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『ヲタ夫婦』の著者 藍先生が語るアイドルヲタクの結婚”トリセツ”
2017年8月4日


地下アイドルとそのヲタク達の両方に光を当てた、話題作『ミリオンドール』の著者が描く、自身初のエッセイ『ヲタ夫婦』。この作品では、アイドルヲタク同士の交際から結婚までの苦悩や葛藤を、赤裸々に綴っている。

電子書籍ランキング.comでは、漫画家として「アイドル業界に還元したい」と強い想いを語る藍先生にインタビューを行った。アイドルヲタクとして、漫画家として、エッセイを描くに至った想いや知られざる結婚生活など、十二分にお伺いした。

漫画家として寄り道をしたのが結果的によかった

―― 漫画家を志すきっかけを教えて下さい。

藍先生(以下 藍):元々、私は漫画が好きだったことが志すきっかけです。中学生のときから創作活動を行っていました。最初はトントン拍子で、中学生のときに投稿した作品が賞を頂いて、そのまま高校生のときにデビューをしました。ただ、かなり早めにデビューしたので、実力が伴っていなくて長続きしませんでした。そんな状況で卒業が近づくにつれ、「進路どうしようかな?」と卒業後の進路を考えている最中に投稿した作品が少女漫画誌の月例賞で1位を獲得できて、「漫画家としてやっていけるかもしれないな」と思い、若さの勢いもあり18歳で上京しました(笑)。
ただ、漫画業界も競争が厳しい世界で、2、3年ぐらい東京で活動しましたが、泣かず飛ばずでした。ちょうど年齢的に20歳そこそこの時だったのですが、漫画家として大成しない理由は社会経験が乏しいせいかもしれないと思い、一度漫画のことを忘れて一から常識をみにつけようと決意して、就職しました。そんな一番落ち込んでいるときにアイドルに出会ってしまい、気づいたらアイドルヲタクになっていました(笑)。
アイドルヲタクをしているうちに、仕事の方も軌道に乗ってきて、仕事でやりたかったことを大体やれてしまったんですね。そうしたら、仕事よりアイドルヲタクの活動の方が楽しくなってきて、仕事へのモチベーションがさがってしまって(笑)。そのときに、昔から慣れ親したしんだ自分の漫画を描く技術でアイドルヲタクの楽しさやアイドルについて、作品を発信できたらいいなと思って、再び漫画家活動を始めました。これが『ミリオンドール』の始まりです。この作品をGANMA!に持ち込んだところ「面白い!」と言ってくれて、連載開始になりました。その後この作品がきっかけで、あこがれだったアイドルさんと仕事もできるようになったので、やってみて良かったなと。
私は一度漫画家を諦めてリセットしたので、ちょっと特殊かもしれないですけど、寄り道をしたほうが、漫画家としては良かったのかなと思います。

―― 藍先生自身は、どのような漫画を読まれていたのですか?

藍:『月刊少年ガンガン』(スクウェア・エニックス)の作品を読んでいました。1990年代後半~2000年代初頭当時は、『月刊少年ガンガン』でも女の子受けする作品が多くて、『まもって守護月天!』(著=桜野みねね)や『PON!とキマイラ』(著=浅野りん)などを読んでいました。
その前は、テレビ東京で放映しているアニメが好きでした。あかほりさとる先生の作品や『スレイヤーズ』(著=神坂一)、『少女革命ウテナ』など当時の作風が濃いのが好きで。今でも1990年代アニメは何でも好きですね。『カウボーイビバップ』もみかえすと凄く面白いですね。

―― 1990年代の作品は最近リバイバルされて放送される作品が多いですが、当時みていた人達を中心に人気が根強いですよね。

藍:リバイバル商法ってすごいですよね(笑)。『カウボーイビバップ』『機動戦艦ナデシコ』のHDDリマスターをTVでみて「めっちゃ面白いじゃん。映像綺麗じゃん」と感動しました。このような1990年代のヲタク要素の強い作品が好きですし、ルーツだと思います。古い少女漫画もすごく好きです。岩舘真理子さん、大島弓子さんや萩尾望都さんが特に好きで、当時よく読んでいました。一時期は一応少女漫画家をめざしていたので、少女漫画は今でも好きです。

―― 漫画以外ではどのようなものがお好きだったんでしょうか?

藍:他はやはりアイドルです(笑)。女性アイドルが好きなのは、子供のころにみていた『セーラームーン』の影響が大きいのかもしれません。ずっとイケメンアイドルではなく、戦う女の子に憧れてきました。その後、モーニング娘。が流行り始めて、同世代の子がメンバーとして仕事をしていてカッコイイなと思い、個人的にはハマる要素が全て揃っていましたね(笑)。特に松浦亜弥ちゃん高橋愛ちゃんが好きでした。

ミリオンドール
※先生の名前を一躍押し上げた『ミリオンドール』

―― 先生のアイドルヲタクとしてのルーツは、モーニング娘。だったんですね。前作の『ミリオンドール』はアイドルとヲタクにスポットを当てた漫画ですよね。この2つを中心に扱う漫画は珍しいと思いますが、どのような所を意識しましたか?

藍:元々、『ミリオンドール』を考えたのは、ヲタクとしての足跡を残したかったからなんです。アイドル、特に2009年くらいのハロー!プロジェクトAKB48のヲタク同士の間に壁をすごく感じましたし、ハロヲタがAKB48を馬鹿にしていた風潮もありました(笑)。それが今はまったく違う状況になっていて、女性アイドルは一大ムーブメントになって、昔みたいな壁もなくなったので、その歴史とか、人の考えの変化を残しておきたいなと意識しました。

―― 今では国民的アイドルと呼ばれているAKB48も最初は地下アイドルという見方も強かったですよね。

藍:当時、私もAKB劇場がどんなところかわからないっていう恐怖があって、でもそこさえクリアしてみにいってみれば、「楽しい」、「ちゃんと頑張っている子達いるじゃん」と色眼鏡なしでみることができました。そういう価値観の変化があったから、次々と「他のアイドルをみに行こう」と抵抗もなくなったのですが(笑)。
今では普通のOLをしていたら行かないようなライブハウスに1人で行けるようになりました。非日常が楽しくなっているんですよね。アイドルだけでなく、一歩を踏み出したら、意外と楽しいことは多いということを知らない人がたくさんいると思います。その垣根を執拗にぶっ壊す作品を描きたいなと思って、生まれたのが『ミリオンドール』です。
そのため、アイドルは家で応援するものという「すう子」と、アイドルは現場に足を運んで応援することがすべてだという「リュウサン」という全然相容れない価値観の2人を描くけれど、どちらの価値観を肯定も否定もしないようにしました。読者がどちらの価値観が正しいのか分からなくなり、漫画を通して、アイドルヲタクに洗脳できたらいいなと思っていました。私のヲタクとしてのバックボーンを詰め込んだうえで、アイドル業界に還元したいと考えていました。そのため、最終的には読者が「アイドル現場に行きたい」と思ってもらえるように描きました。

―― アイドルの世界を先入観なくみて欲しいと……。

藍:そうですね。実はこの企画をおみせした編集さんには、「現場と在宅じゃなくって、風俗好きのアイドル嫌いのおじさんとアイドルヲタクにしろ」と言われたこともあります。
若い人の感覚では「在宅」と「現場」という対立軸を描くというのは、斬新にみてもらえるのですが、昔からある出版社の編集さんの感覚では、全く理解されませんでした。「そもそもCDを何枚も買うような人たちの気持ちなんてわからない」という編集さんもいました。なので、古い考えだとできないような事をWebマンガでやってやろうという気概もありました。

――『ミリオンドール』ではアイドルが数グループ出てきますが、そのモデルは当時好きだったアイドルですか?

藍:はっきりと実在するモデルを明言してしまうと、その子たちを知らない読者の共感をえるハードルが高くなるし、アイドルヲタクの人ならだれでも共感できるようにしたかったので、エッセンスだけ参考にするという方式をとっています。誰かに似せるのではなく、「誰かに似ている」と読者が思えるように描きました。どんな読者も「自分の推しに似ている」なと思ってもらって、漫画のキャラクターにそれぞれの思い入れを投影できる存在になって欲しいなと。

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