ヲタクの妻みたいなポジションを妻視点で描いている作品が無かった
―― 『ヲタ夫婦』を描くきっかけや理由を教えてください。
藍:Twitterでの落書きとして始めたのがきっかけです。『ミリオンドール』も軌道に乗って、忙しくなっている状況の横で、ヲタ夫はアイドル現場に行きまくっていて楽しそうにしていました。それで楽しそうなヲタ夫から受けた被害をいつかネタにしてやろうと思っていました(笑)。ストーリー漫画では気軽に発信が出来ないストレスと、ヲタ夫に対するストレスが合わさって『ヲタ夫婦』は生まれました。
その様子をcakesさんがみてくれていて連載が決まりました。その後、「この連載を書籍化したい」といって出版社を募集していたら、BiS(※)の書籍を編集した「MOBSPROOF」さんこと松原さんから「BiSを作った渡辺淳之介さんの自伝とBiSの写真集を作りました。今度はBiSで人生が狂わされた男の本を作りたいんです」と口説かれて、書籍化が決まりました。
※アイドルグループ「BiS」のこと。2010年11月より活動を開始し、ファーストシングルのミュージックビデオではメンバーが全裸(にみえる演出)で出演、大きな話題となった。その後も多くの話題・騒動・賛否を巻き越しつつ、2014年7月8日に開催された横浜アリーナでの公演をもって解散。解散から2年後の2016年7月に再始動が発表され、オーディションを経て、同年9月より新体制で活動が開催された。
―― アイドルヲタクは、世間一般では理解されにくい趣味ですが、ヲタクとしての自己表現をする際に抵抗はなかったですか?
藍:実際にヲタク同士で結婚すれば、「趣味が同じで理解もされやすいし、ラクでしょ」とお考えのかたも多くいらっしゃいます。なので、余計に「苦労をしている私を分かって欲しい」というのがありましたね。でも、ヲタクの妻みたいなポジションを”普通”の人でもわかるような妻視点で描いている作品が無かったので、実際のヲタ夫婦のリアルをエッセイとして描こうと思って描き始めました。
―― 夫婦のエッセイとして、結婚に対する価値観を伺える書籍ですよね。
藍:確かに「内容は普遍的だ」と言われます。私自身もそこは意識しました。一般の女性が、ヲタクと結婚すると決まった時に読むと、覚悟が出来ると思います(笑)。
『ヲタ夫婦』は、ヲタク特有の事は多いけれど、内容の根幹としてはどの夫婦にも起こり得る事ですから。
―― cakesとGANMA!との連載には、どのような違いを受けましたか?
藍:GANMA!には漫画作品しか載っていないので、競合作品が多く、読み飛ばされてしまうことも多いので、企画段階で少し尖った他にない作品にすることが重要でした。 一方cakesは媒体としてのカラーが強く、コラムやエッセイ等漫画以外のコンテンツが多く大人の読者が多いので、奇抜さではなく、大人が読んで知識やフィードバックをえられるように作品を描くよう意識しました。この点がGANMA!と違いましたし、面白かったです。
連載当初は、ヲタ夫の友達の感想をよく目にしました。「真面目な男だと思っていたのに」、「俺はヲタ夫をこういうヤツだと思っていたけど違ったんだな」と言う感想が多かったです。連載を続けていると「今、アイドルヲタクの彼氏に悩まされている」という女性の方のフォロワーがめっちゃ増えました(笑)。ここ最近の読者層は、最近アイドルを好きになったり、ヲタクとしての繋がりを求めていたり、ライトなアイドル好きの女性が読んでくれているなと感じています。そういう人たちが居場所を求めてやって来てくれるのかなと。マイナーな穴場みたいな作品であれば嬉しいなと思います。
―― 先生がお好きな東京パフォーマンスドール(※1)の小林晏夕(こばやし・あんゆ)さんからは、読んだ反応はありましたか?
藍:Twitterで、「『ヲタ夫婦』を読みました」と書影と一緒に呟いてくれました。その瞬間、「色んな苦労が報われた!」と感じました(笑)。その後、握手会に行ったら「お母さんと読んだよ」と感想を言ってくれました。晏夕ちゃんのお母さんがすごく読んでくれたみたいで、ありがたいですね。推し(※2)に夫婦生活をさらけ出しているのですが、その羞恥心に耐えられれば、私のような想いを得られますよ(笑)。
※1 1990年代に同名グループが活動しており、現在女優として知られる篠原涼子らが所属していた。現在の東京パフォーマンスドール(以下、TPD)は、先代TPDを起源とし、2013年に活動が開始された”新生”東京パフォーマンスドールである。
※2 アイドルグループの中で、特に応援している・気に入っているメンバーのこと。
―― 他のアイドル、例えばヲタ夫さんが推しているBiSさんなどから反応はありましたか?
藍:『ヲタ夫婦』自体は、BILIE IDLE®(※)のファーストサマーウイカさん、同じグループでヲタ夫の推しのヒラノノゾミさんやBiSのプー・ルイさんも読んでくれたようです。ウイカさんが読んだ感想は『ヲタ夫婦』の巻末に書いているので、是非(笑)。
※2015年に結成されたアイドルグループ。BiSのプロデューサーである渡辺淳之介氏とNIGO®氏が共同プロデュース
―― アイドル以外の方からの感想はいかがですか?
藍:アイドルイベントを主催している電撃ネットワークのギュウゾウさんが、アイドルに宣伝してくれたり、ギュウゾウさん本人からも「読んだよ」とお伺いしました。あと、アイドルのマネージャーさんやマネージャーさんの奥さんが読んでくれたようです。アイドルより、周辺の関係者や特にその方々の妻に響いているのかもしれないですね(笑)。
―― 思い入れのあるシーン、すごく印象に残ったシーンはありますか?一番印象に残ったのは、ヲタ夫が指輪を贈るシーンです(笑)。
藍:ヲタ夫が祖母の遺産を結婚指輪に使うシーンですね(笑)。そのシーンがキャッチ―なネタになるとは、描いている当時は思わなかったですね。当時私もおかしいとは思っていましたが、他人からみてもヤバイことだとは気づきませんでした。cakesの編集さんも、「ヤバいですね」とずっと言っていました。このシーンをネタにしないと、自分が可哀相な気がしてしまって(笑)。
私が書籍でオススメしたいシーンは、Tシャツコレクションのページがお勧めです。はたからみるとどれも、同じTシャツなんですけどね(笑)。

※ヲタ夫のTシャツコレクション『ヲタ夫婦』P.108より
―― 藍先生がアイドルに傾倒していくシーンも印象的です。
藍:このシーンを掲載したときに読者からかなり反響がありました。本当にこのシーンのときは、当時「ヲタ夫、要らない」と思っていました。私が無茶苦茶やって、ヲタ夫がちょっと引くなら、「それでいいや」と思っていて、別れを切り出されても構わないぐらいの気持ちでしたね。狂っている人がそばにいると、影響されて狂っちゃうんですよね(笑)。
―― 先生ご自身は、アイドルヲタク同士の結婚は、勧めますか?
藍:ヲタ活するのであれば、独身がベストです。独身で自由のきく仕事があって、お金をつぎ込める環境がヲタ活するのにはベストでしょう。それでも結婚したいなら、きっと何かしらの理由がみんなありますし、少しの不自由さと引き換えにメリットになるかデメリットになるかどうかだけだと思います。ヲタ夫婦が結婚できたのも、ヲタ夫本人が、「結婚したい」、「ここを逃したら一生結婚が出来ない」という思いが強かったのが大きかったと思います。
結婚すると楽しい事もあるし、しんどい事もある。アイドルヲタクはしづらくなるけど、ヲタ夫婦みたいに普通のヲタクをしていたら味わえない面白体験もあるかもしれません。
この本には、夢があまり無い分、今まさに苦しんでいる人には良いかもしれないですね。他にも、独身の方が「やっぱり独身が最強だな」と自信を持ちたいときに使ってもらえればと思っています。
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