絵本をただ作るだけじゃなくて、売り方をきっちりデザインしようって思った
――3作目の『オルゴールワールド』を描いてから状況が変わったというのは、どういうことでしょうか。
西野 2作目までは、売れればいいなとは思っていましたが、どのように売るとかまで、あまり考えなかったんですよ。でも、『オルゴールワールド』あたりから、作った作品が読者の方の手に届かないと作ったことにならなないから、その手元に届くまでの「売り方」をきちっとデザインしようって思うようになったんです。つまり、作るだけ作って、売ることを出版社や吉本興業に任せるっていうのは、自分がやろうと言い出したことを途中で放棄して逃げているみたいで、本当に無責任で、カッコ悪いことだなと思って。
作品として、120点のものを作るのはもう大前提で、あとは「売り方」をきっちりデザインしようって思ったんです。当時は、出版不況みたいなことを言われた時期だったので、すごく考えましたね、どうやって売るかということをすごく考えました。
――「売り方」のデザインというのは、実際どのようなことでしょうか。
西野 そもそも絵本と雑誌と小説と、まあ電子書籍もそうなんですが、売るモノが全然違うのに売り方が一緒でいいのかなって思ったんですよ。つまり、野菜を売るときとパンを売るときとお祭りのりんご飴みたいのを売るときって、それぞれ売り方が違うじゃないですか。野菜は八百屋さんだったり、パンはパン屋さんだったり……。でも、リンゴ飴売るんだったら、スーパーで売るよりもお祭りで売った方がいいよなってなる。本来は、その商品に合った売り方が、絶対にあるはずなんですよ。
でも、本ってどこの書店でも同じなんですよ。本当に自分の本が、その書店と肌が合っているのかどうかということを考えようと思ったんです。つまり、僕の本と村上春樹さんの本の売り方が一緒っていうのは、正しいのかどうかっていうのを、疑ってみようということです。
で、僕の本は、大前提として絵が載ってるよなと思って。絵が載ってる本は、載ってない本と違って、売り方にもうちょっと個性出せるんじゃないかなと思ったんです。
――売り方に個性を出すと……。具体的にはどのようなことなのでしょうか?
西野 僕ら人は、何にお金を使うのかなって考えた時に、パンとかお米とか、水とか、ちょっと高いですけど、エアコンとかテレビとか、そういうものにはお金出していて、必要なものにお金を出すんですよ。つまり、モノの売れる、売れないって、単純にその人が必要か必要じゃないかだけで、僕の作品が売れないのは、生きていくうえで必要ではないからですよ。本屋に行くと立ち読みして、「あー、おもんないなって」思ったら、棚に戻す。その時点で、作品を買うことにブレーキをかけているんですよ。生きていく上で必要でないモノなら、パッと魔法かけて、この作品を必要なモノにしてあげればいいんじゃないかって考えたんですよ。
一見必要ないモノに見えて、売れているモノを考えた時に、例えばシンガポール行ったときには、マーライオンの置物を、広島の宮島行った時には、“宮島”って書いてある三角形のペナントを、演劇の舞台を観に行った時のパンフレットを買っているなと思って。つまり人は、思い出にはお金出すなと思ったんです。つまり、そのおみやげにはすごくお金出しているし、出しやすい心情になっている。何でおみやげを買っちゃうんだろうって考えた時に、思い出を残すために必要でだからだなって思って。つまり、おみやげっていうのは必要なもんなんですよ。
じゃあ、絵本を「おみやげ」にしちゃえばいいじゃんって思ったんです。おみやげにするのに必要なのは思い出で、その元は体験だから、じゃあ本を売る前に、絵本をおみやげとして思ってくれるような体験を提供してあげればいいなって。僕は絵本を描いてので、絵の原画がたくさん家にあるんですよ。そこで、その原画を全国各地に無料でリースして、原画展開催してもらうということをやったんです。それこそ、大分ではサラリーマンの方が、横浜ではOLの方が、名古屋では中学生が文化祭に出し物として原画展をやったんです。それで、原画展の出口に絵本を置いてもらったら、この絵本が超売れたんですよ!
――絵本を「おみやげ」として売ると方法で気づかれたことはなんだったでしょうか。
西野 そうですね。この原画展を全国ずっとグルグル回していたら、絵本は半永久的に売れ続けるなと思いました。というのは、書店で本を売ろうと思ったら、「賞味期限」があるやないですか。最初は平積みだけど、棚差しになって、もうちょっと経つと棚からも無くなるみたいな。この書店で本を売る方法と、原画展で「おみやげ」として本を売る方法の二本柱で進めたら、絵本に「賞味期限」が来ることはないなと思いました。
――なるほど。先ほど、原画を一般の方に無料でリースしているというお話が出てきましたが、これはどのような理由で始められたのでしょうか。
西野 もう単純な話です。キリスト教を信じてる人って、みんな聖書買うじゃないですか。あれが面白いなって思ったんですよ。あれはキリスト教を信じてるから買うんですよ。同じように、自分の作ったって思い入れがあるから、自分の本を買うんですね。同じように、一緒に作った編集者さんも、僕と一緒に作った本買うんですって。となると、2人で作った本って、最低2冊は売れるんです。だったら、本を1万人で作っちゃえば、1万冊売れるなと思って。お客さん増やすより、作り手を増やしたら、そのままお客さんが増えるなって(笑)。
今って、規模の大小さえあれど、Twitterを使ったり、ニコ生(ニコニコ生放送)を配信したり、ユーチューバーになって、誰もが情報発信を出来るようになった。そうなると、5年前、10年前に比べて、純粋にお客さんって呼べる人がほとんどいなくなっているんですよ。みんなが、クリエイターか準クリエイターみたいな。そうなった時に良いコンテンツっていうのは、全員クリエイター全員オーディエンスになりうるものだなと。全員が作り手で全員お客さんになれるコンテンツこそがすごく面白いなって思うんです。
ただ、絵本作りに参加してもらうのは難しい。それを広める活動とか、届ける活動として個展のスタッフとして携わってもらうことができるんじゃないかなって。個展の運営は、なかなか1人じゃ運営できないから、仲間を呼ぶじゃないですか。例えば、10人でやるとなったら、自分たちが携わった思い出として、この10人は1冊ずつ買ってくれる(笑)。
>次ページ「「絵本は何で、一人で作るの?」っていう疑問から始まった」