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「常に更新しつづけていきたい」。マンガ家・井上紀良先生のマンガへの飽くなき挑戦
2016年11月7日


2016年4月に、電子コミック化した『“殺医”ドクター蘭丸』が人気で、若い世代を中心に読まれています。「蘭丸」の人気を受けて、先生の他の作品もランキング上位に入るなど、井上先生に再び注目が集まっています。TOKIOの松岡昌宏さんの主演で人気を博した『夜王』もランキングを急激に伸ばしています。そこで今回は、これらの作画を担当されたマンガ家・井上紀良先生にお話をうかがいました。
井上先生のマンガといえば、迫力のあるアクションシーンと、魅力的で美しいキャラクターが印象的です。その井上先生、マンガ業界ではかなり早い段階からデジタル作画を導入し、マンガ制作に取り組まれてきました。全面的に作画をデジタル化したのは10年ほど前。しかし、部分的な導入は25年ほど前からというから驚きです。今回は、尽きることないマンガへの情熱とその源泉、そして先駆的に導入したデジタル作画について語っていただきました。デビュー当時の裏話も満載です!

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デジタルは、自分の考え方次第でどうにでも変えられる良さがある

――井上先生の作品には基本的に原作があることがほとんどかと思うのですが、作画するとき、原作者の意向や原作をかなり意識して描かれますか?

井上 僕は、ほぼ原作通りに描くようにしています。むしろ120%くらい原作通りです。原作で書かれてたものを120%にして読者に提供したいと思っています。ネームでのコマ割りも僕がやります。だから原作で書かれていたものがちょっとでも伝わらないことがあると、それは僕の責任だと思っています。

「2ちゃんねる」とかで、直近の回の内容を、まるでシナリオのように書かれていることがあってね、そのときは「お~!ちゃんと伝わってるじゃん」って感動します(笑)。

一同笑い

――作画をデジタルに移行されはじめたのは、いつぐらいからだったんですか?

井上 昔からデジタルはいいなとは思ってたんだけど、うちはスタッフが取り入れ始めたのが早かったんですよ。Windows版のイラストレーションソフトが出る前だから、25年くらい前から取り入れていました。そのときはプロダクションにMacしかなかったから、Macを使ってたと思います。

自分で描くというよりも、スタッフにカラーを塗ってもらったり、アナログ作画ではできないぼかしを入れたり、墨で描いたようなタッチだったりを「効果」っていう作画ツールで作業してもらっていました。クリックひとつで、簡単に線を変えられたので、当時は本当に驚きでした。
スタッフみんながデジタルで、僕だけがアナログをスキャンしてもらっていたので、足引っ張ってたんじゃないですかね(笑)。

そのうちに「先生もデジタルでやりましょうよ」みたいなことをスタッフから言われるようになったんです。それがちょうど、『夜王』の連載をしている2008年の頃かな。週刊誌で連載していると、まとまった時間がとれないんですよ。だからその年末から年始にかけて2週間くらいの休みがあるので、デジタルで作画できるくらいにタブレットに馴染むように一気に練習しましたね。

その頃、老眼が本当にすすんでしまって、細かいところが見えなくなってきていました。これまでできていたことが難しく感じられるようになり、「これはマズいな」と危機感を感じはじめていたんです。そういうところが出発点となって、マンガ制作にデジタルを全面導入したんですよ。

――井上先生にとってデジタル作画のメリットは何でしょうか?

井上 老眼で昔と同じように描けていなかったものが、タブレットで描いたものをプリントアウトしてみて、自分の思った通りに描けていると思いました。デッサンも非常に正確に描けるようになったんです。これはいいなと思いましたね。漫画家というのは、幅1ミリの中に丸ペンで7本線を引くくらいの技術が求めれられる世界なんです。でも、デジタル技術を導入すると、タブレットの画面を拡大すれば、その1ミリが見えなくてもなんの不自由もないんですよ。むしろ今は1ミリの中に多種多様な線を10本以上引けると思っています。だからデジタルは、僕にとって非常にありがたいです。

――デジタルとアナログで描くのは、やはり違うものなのでしょうか?

白い原稿用紙に、黒いインクで漫画を描く方法が当たり前だったので、デジタルは本当に斬新でした。例えば、デジタルは黒い線と同じように白い線が引けるんです。今まで白い線は、黒いインクの線を消す修正ペンくらいでしか使わなかった。それが、デジタル作画を導入したことで、僕の中で、白と黒の線の使い方の割合がほぼ均等になったような気がします。

デジタルとアナログでは、描くという概念が変わります。要するに、アナログは白い原稿用紙に描き「足す」というイメージだったんです。でも、デジタルで描くというのは、タブレット上に絵を「残す」感覚なんです。白い部分を減らしていくといった感覚になるんです。アナログで描いていたときの考え方とは、まったく違う考え方ができるんですよ。そういう考え方次第で描き方の可能性がどんどん増えるから、仕事が面白くなってきたなと思っています。

――それは描き方にも影響がでてきたということですか?

井上 はい。マンガを制作するとき、まず「ネーム」を描いて、「下書き」。そして「ペン入れ」をするんですけど、その「下書き」をする必要がなくなりましたね。レイヤーごとに描き分けているから、レイヤーで線画なのか下書きなのかが変わるだけで、「下書き」という概念もいらなくなってしまいました。デジタルは、自分の考え方次第でどうにでも変えられるという良さがあるわけです。「こうじゃなきゃダメ」というのがない。アナログでの作画は、ある程度の決まりごとの中でどう工夫するかだったけど、今はデジタルだと、従来の考え方ではできなかったやり方で、また違う新しいことができるんです。タブレットの上でできることも、今あるツール以外にも、これから増えていくんじゃないかと思います。デジタルは可能性が無限なわけですよ。

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