サッカーを知らない、興味ないかたにも面白いと言ってもらうこと
―― 『アオアシ』は当時のスピリッツ副編集長の「ユースを舞台にしたサッカー漫画が欲しい」という一言で、プロジェクトが始まったとお伺い致しました。このお話を受けたときの心境を教えてください。また、覚悟を決めた理由なども教えてください。
小林 先ほども答えたのですが、サッカー漫画を描くのは僕には無理だと思っていたので、一度断らせていただきました。しかし当時のスピリッツ副編集長が、多くの有名漫画家さんを育てた経歴をお持ちの方だったので、「そんな人が、わざわざ実績もない自分にこれだけ薦めてくれるというのは何か理由があるのでは?」と考え直して、改めて引き受けることにしました。
―― 取材・原案協力の上野直彦さんは、スポーツライターとしてサッカーのコラムを執筆されている傍らで、「少年サンデー」(小学館)で『なでしこのキセキ 川澄奈穂美物語』の原作なども担当されています。上野さんには実際どのようなことをしていただいているのでしょうか? また、先生からみた上野さんの印象を教えてください。
小林 上野さんは『アオアシ』において、試合の戦術、細かな常識などを本当に丁寧に教えていただいているので、僕と担当さんの「サッカーの先生」のようなかたです。サッカーボードに何パターンもの戦術の種類を書いて、写真で送ってくれます。またネームや原稿をチェックしてもらい、作中のサッカーにおかしなところがないかを見ていただいており、サッカーのリアリティを押し上げていただいています。
上野さんはとにかくサッカーが大好きで、話すとそれがとにかく伝わってきます。あれほどのサッカーへの熱意は仕事というだけでなく、本物だといつも思います。
―― 今作はクラブのユースが舞台ということで、サッカー漫画のジャンルにまた新しい舞台を提供したように思います。『アオアシ』を描くうえで心がけていることはなんでしょうか?
小林 一言でいうとわかりやすさです。『アオアシ』でいえば、サッカーを知らない、興味がない方にも面白いと言ってもらうことです。そのためには、とにかくまず意味が伝わること。次にプロット、つまりネームにする前の、文字の時点ですでに面白いこと。これを毎回の目標にしています。
※葦人が上京するにあたりもらった母親からの手紙に号泣するシーン
―― 主人公の青井葦人(あおい・あしと)は、先生と同じ愛媛県出身で、東京の強豪クラブエスペリオンに所属します。主人公が愛媛県出身で単身上京してくるというのは、先生の過去に重ねた部分があったりするのでしょうか。葦人の出身を愛媛県にした理由があれば教えてください。
小林 漫画家として売れない時期が続いて、『アオアシ』が勝負作というのもあり、とにかく主人公は、僕自身が感情移入できるように作ろうと思っていました。そのため、主人公の葦人を愛媛出身にしない理由がなかったのだと思います(笑)。僕も母子家庭でしたし、姉弟は姉ひとり、3人家族というのも葦人と一緒です。わざと僕自身と重ねているところはあります。3巻で葦人が上京する際に母紀子から手紙を貰うシーンがありますが、僕も同じような手紙を貰いました。
―― 主人公の葦人だけでなく、同期の冨樫、本木など個性あふれる選手がエスペリオンユースに揃っています。実在の選手をモデルにした登場人物などはいるのでしょうか。
小林 これ、という選手をモデルにして描いているわけでなく、たくさんの選手やそれ以外の方の要素を組み合わせてキャラクターを作っているような気がします。ただ一人だけ、阿久津(※)のモデルは、実は本田圭佑選手(ACミラン)です。
本田選手はあんな酷いこと絶対に言わないでしょうし、ラフプレーなんてもってのほかのプレースタイルなので誤解のないようにお願いします。
ただひとつ、フィールドにおいて最後まで残る確かな強さ、その象徴というのが、僕のなかでは本田圭佑選手でしたので、参考にさせていただきました。僕自身、現役選手のなかで本田選手が一番好きな選手でもあります。
※作中でのポジションはDF。去年唯一のセレクション合格者。セレクション時から葦人の天敵となっている少し陰湿なキャラクター。背番号4。
―― これからますますユースの存在が注目を浴びると思いますが、現状のユースにおいて成功している点、もっと改善していく点などありましたら教えてください。
小林 ユースは注目度が低いですよね…。僕も『アオアシ』を描くまで、ユースがどこで試合をして、何の大会に出ているのか知りませんでした。取材で観戦した試合も観客がすごく少なくて、もっとユース世代から応援してもらえたらいいなと思います。
―― 4月28日には、最新刊の9巻が発売されました。先生オススメの魅力、見どころはどこでしょうか。
小林 初めて敵チームのキャラクターにスポットが当たるところです。
>次ページ「WEBで漫画も増えて、新人の作家さんに掲載の機会が増えるのなら良いこと」