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電子書籍で感動が甦る! 漫画家・六田登先生が語るストーリー作りの秘訣とは!?
2016年6月30日


紙書籍であるか電子書籍であるかというのは、あくまで表現の手段の違いです
――先生は京都精華大学で特任教授をやっていらっしゃいましたが、どのようなことを学生に教えていたのでしょうか?

 

先ほどお話した創作全般、物語世界を構成する5種類の人物像とか、多岐にわたりますが、彼らが職業作家を目指す以上、雑誌について言及することもよくありました。

雑誌が売れることを含め、元気でトップランナーでいるためには3つの条件があると思っています。大きな三角形、小さな三角形、そして今日性、この3つです。

大きな三角形というのは、アンケート調査の得票率グラフのことで、雑誌では得票率が30%あると購買意欲に繋がるというデータがあります。僕が「スピリッツ」で連載していたときは、1位から3位までの作品が30%台だったのでとても元気でした。ところが1位が30%以上とっても、それ以下が10%台だと雑誌は元気をなくします。グラフもL字形になりますし。ただ忘れてはいけないのは、残り70%です。得票率というのは、100に対してのパーセントです。雑誌を買ったら目当ての3作品くらい読んでしばらく放っておくけど、捨てる前にはもったいないから目当てじゃない作品も読みますよね。そうして今まで知らなかった作品も好きになって、これが雑誌の多様性、豊穣な漫画文化に繋がっていくんです。

それで小さい三角形というのは……。例えば「このジッポ・ライター2万円で買わない?」って急に言われても躊躇するでしょ? ところが、第三者が「え!これ2万円で売るんですか!?僕が買いますよ!だってこれ金属が貴重で……」なんて言いはじめたら、「いやいや、私が先に買うことになってたので買います!」ってなるでしょ? ちょっと詐欺みたいな話に聞こえますが、経済活動というのはサプライヤーとユーザーと、それから善意の第三者を頂点とする三角形がないと成立しにくいのです。本の場合、善意の第三者というのが出版社です。作家と読者の間だけでは心許ないから、出版社という信用機関が必要です。編集者が書く、作品の扉の「あおり」や、ラストページの「はしら文句」なども大きな役割を果たしています。出版文化を担ってきた出版社は、長い時間をかけて大きな信頼を勝ち得てきました。今後、ますますその役割は重要になってきます。

 

――なるほど。デジタル雑誌の場合は、紙の雑誌とは何が違うのでしょうか?

 

デジタル雑誌だと、目当ての作品しか読まないから、アンケート調査が三角形じゃなくて、L字形になっちゃいます。デジタルで配信している作品を雑誌としてくくれたとしても、好きな作品しか読まないから、その前後で何を連載しているか分からないよね。でも紙の雑誌はそんなことなくて、例えば『F』を連載していたときにパロディで他の連載作品のキャラクターを出して遊んでみたり(笑)。連載の中でちょっとしたキャッチボールをすることで一体感が紙の雑誌の中ではあったけど、デジタル雑誌だと前後は何を連載しているか関係なくってアンケートはL字形になってしまう。それでは雑誌の意味がなくなりますね。

 

紙雑誌デジタル雑誌

※イメージ図(編集部作成)

 

3つ目の今日性の問題は、社会の構造基盤の変化です。紙の雑誌の場合はどこか彼方から文化がやってきます。東京でもいいし、ニューヨークでもロンドンでも。つまり、読者は各地に物理的に縛られていて「今」が向こうからやってくるのを待っていたんです。一方、デジタル雑誌の場合は作品をサイトに置いておけば、読者はスマホなどを使って読みたい作品を検索して読みます。それはつまり読者からするともう「今」が彼方からやってくるんじゃないんです。むしろ翼を得た読者側が「今」を決定するんです。「今日性」を紙の雑誌が提供できなくなったのは、大きな問題なのかもしれません。大きな三角形の崩壊で「多様性」を失い、社会の構造変化によって「今日性」を担保できなくなり、そのことで売り上げが落ち込み、小さな三角形までも自信喪失という状態に……。しかし、何度も言うようですが文化の担い手としてそれぞれの「役割」は変わりません。時代に合わせてシフトすることが必要でしょう。

 

――六田先生は、過去に紙書籍で出版していた作品を多く電子書籍化しています。先生が電子書籍に対して積極的なのはどうしてでしょうか?

 

紙書籍であるか電子書籍であるかというのは、あくまで表現の手段の違いです。目的じゃないから、手段として幅が広がるならやっていこうと思いますね。単純に食わず嫌いや、アレルギーだけで「電子書籍化しない」と言ってるんだったら、それはもったいないなと思うんです。僕が電子書籍を始めたのは25年前、37歳のときです。すごくスペックの低い時代にお金をかけてパソコンを5台導入して、当時「六田は忙しすぎて頭がおかしくなった」なんて言われました(笑)

 

――25年も前から電子書籍に取り組んでいたんですね!

 

そうそう。いや今では本当に笑い話。電源入れてから8分待たないとパソコンが立ち上がらないような時代ですよ。でも、なんでそれをやったのかというと、当時、週刊2本と隔週1本を連載していて、もう机の前から離れられない。編集者はずっとへばりついているし、スタッフも寝ずに5人くらい常駐していました。創作することが体験だとは言っていたけど、単純にインプットとアウトプットの関係に陥っていくことに危機感を感じていました。スペックが低くてもパソコンを入れたのは、「データ入稿」が目的だったんです。とにかく机の前から逃げたくて(笑)。パソコンで絵を描くことが目的ではなくて、単純にその描いた原稿をデータ入稿できるんじゃないかと思って始めてみたんです。でも実際は、印刷会社の人もデジタルのハウツーが分からないから、当時は、紙面になったら海賊版みたいになっちゃってました(笑)。

 

――それでもやはり「データ入稿」しようとしていたんですね。

 

紙が最終目的というわけではないし、その表現そのものも結局は手段でしかないんです。「漫画が合わなくて、音楽の方がいい」と思ったらそっちをやるかもしれないというような感じで、手段として選んでいますから。そりゃあ、自分の漫画が単行本になったときはもう子どものように嬉しいんですよ。抱いて寝るくらいに(笑)。でもそれとこれとは別問題で、漫画家になることも雑誌に載ることも目的ではなくて、あくまで手段なんです。消しゴムかけやトーン貼りだって大事な仕事だっていうのは分かるけど、絵がうまくなるわけでもないし、あまりクリエイティビティーの高いとはいえない地道な作業ですよね。漫画家は絵も描かなきゃいけないし、ストーリーも作らないといけないし、文章も書けないといけない。こんなに多様な才能が必要なのに、その上地道な作業をやらなければならないなんてもう大変なんです。その分デッサンしたり、本を読んだり、取材に行ったりすることが必要だってことは身にしみて感じていて。週刊2本と隔週1本を連載してたら、そりゃもう寝る時間もないって時代だったから、デジタルにその解決の突破口を見い出したって感じですよね。

 

――導入した当初はパソコンのスペックの低さで苦労されたというエピソードがありましたが、現在は著者として、電子書籍のメリット・デメリットはどのように考えていますか?

 

まだはっきりとは言えません。単純にデータ入稿はできるけど、いまだに仕事場に来て原稿を描いていますし。それでも電子書籍化したことで新たな発見があって、『F』の続編の『F REGENERATION瑠璃』は、内容もダークだったんですが、うちのスタッフが背景を描き込む人が多いこともあって、暗くて重いなって連載当初は思っていたんです。でも電子書籍版を見たらもう「すっげえ! 映画みたい!」って思いました(笑)。透過光と反射光っていうのかな。紙書籍の場合は、実際に紙がある距離でしか絵を見れませんが、電子書籍の場合はずっと奥まで続いているような、ある種の深みを感じることができる絵になるんです。それで「連載していたときは文句言ってたけど、いい背景描いてたな!」ってわざわざスタッフに言ったくらいです。電子書籍版を見て「いい背景だ」って発見するくらいなので、まだメリット・デメリットなんてはっきりしたことは言えません。

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※『F REGENERATION瑠璃』1巻より

 

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