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「マンガ大賞2017」受賞作『響 〜小説家になる方法〜』の柳本光晴はまさに”響”だった!?
2017年8月10日


圧倒的な才能が存在する世界はどうなるのかを描いてみたかった

――『響』の中でいろんな作家さんと担当の編集者さんの関係というか、コンビがいろいろと出てくると思います。お二人にお伺いしますが、それぞれマンガの中で理想の編集者像とか、キャラクターの中で編集者像とか、作家像、あと2人の関係性みたいなものは、それぞれどういう風にお考えですか?

待永(編集担当):『響』の中に出てくる人は極端な人しかいないですね(笑)。

―― 登場するのは、色々な実体験の中から生まれたキャラクターですか?

柳本:マンガのキャラは全部自分の切り売りだと思っているので基本的に全部自分ですね。なので、自分の思っている自分と、周りから見える自分は違うようなもので、僕は周りからは本当に響に似ていると言われます。

―― やっぱりどのキャラクターも芯があるというか、響ありきのわき役じゃなくて、それぞれ主人公にしても面白そうなくらい濃いキャラクター性があるっていうのは、柳本先生ご自身の心を一部抽出したキャラクターだからですよね。この作品の中のテーマが圧倒的な天才を描きたかったというところで、響という他の追随を許さない天才がいて、物語の中核となるのがその天才響に対してほかの人達が、どういう立ち位置で、どう折り合いをつけていくのか、ぶつかっていくのかという物語が主なのかなと感じました。

柳本:やっぱりそうですね。そういうすごい天才、圧倒的な才能が存在する世界がどうなるかという、単純にスケールの大きなものを描きたかったというのが根っこの想いです。後は、その天才と女子高生のかわいらしさとの対比を描きたかったです。

―― 響もあれだけ圧倒的な才能を持ちつつも、一方では普通の女子高生ですもんね。

柳本:そうなんです。だから周りからあんまり大きく干渉されなければ、おとなしくずっと本を読んでいるだけの、本当に普通の文学少女なんですよ。少なくとも学校ではそういう風に認知されているのではと思います。

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※『響 〜小説家になる方法〜』1巻より

―― 響が、自分の正しいと思っていることと、世間からそれは違うよと言われていることに対してギャップを感じています。自分は正しいんだろうか葛藤するシーンがあるのですが、普通の女の子だなと感じました。ただ、悩んでいるレベルがとんでもないのですが(笑)。

柳本:逆に響はその悩みが1話冒頭なのですけど、そこの悩みだけに関しては本当に普通の女の子、普通の子たちと同じところで悩んでいます。ちょっと周りと違うかな、くらいの。自分のこの圧倒的な文才を自分はどう活かすべきかみたいな、そういうとんでもないところ、あんまり本人もそういう自分のことを思っていなくて、実は普通の女の子だと思うのですよね。

待永:考えたらモノローグも、初めの方にしかあんまり出てこないですし、漫画表現上は悩んでいないように見えますよね。

柳本:だからちょっと、軽く思うわけじゃないですけど、誰でもあるような些細な悩みは、彼女は普通に感じています。

―― 普通に作家さんと会って、喜んでいるシーンは象徴的ですよね。

柳本:そうそう。だから僕はかなり普通の女の子くらいのつもりで描いているのですけどね。

―― そのギャップが、やっぱキャラクターのオリジナリティを作り出しているのですね。

柳本:そうですね。普通なのだけど、すごい何かを持っているっていう感じです。

―― 響は良くも悪くも行動的ですが、先生は『響』を描いている中で印象的なシーンはありますか?

柳本:『響』は、連載作品だからなのか、描いているときは毎回今回のエピソードに手応えがあると思っています。でもやっぱり描き終わったら、本当にすべての話において、もっと描きようがあったなとか、全部に後悔があるのですよね、正直。なので、まだまだ自分が描きたいマンガのネーム力だったり画力だったりが全然自分の理想に追いついてないです。どのシーンが自分のお気に入りっていうのは、正直今のところまだ言えないです。

―― ピンポイントで胸に刺さるというか、いろんな葛藤が自分に反映されていて、読者としては印象的です。具体的にはどのような点が先生ご自身納得いっていないのでしょうか?

柳本:自分の描きたいものと描けたものが『響』に関してはまだ全然一致していません。他人に自分のマンガを進めるとき、その前に描いた短期集中連載の『女の子が死ぬ話』という作品を勧めています。この作品は描きたいことちゃんと描き切ってあるので。『響』に関してはまだ、なんかもっと描きたいことがあるのに、いくらでももっとあるのにと、ずっと思い続けています。

―― それをいつか描こうというモチベーションが常にあるということですね。

柳本:スペリオールの他の作品を読んでいても、本当に『響』だけ、「やっぱり違うんだよな~、なんか変なのだよな~」って思います。

待永:作家さんとして意識の高さでしかないということですよね。

―― 読んでいると、これもすごい筆乗って描いたぞっていう感じで描いたのかと思いました(笑)。

柳本:でも実際、ネームとかは毎回そんな感じです。それこそ毎回いいので出来たなって思うのだけど、描いている最中や描き終わってから「もっと描きたいことあったな」とやっぱり思います。

―― 完璧っていうところを求めると……。

柳本:全然、まだまだ。

―― そういうモチベーションじゃないと、常に求めていないと……。

待永:やっぱり満たされちゃうとあれなのでしょうね。

―― ちなみに今回圧倒的な天才が主人公ですが、先生が天才と聞いて、まず真っ先にイメージするものや人などはいますでしょうか?

柳本:1番の天才を上げろって言われても、結構その時その時で変わります。趣味というか、1番好きなのがマンガで、今も本当に子どものころと全く同じ目線で読んでいます。ただ今、「天才は?」と聞かれて真っ先に思い浮かぶのは『BLUE GIANT』を書かれている石塚真一先生です。

―― 柳本先生が考える天才とは、どのようなものでしょうか?

柳本:最近「天才とは?」と質問されるのだけど、それを具体的な定義づけをしろと言われたら、たぶんそれっぽいことは言えるとは思いますが、本当にそうかと言われたらどうなのかなと思います。
マンガを読んでいても、ここはものすごい理屈で描いているなって部分と、ここの部分センスで描いている部分だなという風な見方をしちゃうのですが、そういう点において、センスで描いていてそれが優れている作家さんはいっぱいいます。僕は本当に読者目線で読んでいるので、今この人がまさに天才だなというか、今誰に関して熱上げて語れるかっていうと、さっき言った石塚さんと『週刊ヤングジャンプ』で連載している『かぐや様は告らせたい』というマンガを描かれている赤坂アカ先生ですね。あの人は本当にすごい、天才だなって最近すごく思います。毎回毎回全く新しい切り口を見せてくれる。そろそろワンパターンになってきたかなって思って読んでいたら、こんな切り口なんだかすごいなー、センスの塊だなって思いながら読まされていますね。

―― 確かに一つのパターン化された中で毎回違う、やっぱりストーリー的なところもすごいって感じるのですか?

柳本:読んだときの直感だけですね。それで天才だな、と……。有名な言葉で「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」という言葉がありますよね。そんな感じで面白くないなって思ってマンガに関してはいくらでも理屈でここがダメ、ここがダメっていうけど、面白いマンガに関してはもう理屈ではなくて、わー、すげえなって。
天才という話に戻ると、井上雄彦さんとか冨樫義博さんとか鳥山明さんですね。90年代ジャンプで育ったので、ずっと自分の好きなマンガ家ランキングの中にずっと居続けている人達です。それこそ、昔読んでいた『スラムダンク』や『幽遊白書』、『ドラゴンボール』と同じぐらい好きなマンガも昔はありましたが、大人になってマンガを描くようになった今でも好きなのは『スラムダンク』、『幽遊白書』、『ドラゴンボール』なんですよ。他のマンガは自分の中で振るい落ちていって、今新たなマンガにとって変わられていってしまいました。そういうことを考えると、時間を超えて面白い作品が本物なのだなっていうのは本当に強く思いますね。

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