ホラー作品は、人の心に刺さるからこそ、残る
(日野先生)単に怖いっていうだけのホラーだったら腐るほどあるわけよ。
(犬木先生)そうなんですよ、そうなの。そのあと、私が引っ込んだあともホラー誌って、何誌もしばらく残ってて、沢山のホラー作家を、ホラー漫画家さんを生み出したんだけど。ただ、やっぱり申し訳ないんだけども、ただの「ザクザクザクッ! ギャー!」とか、「ドロドロドロ! バァーッ!」とかっていうところで特化しちゃってるんですよ。
(日野先生)ようするに、表面がホラーっちゅうだけの話で。
(犬木先生)そうなんですよ。心まで踏み込んでないんですよ。そう、そこなのね。心に踏み込めてはいない。
(日野先生)そこがないんだよ。だから、俺は、そういう発想でやってるから。あなたもそうでしょ?
(犬木先生)そうそう。それはすごく感じますね。すごく感じる。
(日野先生)おそらくホラー作品って、人の心に刺さって、多分残るんだと思う。だから表面が怖いだけの作品って、例えば映画だってそうだけど、残んないじゃない。その時は、「わー、怖い」って思うけど。
(犬木先生)うん、そうだね。その時、その時は流行るけど。
(日野先生)忘れてっちゃうよね。それでも残るのは、例えば『フランケンシュタイン』だとかね、それから例えば『ドラキュラ』も、ものすごく悲しみ背負ってるじゃないですか。それからあと狼男だってそうだし。ジキルとハイドもそうだけど。ようするに、そこの人間が持ってる、色んな矛盾だとか、そういうものが作品の根底にちゃんとあるわけ。だから強いですよ、今でも。ところで『ドラキュリア』(2000)って観た?
(犬木先生)まだ観てないですね。
(日野先生)あのね、もちろんドラキュラの話なんだけど、ラストどんでん返しがあるんだけど、実はユダなんだよ。ユダって本当はキリストに愛されてて、キリストの死を悲しんで近くの木に首釣って自殺するわけ。それが実はドラキュラの最初だっていうふうに物語のどんでん返しがあって、ちょっとびっくりしたわけ。「おっ!今までにない切り口だ」って。ドラキュラって言ったら、ドラキュラ城だったりなんだけど、でもそうじゃない。
(犬木先生)私、なぜ吸血鬼が鏡に映らないのかっていうのがずっと心の中にあって、それを今度モチーフにいつか作品描こうと思ってるんですよ。ここで言っちゃったけど。何故かっていうのが、ずっとあるじゃないですか?あれはようするに、神っていうのは自分の姿に似せて人間を作ったと。で、ドラキュラは神に逆らって、全く普通に神に逆らって、堕落天使みたいな感じで永遠の不死の命を得たと。それで、神は怒って、自分に似せた人間の姿では絶対鏡に映させないっていうので、ドラキュラは鏡に映らないっていう話を聞いて、これなんか使えそうだなって。もうやっぱりみんなちゃんとしっかり考えてる人はテイストを考えているんだよね。
(日野先生)話は戻るけど、「最後の晩餐」って絵があるじゃない。あの中にね、実はどんでん返しっていうのがちょっと出てくる。あれはちょっと参りましたね。ヒントが隠されてるっていう映画なんだ、だから今までのドラキュラ映画の中では、全然違う。
――是非、観たいですね。で、それを日野先生に描いてもらいたいですね。
(犬木先生)日野先生は、これからも色々やられることがあるじゃないですか、色々と。
(日野先生)まあとりあえず、定年になりますんで。残された時間、あとどれくらい残ってるかわからないんだけども、でもやっぱり俺は、机に向かってなんか描きながら、最後を迎えたい。
(犬木先生)ていうかさ、それは、私が最近復帰したからでしょ?
(日野先生)あなたの影響って言いたいわけ? それはあるよ、うん。犬木先生が復活する、してくんだったら、それはありますよ。
(犬木先生)みんな最近そうなの。辞めてた人達が、みんな描き始めるようになった。
(日野先生)なに言ってんだ。俺はこれを10年間ずーっとずーっと思って。
(犬木先生)古いホラー漫画家がちょっと復活して、最近ちょっとまた描き始めてたりとかしててね。
(日野先生)でも、俺はホラー漫画にはもう戻らないよ。戻れないし。
(犬木先生)私もね。私も、子供向けのホラーはもう描けないし、あんまり描きたいと思えない。
――大人向けのホラーってことですか?
(犬木先生)そう。大人向けのホラーでいきたいですね。それこそ、日野先生がひばり書房とかで子供っていう枠組みがなかったから描けた、そういうのを描きたいんですね。私はもう、『不思議のたたりちゃん』なんていうのを描いちゃったって、それでヒットして、そこにがんじがらめにされちゃってたから。
(日野先生)まあ、その辛さはわかりますよ。
――あとは『スクールゾーン』も先生の作品として印象深いですね。
(犬木先生)うん、あれも最後まで描きたかったんだけどね、もう思いだせなくなっちゃった。本当、連載物はダメ!
「ついに実現!日本を代表するホラー漫画家による対談。日野日出志×犬木加奈子。 二人がホラー漫画に秘める想いとは?そして二人の意外な関係とは・・?(後編)」はこちら
日野日出志(ひの・ひでし)
1946年生まれ。旧満州チチハル市出身。1967年に虫プロ商事発行の『COM』にて月例新人賞に『つめたい汗』が入選してデビュー。
1970年には、人間として存在することの根底的切なさを謳い上げた『蔵六の奇病』や『地獄の子守唄』を発表。その後、活動の場を漫画雑誌へと移し、数多くのホラーや怪奇作品を発表。ホラー漫画界の第一人者としての人気と地位を不動のものとする。漫画以外にも映画監督、絵本作品や児童書、キャラクターデザインなどでも活躍。世界的にも評価されている。大阪芸術大学芸術学部キャラクター造形学科教授。
犬木加奈子(いぬき・かなこ)
北海道出身。1987年、講談社『少女フレンド』増刊『楳図かずお特集号』(講談社)に『おるすばん』でデビュー。
代表作は、『学校が怖い』のタイトルで映像化された『不気田くん』や『不思議のたたりちゃん』などがある。その他長編・短編を問わず多数の作品を発表。また、多くのホラー
雑誌で表紙も担当し、ホラー漫画の女王と呼ばれる。独特の絵柄と世界観で、多くの読者を恐怖に陥れると共に、熱狂的なファンを生み出した。大阪芸術大学キャラクター造形学科客員教授。
日野日出志×犬木加奈子「地獄のたたり展」
会期:2016年8月3日(水)~14日(日)
時間:12:00~20:00
会場:墓場の画廊
住所:東京都中野区中野5-52-15中野ブロードウェイ3F
トークショー&サイン会
日時:2016年8月6日(土)14:00~15:00
原画展「地獄のたたり展」
http://hakaba-gallery.jp/?p=153
【詳細記事】
【サイン会&トークショー開催決定】ホラーマンガ家・日野日出志x犬木加奈子「地獄のたたり展」が中野ブロードウェイで開催。
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