» page top
roku

電子書籍で感動が甦る! 漫画家・六田登先生が語るストーリー作りの秘訣とは!?
2016年6月30日


今回のインタビューは、主人公・軍馬による「何人(なんぴと)たりとも俺の前は走らせねぇ」というセリフでお馴染みのレースコミック『F』の生みの親、六田登先生です。『ダッシュ勝平』や『TWIN』、『ICHIGO』をはじめとして数々の名作を電子書籍化し、自身のTwitterでは作品を数ページずつ投稿しています。そんな先生に、漫画のストーリー作りや、電子書籍へのお考え、そして、六田先生が好きな漫画やおすすめの小説についてお伺いしました! さらには現在制作中の新作の情報も!? 名作の誕生秘話もじっくりと語っていただきましたので、ぜひ最後までお読み下さい!

00000018

※『F』1巻より

大切なのは、目標とそれを阻止する最初の設定

――まずは、六田先生の漫画の描き方についてお伺いします。漫画家の中では、キャラクターを自分の思い通りに動かすことができるという人と、キャラクターが勝手に動いていくという人がいると思うのですが、六田先生はどちらのタイプでしょうか? ストーリー作りの極意を教えてください!

 

それはいろんな漫画家さんがいるでしょうけど、僕にとって創作は体験だと思っています。ストーリーの作りの入口として、例えば「空を飛びたい」という欲望を持つ主人公がいるとします。すると作者は彼を到達点から遥か遠くに設定します。たとえば「豚」だとか。けど彼は空を飛びたい、そうすると主人公が木に登ったり、減量したり、いろいろ努力します。あがくわけです。つまり、最初に欲望を決めて、それを阻止するための真逆の設定を作ることによって、欲望があるからそれに向かって努力したり、あがいたりするその過程がストーリーになります。「空を飛びたい豚」を思いついたときに、作者が彼と行動を共にする前に、予め到達点や気づきを決めてしまうと、物語の中で共に経験していないので、ステレオタイプの答えしか出てこない、ストーリーがありきたりになってしまいます。そうではなくて「空が飛びたい」「豚」と共に苦労して固有の経験を積むのです。主人公は空を飛ぶために一生懸命苦労します。作者も描きながらどうやって豚を空に飛ばそうかと苦労して学び、共に泣きます。創作というのは、作者も主人公と同じように体験して、ようやく何かにたどり着く作業のことです。ですから大切なのは、目標とそれを阻止する最初の設定(枷)であって、共に経験することなんです。

 

――先生の代表作であるレースコミック『F』を作るときに最初に設定した目標は何だったのでしょうか?

 

主人公の軍馬はレーサーになることが目的ではなくて、父親を認めさせるという目標を達成するためにたどり着いたのがF1だったんです。免許も持っていないし、教習所にいったら教官に怒られるし……。それを同じように体験しないと、絶対あのラストには行き着かなかったんです。ある程度ストーリーの流れを作ることはするけど、型にはめてかっちり作ってしまうと、それをなぞるだけのありきたりなストーリーしか描けなくなってしまいます。自分も軍馬と同じように体験します。『F』を描く前は、12巻でヒロインのユキが自殺するなんて考えてもいませんでした。それを軍馬も重く受け止めるから、全てを捨ててロンドンに行くわけです。でもまあ軍馬が再度レースに目覚めるまで苦労するんです。だから純子がロンドンに来てくれないといけないんですが、なかなか来てくれないし。ようやく来たと思ったら、ピーボーという軍馬の親友と一悶着あって、もう収拾つかなくなってしまうシーンがあります。軍馬が部屋の中で暴れまくるんだけど、あれは作者も一緒に暴れています(笑)。そうして一晩暴れて、窓を開けたらきれいに虹が出ていたんです。これは連載前にキャラのイメージもプロットもできていて、あとはネームを描く段階だったんだけど、なぜか勇気が出なくて、そんなとき編集者からの電話で「虹」って言葉が出てきて。それがなぜか僕の背中を押してくれて描き始めたんです。実際に虹が出てくるのは単行本の20巻なんですが、『F』を象徴するフラッグシップようなアイテムになっていて、軍馬の心が荒んでいるときに現れます。ただそれだけなんだけど「あの虹を見ているとやたらと泣けてくる」っていう投書をもらったときは、嬉しかったですね。虹は掴むことのできない実体のないものですが、レースなんかも同じです。実体のないものを追いかけて人が死んだり裏切ったり、ぐちゃぐちゃになったり。自分の人生で体験したことしか描けないから、作者も軍馬と同じように作中を生きて、ぐちゃぐちゃにならないと見つけられません。創作は体験なんです。

キャプチャ

※『F』20巻より

 

>次ページ「電子書籍について、先生のお考えとは!?」



過去記事はこちら!

「映画には人生を変える力がある」『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』前田哲監督インタビュー

20181130_155606
講談社ノンフィクション賞と大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』が、今月28日(金)に公開されます。本作は、筋ジストロフィー症を患っている主人公・鹿野靖明と鹿野さんを支えるボランティアの克明な記録とともに「生きる」とはど...(2018年12月26日) >もっとみる

本は日用品 『本屋の新井』の著者・新井見枝香さんの哲学

unnamed
 「新井さんがプッシュした本はヒットする!」という都市伝説(?)もあるほどのカリスマ書店員が三省堂書店にはいる。それが今回『本屋の新井』を出版した新井見枝香さんだ。 本を読む人が減り、書店も年々減り続ける状況のなか、それをもろともせず、独自のアイディアで本を売り、テレビやラジオなど...(2018年11月16日) >もっとみる

ラブコメ王・瀬尾公治先生が描く少年漫画編集部の熱い現場が舞台の『ヒットマン』

51W+hCWmhzL (1)
 『涼風』、『君のいる町』、『風夏』と3作連続アニメ化され、ラブコメ王ともいえる瀬尾公治先生。  今回は、最新作で新人編集者♂と新人マンガ家♀が少年漫画編集部を舞台に週刊20Pに命を懸ける情熱を描いた『ヒットマン』が10月17日に発売された。...(2018年10月29日) >もっとみる

どうして目がよくなると若返るの? 著者・日比野佐和子先生と、監修・林田康隆先生に聞いてみた

4
  関連記事一覧【立ち読み連載】日比野佐和子先生の新刊『目がよくなると 10歳若返る』 ←毎日17時更新!!//   10月に発行されたゴマブックスの新刊『目がよくなると、10歳若返る』。この本の著者である日比野佐和子先生は、『眼トレ』をはじめ累計55万部を超える著書のほか、アンチエイジング専門医としてテレ...(2018年10月25日) >もっとみる

直木賞受賞島本理生さん 『ファーストラヴ』というタイトルに込めた想い

IMG_4328(I)のコピー
今回は芥川賞に4回、直木賞に2回ノミネートされ、第159回直木賞が念願の受賞となった島本理生さんです。 受賞作の『ファーストラヴ』は、ある事件をきっかけに見えてきた家族間の闇に迫るミステリー風の作品となっている。 電子書籍ランキング.comでは、受賞した思いから作品への思いまでをお伺いしました。...(2018年09月28日) >もっとみる