生活に取り入れたくなるような絵本をつくりたい
――絵本をつくるときに、一番大変な作業は何でしょうか。
絵を描く作業が、一番大変です(笑)。パソコンでストーリーを作っている時間よりも、絵を描いている時間の方が長いです。私は、ストーリーづくりは、考えるというよりも映像がストンと降りてくるんです。そのときすでに、だいたいの場面と、主人公が決まっています。登場人物は人間だったり、動物だったりするんですけど、それを文章に起こすだけなんです。そこから次に、表現を言い換えしたり、場面にストーリーをとったりつけたりする作業をします。絵を描く作業というのは、それを一から描き起こさないといけないかんじなんですね。絵の場合は、一ページ一ページごとで完結するように、仕上げていくイメージなんです。ストーリーが先にあって、それのどこの場面を描こうということから考えないといけません。自分の中でいろいろな場面をイメージして、その中で、一番ストーリーが伝わりやすい場面をチョイスするところから始まって、それを一枚白い紙に描き起こす作業なんです。だから、とても時間もかかりますし、描いている途中で、違うアイデアが浮かんで描きなおすということもよくあります。実は一つの絵に対して、下書きの絵を2~3つは描いています。それを全体的に見て、やっぱりこっちの絵にしようなど考えながら、絵を一ページずつ選んでいます。なので、とても時間のかかる作業なんですね。
『リチャードの指輪』の一番最後の描きおろしのページは、実は自分の中で唯一、一発オーケーがでた絵なんです。いつもは、何枚か描かなきゃいけないと思いながら描くんですけど。例えば、一枚の絵を描くのに5~6時間とか、長いときは10時間くらいかかります。色を塗る作業はもっとかかって、だいたい絵を描く作業の1.5~2倍くらい時間が必要です。最後に全体を通しでめくって、流れるように絵が展開されているかどうかを、必ず見極めるようにしています。
――ストーリーづくりについて、もう少し詳しく教えてください。
ストーリーはまずなくて、テーマと映像があります。それを文章化して、ストーリーをつけていくんです。
ほかの作家さんのストーリーの作り方をきいても、意外と同じようにつくっているという話を聞きます。ストーリーをはじめからつくってしまうと、内容がうすくなっちゃうような気がします。例えば、お金持ちになりたい女の子のストーリーをつくろうとしたら、まず貧乏から物語がはじまると思うんですけど、そのことばかりが強調されてしまって、それだけの物語になってしまうんですよね。なので、テーマを必ず設定しています。
例えば、『リチャードの指輪』は「無償の愛」がテーマでも、リチャードが「愛してる」とは絶対言わないんです。決定的な言葉を使わずに、テーマが伝わるよう描きたいんです。
例えば、AくんはBちゃんのことが好きなんだろうなというのが、なんとなく伝わってくることって感覚的にありませんか? なので「Aくんは、Bちゃんのことが好きでしょ?」ときくと、「好きじゃないよ!」と照れ隠しでされることってありますよね。それはやはり「好き」とは言ってはいないけど、どこかで「好き」が伝わるような表現があるからだと思うんです。その「雰囲気」みたいなものを絵本で、伝えたいんです。どうやったらうまく伝えられるかを意識して描くようにしています。読者さんの読み終わった感想をきいて、自分が絵本に込めた感情とまったく同じだったとき、「伝わったんだ」ってとても嬉しくなります。
――絵本をつくるうえで、影響を受けている本は何かありますか?
24歳のときに初めて読んだ、中谷彰宏先生の本です。私にとってそれも、絵本を描こうと思えるようになったきっかけかもしれません。中谷先生の本のポジティブな内容に読みはじめたらハマってしまって、その時期は中谷先生の本ばかり読んでいました。そのとき、こんなにもやる気にさせてくれるのは、きっと活字だからなんだと思ったんです。もし同じ言葉を仲のいい友だちや、親などの身近な人にアドバイスとして言われても、素直に聞き入れられないだろうなって(笑)。活字になることで、自分の感情が入らなくなるので、すんなり受け入れることができるんですよね。そのとき初めて、活字は人にものを訴えることに、とても効果的なんだと思いました。
――絵本作家・友弥.さんの、今後の抱負を教えてください!
「世界の作家になる」です! 誰もが自分の周りの環境や文化に影響を受けながら、創作をしていると思うんです。『リチャードの指輪』は外国の絵本のような絵を意識していますけど、対比してストーリーではミリーを奥ゆかしい日本女性のように描いています。たしかにアメリカを舞台にイメージした絵本なんですけど、私のサンフランシスコでの留学経験や、木は北海道十勝にある「ハルニレの木」をモチーフにするなど、いろいろな要素が混ざっています。これをいろいろな国の人に見てもらって、日本の考え方を知ってもらいたいんです。なので、どんどん海外に向けて発信もしていきたいです。近いうちに海外の書店さんに、この絵本が並ぶ日が来ますよ!(笑)
海外では、書店さんに並ぶことを目指していますが、国内では、書店さん以外でも絵本を並べてみたいです。絵本の可能性を広げられたらと思っています。書店さんで売れることももちろんなのですが、生活に取り入れたくなるような絵本をつくりたいですね。もし老夫婦が、結婚記念日にアクセサリーをプレゼントすることと同じように、絵本を贈り合うことがあったら、ステキじゃないですか?
友弥.(ともみ)
1979年、北海道釧路市に生まれる。北海道立釧路湖陵高等学校卒業後、看護の道へ進み、看護学士学位を取得。東京大学医学部附属病院第1集中治療室に看護師として勤務する傍ら、書籍コンクールの投稿をきっかけに2012年3月に絵本「心の鏡」を出版。同年4月には第2版が刊行される。その後も看護師として働きながら、休日は絵本作家として活動。2014年に渡米。サンフランシスコで絵本作家としての活動を続け、アメリカ滞在中に真言宗の弘法大師空海をモデルとした絵本「ソラのあしあと」を出版。現在は東京を拠点としており、自身のキャラクターであるManuel and Oliviaのショップの開設や個展の開催など幅広く活躍中。