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時代を切り取る小説家・朝井リョウ先生が描くこれからのこと
2016年7月7日


朝井先生3r

今はその雑音の部分をすごく大切に拾い上げて生きたい

――朝井先生は大学を卒業した後、3年間会社員をされていましたが、昨年退社されました。この1年間を振り返っていかがでしょうか。

事情があって今は専業作家なのですが、僕は兼業作家の方が向いているなと思います。
僕は少しワーカホリックなところがあって、パンクする寸前くらいがちょうどいいんですよね、多分。兼業生活中は本当に寝る時間もなくて、特に直木賞をいただいたときはもうすごい数の執筆依頼や取材依頼が来て、ついに会社で蕁麻疹が出て病院に行かせてもらったりしていて。でも、そのときが一番輝いていたような気もするんです。
人間って脳の1割しか使えないってよく聞きますけど、兼業中は2割は使えてたと思います(笑)。でも、とにかく時間がなかったのでめちゃめちゃイラつきやすくて、それは精神衛生上は良くなかったなと思いますが、肉体的にはすごく充実していました。

――兼業作家の方が向いていたとのことで、また会社員として働くことは考えられているのでしょうか?

そうですね。今度は、本というものがあまり注目されていない会社や業界で働いてみたいです。

――新入社員として働いていると、直木賞作家であっても関係なく雑用もしないといけないですよね。そういうとき辞めたくなりませんでしたか?

全く。むしろ、電話とったりお茶出してるときのほうが、本当の自分だと思っていましたし、今でもそう思っています。
作家って、特に出版業界の中では、崇められすぎていますよね。今、週に一度、ネットで見つけた社会人チームでバレーボールをやっているのですが、自分が作家だってことを言っていないんですね。それで、おそらく今のところ誰も僕が作家だと気づいていないのですが、本当に、週に一度スポーツをするというメンタルで、普通の企業で働いている方々は、誰も本なんて必要としていないんですよ。飲み会の席で本が話題にのぼったことなんて一度もない。本を読まなくても、全く健康なんです。それが悪いとかではなくて、生きていく上で必要ないんです。社会ではそれが多数派だと思うし、それが一般的な「本」の立ち位置だと思う。でも、出版業界だけにいると、業界にいる人たちはみんな少なからず「本に助けられた、救われた」って話をします。でも実はそれがあまり一般的ではないということを、会社勤めをしている間は多々感じることができていました。僕はその感覚ってすごく大事だと思うので、それを崩さないためにも出版業界以外の場所に身を置くことが向いていると思っています。

――作家・朝井リョウだと気づかれて困ったという経験はありませんか?

全くないです。そもそも出版業界外の人は作家の名前と顔なんて一致しないですよ。でも、そういう人たちにも届いている本というのがまれに存在していて、僕はそこを目指していきたいと強く思っています。

――先生の作品は、ご自身の世代のことをリアルに切り取ったテーマを書かれていることが多いですが、ご自身の経験が反映されているのでしょうか?

今しか書けないことってなんだろうということはよく考えています。このまま年齢を重ねて、作家としても人間としても経験を積んでいったら、すごく「大きいこと」を書き始めると思うんですよね。結局人生って愛だよね、心だよね、みたいな。たしかにそうかもしれないですけど、正論すぎて誰も反論できないような話って、書く必要あるのかな、とも思うんです。
今の自分は、モスキート音の聞こえる最後くらいの年齢だと思っているんです。若い人にしか聞こえない「ビー」っていう音ですね、そういうモスキート音のような雑音が世界には溢れていて、おそらくこれからどんどん聞こえなくなってくる。そのモスキート音っていうのは、正論すぎて誰も反論できないような話に対する疑問なんだと思います。「人生で大切なものって、本当に愛なの?」「結局は家族のため子どものためって言う人が多いけど、家族システムってとっくに崩壊してない?」「紙の本のあたたかみを大切にしたいって、わかるけど、本当にそれだけでいいの?」みたいな。今はその雑音の部分をすごく大切に拾い上げていきたい。それはつまり賛否両論を巻き起こすような話になると思うんですけど、そういう作品を精神的にも体力がある今のうちに書くべきなんじゃないかなと思っています。

――最後に、最近オススメの本を教えてください。

大正時代のアナキストの伊藤野枝という人物を描いた『村に火をつけ、白痴になれ』(栗原康)という評伝がめちゃめちゃ面白いです。評伝って難しいイメージがあって、僕も全然読んだことなかったんですが、文章自体がとても面白い。野枝はアナキストなので「世間の常識なんてブチ破れ!」って感じでガンガン突き進むんですが、この本の文章の面白さは、「評伝って難しい」という僕の中の常識を見事にブチ破ってくれました。ただ、著者が野枝の生き方に共感しすぎていて、評伝としては公平性に欠けている部分はあるかもしれないんですけどね。
野枝は親の決めた婚約者と結婚したのに8日目に逃げ出したりなんかして、家族にめちゃめちゃ迷惑をかけた人だったらしいんです。それなのに、子供が生まれて食料がなくなったときに、平気で家族に頼るんですよね。普通、昔迷惑かけたことのある人に頼みごとはしにくいじゃないですか。でも彼女はそういうの全然関係ないんです。当時の手紙に挨拶のあとに突然「さて、地元で取れた山菜を送って頂きたく思います」なんてさらっと書いている。でも、本当の人間関係ってそういうことですよね。してあげたからしてもらう、してもらったからしてあげる、だけで繋がっている人間関係は貧しい。野枝は散々迷惑をかけた家族をその後もバンバン頼るし、困っている友達をガンガン助けます。恩の売り買いが存在していない人間関係、シビレます。
読んでいくうちに、どうして野枝は反体制の人なんだろうと思うようになるんですが、その理由は実は単純で、自分のすぐ近くにいる人をすごく信じていたからだったんですよね。世間の中心で作られている大きなルールなんていらない、だって、私がすぐそばの人間を信じているから――野枝の人生は今を生きる私たちに喝を入れてくれます。

 

朝井リョウ(あさい・りょう)
1989年岐阜県生まれ。2009年、早稲田大学在学時に『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年、『何者』で第148回直木三十五賞を戦後最年少で受賞、2014年、『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。2016年10月には『何者』が実写映画化され、東宝より公開予定。そのアナザーストーリー集『何様』が8月末より新潮社から発売予定。

『チア男子!!』テレビ東京にて、テレビアニメ放送スタート!
2016年7月5日(火)より、TOKYO MXほかにて放送予定。
公式サイト http://www.cheer-boys.com/

 

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