けない。電子書籍だと持ち運びが便利ですね。AmazonのKindleのタブレットを使っていますが、本当に便利です。
――電子書籍だと際限なく作品を持ち運べますからね。ご自身が担当された作品以外で、好きなマンガがあれば教えてください。
最近だと、『ザ・ファブル』が大好きです。『高台家の人々』も面白いですね。
――ほかにもこれまで影響を受けた本やマンガはありますか?
『スラムダンク』や、『寄生獣』ですね。ドベタです。僕は結構ベタが好きなので。
電子書籍は紙書籍の代替物にはならない
――紙書籍が売れなくなってきていると言われていますが、出版業界やコンテンツ業界において電子書籍は今後どのような役割を担っていくと思いますか?
僕は、電子書籍は紙書籍の代替物にはならないと思っているんですよ。現在の電子書籍の仕組みは不便ですからね。やはりインターネット的な仕組みが出てこないとダメだなと思っています。具体的には、お気に入りの作品をシェアしたり、電子書籍内の本文を検索したりできるような仕組みができればと思います。あとは、ファンクラブだったり、感想を伝え合うようなCGM(消費者生成メディア)的なものがセットではないと、出版業界の成長は厳しいかもしれませんね。
今までにない方法でヒット作品を出したい
――佐渡島さんは、昨年の12月に著書『ぼくらの仮説が世界をつくる』を出版されました。それ以外にもさまざまなメディアに露出されているように感じるのですが……?
僕がやっているビジネスは、他の人から見るとまだ分かりにくいんだろうなと思っているんです。しかし、僕がやっていることを理解してもらって、賛同者をさらに増やしていきたいと思っています。そこで、積極的にメディアへ出て自分の考えを話して、協力してくれる人を募っているんです。
ベンチャー企業は力が限られているので、僕の理念に賛同している人と一緒に、より大きい規模の仕事をしていきたいと思っています。こうして、考え方を話させてくれるところや話を聞きたいという人がいるのなら、時間を割いて話していくことにしていますね。
――最後に、コルクとして今後実現したいことはありますか?
やはり今までにない形で作品をプロモーションして、大ヒットを作りたいです。「なるほど、そういう売り出し方があったのか」と世間が思うような、大きな波を生み出したいですね。
作品を発表すると、作家も居心地よく仕事ができるような、仕組みを生み出せるといいなと思いますね。
佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
1979年生まれ。南アフリカで中学時代を過ごし、灘高校、東京大学を卒業。2002年に講談社に入社し、週刊雑誌「モーニング」編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)など、数々のヒット作の編集を担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、株式会社コルクを同年に設立、代表取締役に就任。初の著書『ぼくらの仮説が世界をつくる』がダイヤモンド社より絶賛発売中。
コルク:http://corkagency.com/
Twitterアカウント:@sadycork
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マンガ家・羽賀翔一(はが・しょういち)の短篇集。描きおろし作品「ZOOO」に加え、2011年に週刊モーニングで短期集中連載した「ケシゴムライフ」、『宇宙兄弟』の公式ムック「We are 宇宙兄弟」VOL.04~07に掲載した短編作品、2013年春に発表した面白法人カヤックをモデルに描いた「ならべカヤック」、「追いぬきルーキー」を収録。
羽賀翔一先生HP:http://hagashoichi.com/