まんが家になって初めて思った通りの絵が描けた
―― この作品は読み終わった後に、ファンタジーの映画を観終わった後のような高揚感や満足感を味わえる作品だと感じました。読者の読後感について、意識された事などはありますか?
岩本 読者さんの読後感はかなりイメージして描きました。2時間くらいの映画を観終わった後に、帰り道が楽しくなるような感じになってほしいなというのはありました。今でいうと、『ズートピア』ですかね。
―― 出てくる悪役のキャラクターも本当に悪い人がいませんが、ここも意識はされた?
岩本 とにかく楽しくて、嫌な感じが残らない、本当に良かったなっていう読後感で終われる事を意識しました。あと悪い人を描く事が結構大変で、難しいなと思ったので、悪役も可愛い感じで終わりたいっていうのはありました。本当にコイツ嫌な奴だなみたいな感じでは、なるべく終わらないようにしたいなと。
―― それでみんな読み終わった後に楽しいなと思えるような作品になったと。この作品は背景や衣装に非常にこだわっているように感じました。
岩本 もう全部、資料があります。ゼロから考えて描いたのはないです。自分の頭だけで出したのは、全然なくて。このときは3ヶ月に1回の連載だったのですが、ずっと資料を探しては描く、の繰り返しでした。
―― 絵の感じからすると中東のものが多いように感じます。
岩本 建物はトルコの建物が多いです。わりと有名な観光地の建物なのですぐに分かると思うのですが。衣装とかは、トルコのTVドラマで歴史モノがあったので、それに出ていたコスチュームを見ながら描いていました。
編集 原稿を受け取りに先生のご自宅に伺うと、壁いっぱいに資料がバーッと貼ってあって凄かったです。
岩本 必要な資料がほしい時に見当たらないことが多いので、常にその辺に貼っていした。他にも図書館から本を借りてきたり、書店やネットでも購入して集めていました。
―― それはかなり資料が膨大になって、置く場所など大変そうですね。なぜそこまで資料を集めようと?
岩本 前作の『町でうわさの天狗の子』の時が月イチの連載だったのですが、その時からもっと絵をちゃんと入れたいと思ってました。自分はまんが家さんの中では絵が上手い方ではないという自覚があるので、頑張りたいなと。それで時間をかけていいなら、もっと良い絵が描けるのではないかと思って時間をもらいました。
―― マンガ大賞の選考員のコメントをお読みになったということですが、気になるコメントなどありましたか?
岩本 本当にありがたいなと思いながら読ませて頂きました。男性の方で非常に長く語ってくださってるコメントがあったり、短くても愛がこもっているコメントもあり、とてもありがたいです。そして、皆さんすごく熱心に読んでくださってるなぁというのを感じました。
編集 岩本先生の作品は、間だったり気持ちなどを、あえて全部は語らない所もあるので、読者の心の中にあるものが引き出されるんだと思います。そんな“まんが力”の高い作品なので、読む人によって、100通りの熱く語りたくなる感想が生まれるのかなと。
特に『金の国 水の国』のような作品は、読む人が人生で経験してきたことが鏡のように映って引き出されたり、10代で読む時と、30代・40代で読む時では感想が違うと思うんですよね。子供の時に「うわー、楽しかったー。ディズニーみたいなまんがだった」という感想だったのが、大人になって読むと、難しい方の道を選ぶこととか、家族になる、夫婦になるとは…などを考えながら読むようになって、何度でも楽しめる作品だと思います。
―― 確かに読んだ時期によって色々な捉え方ができる作品だなと思います。先生の中でよくできたなというシーンがあれば教えてください。
岩本 ナランバヤルが屋根の上を走っていく見開きのシーンですね。空間が上手く作れた絵で、左側に地上が見えつつ、右の奥に目的の場所がきっちり入っているので、ギュッと抜けた感じが上手く出せました。ここまで頭の中でイメージした通りの絵が入ったのは初めてで、できあがった時に、よく描いたなと思いました。

岩本先生が「頭の中でイメージした通りの絵が入ったのは初めて」というシーン
―― 他に上手く表現できたシーンなどはありますか?
岩本 252Pからのナランバヤルとサーラの見せ場は、かっちりハマったなあって思いました。こういう背景がない所もこれだけでちゃんと描けたなと読み返して思いました。
編集 女子的には落ちるなら一緒に落ちようって言われたら、落ちますよ。
岩本 落ちますかね?
編集 もう付いていきますよってなりますよ、本当に。

岩本先生が「かっちりハマった」というナランバヤルとサーラの見せ場のワンシーン
―― このシーンは、乙女心をくすぐる言葉と内容が詰まっていますよね。
岩本 そこは少女まんがなので(笑)。
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