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時代を切り取る小説家・朝井リョウ先生が描くこれからのこと
2016年7月7日


今回は、2009年に『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞し、大学在籍中に衝撃のデビューを果たした、作家・朝井リョウ先生にご登場いただきました。

実は、今年7月にテレビアニメ『チア男子!!』の放送が開始され、10月には実写映画『何者』が公開予定と、朝井先生の作品を、映像としても楽しめる年なんです。朝井先生は、大学卒業後、会社員として就業しながら小説を書く兼業作家でしたが、昨年会社を辞められました。今回は、朝井先生にとって「小説家」とは何か、「本」とは何か、そして今だからこそ書きたい作品について伺っていきます。今の朝井先生の眼に映る風景とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
また、本サイト定番の電子書籍についての質問では、興味深い回答をいただきました……! 最後まで、朝井先生の魅力をたっぷりとお届けします。
写真=飯本貴子

 

朝井先生1r

フィクションに甘えずにリアリティを求めて書くことはすごく大切にしています

――7月にテレビアニメ『チア男子!!』の放送がスタートします。おめでとうございます! ご自身の作品がはじめてアニメになりますが、今のお気持ちを教えてください。

アニメは自分と縁遠い業界だと思っていたので、まだ他人事のような感じです。一般文芸のアニメ化作品は『Another』(綾辻行人)や『氷菓』(米澤穂信)などミステリー作品が多いですよね。僕の書く現代エンタメ小説は、セリフで何か語るというよりも、モノローグで進行するものも多いので、アニメ化は向いていないんだろうなと思っていました。とはいえ、しいて言うならアニメ化に向いているのはこれかなという作品に白羽の矢が立ったという感じです。おそらく今後どれか別の作品がアニメになることはないと思うので、本当にありがたいですし、嬉しいですね。

――原作は男子大学生たちが、前例のない「男子だけのチアリーディングチーム」を一から始めるという青春小説ですが、どのような経緯でこの作品をお書きになったのでしょうか?

この作品は、デビュー作が本になるより早く書き始めたんです。当時の担当編集者さんがすごく熱心な方で、新人賞を受賞した『桐島』が2月に発売されたのですが、同じ年の11月には次の新人賞の受賞者が発表されるので、それまでに次作を出しておくことが大事だ、と。それで、当時から気になっていた男子だけのチアリーディングチームを題材に、夢だったスポーツ長編小説を書くことにしたんです。

――デビューから次回作まで、半年と少ししか間がないですよね?

そうですね。新人賞の次の作品がすぐ出せるということは、次の受賞者にとって励みになるし、自分にとっても自信になるんです。デビュー作の次がなかなか出ない方も多いので。それに、僕はもともとスポーツ小説がすごく好きなので、ずっと書いてみたかったんですよね。野球を描いた『バッテリー』(あさのあつこ)が子どもの頃大好きで何度も読んでいました。あとは、飛込競技を舞台にした『DIVE!!』(森絵都)や、駅伝を舞台にした『風が強く吹いている』(三浦しをん)、陸上を描いた『800』(川島誠)、野球を描いた『ひゃくはち』(早見和真)……なかでも陸上部の高校生の三年間を描き切った『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子)は、断トツで好きです。本当に大好き。いつかこんなスポーツ小説を書いてみたいなとずっと思っていたんです。

――なるほど。「いつか」と考えながら2作目としてスポーツ小説を書いたのはなぜなんでしょう?

デビュー当時、先輩作家さんから「とにかく出し惜しみは良くない。いつか書きたいじゃなくて、今書きなさい」という話をよく聞いていて。「いつかこういうものを書きたいと思っているうちは、絶対に機が熟すことはない。書きはじめることで、初めて本になっていくんだから」と言われていました。それなら2冊目で夢だったスポーツ長編に挑戦しちゃおうという話になったんですよね。今となっては、あまり業界のこととかもよくわかっていないときに、まっすぐ情熱的な作品を書けて、すごくよかったと思います。
ただ、スポーツものってセオリーがほとんど決まっていて。主人公と相棒が出会う、仲間が集まる、ライバルの出現、挫折、奮起、団結、最後の大勝負、みたいなおおまかなストーリーラインは、正直、刷新しようがないと思うんですよね。その中でどういうものを書いたら自分らしい味付けができるのか、かなり悩みました。そのとき「チアリーディング」という「人を応援すること」が主役になる競技を書くのは新しいんじゃないかって。応援っていわゆる補欠の仕事ですし、自分自身ストリートダンスをやっていたので集団で動きを揃えることの身体感覚も染みついているし、何か面白い物語ができそうだと思ったんです。あと、僕が通っていた早稲田大学に「SHOCKERS」という、今も活動している男子チアのチームがあるんですけど、その人達の演技を実際に見ると、本当に素晴らしかったんですよ。そのきっかけも合わさって、作品ができたという感じでしたね。

――先生の作品は、それぞれ中核となる強いメッセージがあって、それを伝えるためのエピソードを積み重ねることで物語を構成していると伺っております。『ア男子!!』で、絶対に外せなかったエピソードなどはありますか?

チア男子!!』の場合は、メッセージというよりもストーリー展開やリータビリティを意識していたんですけど、すごく気をつけて書いていた点が二つあります。ひとつは学生である登場人物たちにバイトや就活をさせること。もうひとつは団体競技だからって全員が同じ方向を見ているわけではないということ。
これまでのスポーツ小説を読んでいると、大学生が主人公だったとしても誰もバイトや就活をしていなくて、何で? って思っちゃってたんです。全国一位を目指すような強豪な部活ならバイトも禁止というのは分かります。しかし、そういう設定でもないのに、誰もバイトしないし、誰も就活しないというのが気になって仕方ありませんでした。しかし書いてみてわかったのは、バイトや就活は物語の中で必要のない行動になってしまうので、かなり邪魔だということ(笑)。そのシーンを入れるのが本当に大変でした。
あとは、僕が高校時代バレーボール部だったのでよくわかるんですけど、団体競技は全員が同じ方向を見ていない時間の方が実は長いですよね。絆とか心はひとつとか、そういう気持ちになるときもあるけど、そうじゃない時間のほうが絶対に長い。むしろそれが自然だとも思っていて、そこは丁寧に書きたかったんです。作者としては、この作品の最後のシーンが終わって、学年が変わって代が変わるときには、何人かはチームを辞めている設定です。絵に描いたような大団円は確かに気持ちいいけれど、フィクションに甘えずにリアリティを求めて書くことはすごく大切にしています。

――そういうところから、朝井先生の作品らしいリアリティが生まれてくるように感じます。

これは難しい問題なんですけど、お金出して本を読むときくらい、日常のことを全部忘れたいという気持ちも僕の中にあります。その一方で、あまりにも日常とかけ離れていると、逆に興ざめしてしまうというか、もっともっと現実の自分に迫ってきてくれよ、そして言葉で突き刺してくれよ、と思うこともあるんですよね。なので、僕の本を読んでくれる人はどっちの読者なんだろうということを、いつも書きながら考えます。ただ、現代の日本を舞台にした作品を手に取っている時点で、やっぱり日常と地続きの感情に触れたいのかな、とも思うので、やはりリアリティを大切にしますね。春に出版した『ままならないから私とあなた』や夏に上梓する『何様』も、今この世界と繋がっているという感覚を大切にして書いています。

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