「絵本は何で、一人で作るの?」っていう疑問から始まった
――ここで今年の秋に発売予定の『えんとつ町のプペル』についてお伺いできればと思います。4作目になる作品ですが、今までとは違い、文章と絵コンテとキャラクターデザインを西野さんが担当して、ほかの方は各部門クリエイターさんに任せるという完全分業制だとお伺い致しました。この完全分業制を取ろうという新たな試みを挑戦しようと思ったきっかけをお伺いできればと思います。
西野 完全分業制の話をすると、まず、絵本は何で、一人で作るんだろうという疑問からスタートしたんです。映画でも、分業制じゃないですか。映画だったら、監督さんいらっしゃって、助監督さん、音響さん、照明さん、メイクさん、役者さん、美術さんいろんな方がいらっしゃって、それぞれの得意技を持ち寄って一つの作品を作るじゃないですか。なんでそういう仕組みになっているというと、そうやって持ち寄って一つの作品を作った方が、より良い作品ができるからです。つまり、監督さんがメイクさんをやるよりもプロのメイクさん雇った方が良いものが出来るから分業制でいくじゃないですか。あと、監督さんとメイクさんの業務内容に求められている能力はまるで違うから、分業制でやってると思うんです。
―― 確かに映画とかは、完全分業制ですね。
西野 でも、絵本はよくわからないけど作家が1人で作ることになっている。まあ絵と文みたいな分け方はありますけど、それでも2人です。でも例えば、絵一つとっても、空描く仕事と、建物をデザインする仕事とキャラクターをデザインする仕事と、森を描く仕事と、綺麗な透明感のある水を描く仕事っていうのは微妙に業務内容が違うと思うんですよね。クリスチャン・ラッセンみたいに「海の中描かせたら、俺、すごいよ」っていう人とか、「空描かせたら私、すごいよ」とか、「その海は描けないけどキャラクターデザインだったら、俺すげえ」という人は多分いらっしゃるなって。だったら、こういう人達を集めて、一つのモノを作った方がすごいもんが出来ると思いました。
でも、そもそも何でこんな誰でも思いつきそうなことが、これまでなかったんだろうって考えたんです。単純な話で絵本っていうのは5000部とか1万部でヒットと言われるようなすごく市場の小さなマーケットなんですよ。だから、単純に制作費をかけられない、つまり人件費を払えないから1人ないし2人でやるしかなかったんですよ。じゃあ、制作費を自分で集めて、チームで全部作り上げて、そのデータだけ出版社に渡せば、これまでの絵本と同じように出版社の負担っていうのは変わらないなって。
――なるほど。それでクラウドファンディングで制作資金を集めたということなんですね。
(※クラウドファンディング:アイデアやプロジェクトを持つ起案者が、専用のインターネットサイトを通じて、世の中に呼びかけ共感した人から広く資金を集める方法。)
西野 そうですね。「こんな絵本作りますよ」と言って集めたら、一千万円くらい集まりました。あと、スタッフはクラウドソーシングっていう依頼者と職人さんをマッチングするサービスで集めました。クラウドファンディングでお金を集めて、クラウドソーシングでスタッフを集めて作るのが、今回の作品ですね。これってすごくいいなって思うんですけど、10年前までは絵本作家さんって、この作り方が出来なかったんですよ、クラウドファンディングやクラウドソーシングという仕組みがなかったから。
話を戻すと、スタッフに関しては、イラスト特化型のクラウドソーシングで、イラストレーターが日本国内外で3万人くらい登録サービスがあって、そこの方にとりあえず1000人ぐらいあげてくださいってお願いしたんです。もらったそのリストを一人ひとり見ていって、30人くらい集めました。ただ、30人っといっても、色んなスタッフがいるんですよ。つまり、お金の管理をするスタッフもいるし、アニメーターもいます。日本アカデミー賞音楽賞を受賞した渡辺隆さんや、劇作家の後藤ひろひとさんもいるし、歌手の方もいる。
一見、絵本の制作に関係ない人もいますが、なんでかっていうと、確かに絵本を作るんだけど、作品だから届けなきゃいけないんです。そのためには、集めた一千万円は、絵本の制作の費用だけでなく、広告費用としても使う必要があるんです。
――広告費用というと先ほどのお話ではないですが、プロモーションってことでしょうか。
西野 そうです、そうです。それこそ、渋谷のスクランブル交差点にあるような大きい看板枠を買う案もあったんですが、先ほど話した通り、僕はそれを有効な手立てだとあんまり思わなくて。看板枠を1週間買っても、たった1週間だけです。5年後に、人がこの広告を見ることないじゃないですか。
半永久的に使われる広告ってなんだろうって話をしていたら、音楽作っちゃおうみたいな話が出てきて。なんで音楽かというと、ラジオにゲストで出させていただく時に、絵本の紹介させていただくんですが、絵本の内容を伝えるのは難しいんです。なんとなくは耳に入るけれど、インパクトとしては薄い。だいたい曲をリクエストされることが多いんです。その時に絵本の『えんとつ町のプペル』をモチーフにした曲があったら、それ流して、「僕の絵本をモチーフにした曲なんです」って言ったほうが、「どんな絵本なんだろう?」って気になりますよね。今はみんな気になったものは検索する時代だから、検索して購入してくれる。
じゃあ曲を作って、YouTubeにフル尺でアップしておいて、なんなら、楽譜も無料でインターネット中にアップしちゃうんです。その曲がずっと聞かれたり、それこそ誰か別の人がYouTubeにアップして、それが歌い続けていかれれば、ずっと絵本の宣伝になっていくんじゃないかと思って。そうなると、曲を作るために渡辺隆さんの力が必要なんです。
それとは別に、僕がテレビに出る時に『えんとつ町のプペル』の洋服を着とけば、ずっと宣伝できるから服作ろうよみたいな(笑)。そうなると、ファッションブランドの人も必要だし、そういう意味含めてスタッフは多いんですよ、単純に絵描く人だけではなくて……。そこまで考えるから、仕事がほんとに多いっすよ(笑)。
―― 曲も作るし、服のデザインも考える。でも、大本の絵本がしっかりなっていないとダメだからやることは多いと(笑)。『えんとつ町のプペル』は、どういうお話の絵本なのでしょうか。
西野 えんとつ町って、えんとつだらけの町なんです。そこかしこから煙が上がっていて、町の上は黒い煙でもくもくで。なので、そこに住んでる人は、空を知らないんですね。だから、星なんていう概念もないし、頭の上にあるのは常に煙だから、「空を見上げる」ことももちろんしないし、あるなんてまず信じていない。そこに空を見ようとするやつが出てくるんです。「あの煙の上にどうやら星があるらしいで」みたいなことを言うやつがいて、それを周りが「何言ってんの、お前」みたいになる。で、町中からすごく罵られて、叩かれるんです。「あるわけないじゃーん」とか「なんで星なんか見に行こうとしてんの。恥ずかしいな、空気読めよ」とか、「イタいな。お前」みたいなことを言われるんですね。つまり、これは現代社会ですね。
今って、例えばウォルト・ディズニー倒すとか言うと、こいつの問題だからほっときゃいいのに、みんな多分ぼろかすに叩きに行くと思うんですよね。「何、言ってんのイタいな」とか「空気読めよ」とか、「ちょっと来いよ、お前。何言ってんだよ」みたいな(笑)。本当は、他人の人生だから介入しなくていいところなのになんかよくわからないけど、叩きに来るんですよ。あーでも、この現代社会の風潮を物語にしたら面白いなと思って、描きました。
――確かに、今の時代って、何かみんなすぐ叩きに来ますよね。それは結構、西野さんも経験されていることでは……。
西野 はっはっは(笑)。でも、僕はすごく恵まれているんです。そもそも絵本描くって言った時も、何で芸人が絵本描くのとか、なんか知らんけどすごいみんな怒って(笑)。で、肩書きを変える時もすごく怒るんですよ。僕が肩書きを変えても誰にも迷惑かかんないんですけど、なんかよくわかんないけど、みんなとにかく怒るんですね。なんか動きを見せたらとにかく怒るみたいな。
それでも僕が恵まれているのは、一人でやってるようで、一人でやってないこと。つまり、分業制で作るって言った段階で、もう30人くらいの仲間がいて、話が進んでる。叩かれて家に帰っても、みんなから「おい、叩かれてんぞお前」みたいにイジってくれる。だから、僕はすごくその点では恵まれてるんだと思うんです。
でも、世の中には本当に一人で、学校だとか会社で本当に、誰も味方がいないなかで、何か仕掛けたいって人たぶんいるんです。そういう人に届くといいなって想いで作品をつくっています。そういう人が主人公の話ですから。
――つまり仕掛けたい想いはあるけれど、叩かれるのが恐いとか、実際に叩かれてしまっている人を勇気づけたいという想いがあるんですね。
西野 そうですね。そういう人がいないと終わるから。終わるって言うか、人間も動物だから、基本的に変化しないと死んじゃうんですよ。時代が変化してる時に、そこに対応できるように変化していかなきゃ、死んじゃうんです。要は強い生き物が生き残るわけではなくて、ちゃんとその環境に合ったやつが生き残るようになってる。それは、恐竜が死んで、ゴキブリが生き残ってるみたいな感じです。今は、みんなが肩書きにすごくこだわっているけれど、ものすごい勢いで色々な職業がなくなっていく時に、こだわっているやつに「そのこだわりは、やばいよ」って言うやつがいないといけない時代がいつかくると思うんです。「俺はこれしかしいひん」っていう考え方が常識となっている時にこそ、一番最初に「こういうのもありにしちゃおうぜ」と言ってるやつをすごく大切にしなきゃいけないなと思ってます。
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