今回は、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科と東京大学大学院情報学環教育部に学籍をおく秀才であり、「お嬢様芸人」として活躍するたかまつななさんにインタビューしました。たかまつさんは、お笑い芸人として活動しながら、「お笑いジャーナリスト」を目指し、お笑いを通して社会問題を発信しています。選挙権が18歳に引き下げられたことを機に、芸能事務所から独立して2016年4月に「株式会社 笑下村塾」を設立。全国各地の高校生や若者に向けて、政治教育をしたいと各地で出張授業をおこなっています。たかまつさんが若い世代に向けて、政治教育することや社会問題を発信していく理由と、思い描くヴィジョンについておうかがいしました。
政治教育にショーとしてのエンタメ性を持たせようと思った
――4月に株式会社 笑下村塾を起業されましたが、会社を始めようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
たかまつ お笑いを通して、社会問題を伝えていけたらなと思ったんです。学部時代に、教員免許を取ったときから、教育とお笑いを結びつけられるようなことを、いつかしたいと漠然と思っていました。
6月に、改正公職選挙法が成立し、18歳選挙権が導入されることになりましたよね。本来はそのタイミングで、若者と政治をどういうふうに繋いでいくかという議論が、されていなければいけなかったと思うんです。それで、高校生が選挙や政治に興味を持つような「コンテンツ」が増えてくるだろうと見ていたんですけど、全然面白そうなものが出てこなかったんです。それはもったいないなと思って、「じゃあ、自分で作ろう」と使命感をもって思い立ちました(笑)。
4月30日に単独ライブが決まっていたので、会社をつくって、みなさんに発表することで、覚悟を決めようと思ったんです。14日に「一週間で会社を設立するマニュアル」みたいなのを買って読んで、21日に会社を設立して、30日のライブ本番で発表をしました。
――そんな短期間で、設立できてしまうんですね!
たかまつ わからないことだらけでしたけど、なんとかできましたね(笑)。
もっときちんと出資を募るようだったら、準備に時間がかかるんでしょうけど。登記するだけならできるものなんだと、そのとき思いました。
――法人化することのメリットは、なんだったのでしょうか?
たかまつ 理由は3つあります。1つは、「組織化したかった」ということです。自分ひとりだとやっぱりできることに限界があるので。もう1つは、NPOさんなどで主権者教育をやっている団体はたくさんあるんですけど、政治はお金にならないってみんな声を揃えます。池上彰さんのような方々は別ですけど、政治関連の本を出版しても基本的には売れないものです。出張授業をやっても、出張先の高校側も予算がないので、利益が出ないのが実情なんです。
パイオニアとしてビジネスモデルを作る必要があるなと思いました。例えば、「サイエンスショー」って、最初はお金になるコンテンツじゃなかったと思うんです。でもそれが、米村でんじろうさんみたいな人が出てきて、「なんかおもしろーい」というふうに認められて、それまでと価値観が逆転しましたよね。「サイエンスショー」が面白いのは、目の前でボンって爆発したりして、教室では見られないことを、目の前で見せてくれているからですよね。じゃあ、政治はどうでしょう。たしかに政治も目には見えにくいものだけど、「サイエンスショー」と同じような工夫次第で十分楽しめるものだと思うんです。政治教育にショーとしてエンタメ性を持たせることが、高校生の眼を政治に向けさせるスイッチのひとつだと思います。
「サイエンスショー」みたいに、私もそういう先駆者になれたらいいなと思って、会社を設立しました。
そして、最後の1つは、高校生に政治への興味を持ってもらうための会社って話題になるんじゃないかと思ったからです。
――そもそも、たかまつさんにとって、政治教育とお笑いを繋げていこうと思った、ターニングポイントはなんだったのでしょうか?
たかまつ 中学2年生の時に『憲法9条を世界遺産に』を読んだのが、きっかけでした。それは中沢新一さんの名前が目に入って手にとった共著本でした。読んでみると対論されていた方が、ものすごく面白かったんです。こんなに面白い発想をする方は、どこの大学の先生なんだろうと思ってプロフィールをみたら、「爆笑問題 太田光」って書いてあって。お笑い芸人さんって、こんなユニークな発想ができるんだと、当時、目から鱗が落ちました。その発想が実現可能かどうかは別としても、こういう捉え方もあるんだなと驚きました。それから、こういう伝え方はいいなと思い、「社会問題を広く伝えることのできるお笑い芸人」を目指すようになったんです。
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