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『「義憤」を作品へ昇華させたデビュー作 受賞作『影裏』 著者・沼田真佑さんインタビュー』
2017年9月27日


7月19日。新たな芥川賞作家が誕生した。受賞作は自身デビュー作、初ノミネートでの受賞だ。本作は、文學界新人賞に続いての文学賞2冠に輝いた。
受賞者は、沼田真佑(ぬまた・しんすけ)、39歳の作家。言葉の端々や佇まいに独特な風情を感じる。

電子書籍ランキング.comでは、衝撃のデビューを飾った沼田真佑さんにお話をお伺いしました。沼田さんが抱く、受賞作『影裏』への想いや作品に投影した気持ちとは?是非、ご覧ください!

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芥川賞授賞式を終えてもなお、フワフワしています。

― 芥川賞受賞おめでとうございます。受賞から1ヶ月経ちましたが、実感は湧いてきましたか?

沼田真佑(以下、沼田):正直、実感は湧いていないです。芥川賞の候補に名前があがり、受賞するまでの間はまるで異国の祭に参加している気分でした。昨日授賞式を終えてもなおフワフワした気分がつづいています。

― 受賞作『影裏』は、文學界新人賞も受賞されています。その頃から「フワフワ」しているのでしょうか?

沼田:新人賞のときにもそうでしたが、芥川賞の場合、新人賞とは少し違いました。身の周りの人たちだけじゃなく、知らない人からも声をかけられるようになった点で新人賞とは違っていました。そもそも人前に出ることは性に合っていないんです。作風も地味なので、大きな賞とは無縁だと感じていました。芥川賞はもっと長い間小説の世界に身を置いてきた人が受賞するものだと思っていました。この点でも該当しないな、と。

― 作品の舞台はお住いの岩手県ですが、受賞後の地元の反応はいかがでしたか?

沼田:喜んでいただいています。東京に住んでいると想像がつかないかもしれませんが、極端な話、街をあげて応援してもらっている感じがします。実際に目にしたわけではないんですが、県内の書店では店頭で大きく取りあげてくださったそうです。本当にありがたいと思っています。

小説家そのものはカッコいいと思っていました。

― 先生の生い立ちをお伺いします。沼田先生は、西南学院大学ご卒業後に進学塾へ就職したと伺っております。進学塾に就職した経緯を教えて下さい。

沼田:自分の場合はすべて逃げです。ずっと勝ち負けのつかないところでやってきました。大学進学にあたって、以前住んでいた関東地方に住みたいと思ったので東京の私大を受けました。けれど願いがかなわず、当時住んでいた福岡の大学に進学しました。就職活動では食品メーカーと住宅メーカーから内定をもらいましたが、入社直前になってことわりました。それから急遽就職口をさがして見つかったのが学習塾の仕事です。土壇場のことでした。

― 何かを教えたいというお気持ちはありましたか?

沼田:特にはなくて、ただただ授業をこなしていました。当時はむしろ偏差値教育に反発をいだいていたので、いわば仮面をかぶって働いていたようなものです。

― 小説を書き始めたのは福岡で塾講師をしていたときだと伺いました。小説を書き始めた理由を教えてください。

沼田:唐突に始めたわけではなく、ずっともやもやした気持ちをかかえていました。その感情をふっと書き起こしたのが始まりかもしれません。小説を書くぞ、といった構えはなく、たんに日ごろのストレス発散が目的です。書く内容はさまざまでした。ウェスタン物だったりチャンバラだったり。純然たる現実逃避として書き始めたのがきっかけです。

― 芥川賞選考委員からは、文体や描写力が評価を受けました。文字を書く習慣は、現在までつづいているのですか?

沼田:35歳くらいからはほとんど毎日何かを書いていたと思います。ただ、それ以前の塾講師時代には書いていない時期もありました。けれども長いスパンで見ればずっと書いていたとはいえると思います。

― 毎日書くようになった理由は何かありますか?

沼田:文章を書くのが嫌いになるのではないかという危機感からです。習慣にしておかないとまずいな、と。「面倒くさいから今日はやめよう」とか「酒が飲みたいから書くのやめよう」とか、そんな状態を繰り返しているうちにさぼり癖がついたので、せめてちょっとした描写やほんの一文でもいいから毎日何か書こうと決めました。書くことを嫌いにならないようにしようともがいたわけです。筋トレや歯磨き、スクワットみたいな感じですかね。文字数も手書きで800~1200字のとき、2000字くらいのときなどそのときどきで違っていました。ただ、創作的なものを書こうとは意識しています。

― 手書き以外にもパソコンで行うこともありますか?

沼田:パソコンでも同じです。ただ、パソコンは何かと誘惑が多いし、起動するときなど待ち時間がかかったりします。それが邪魔くさいときは手書きで紙に書きますが、最終的にはパソコンに打ち込みます。書いたものはかならず保存するというわけでもなく、その日のうちに消去したりしますが、ちょっと使えそうなものは別のノートに記録します。

― 物書きを始めたとき、またそれ以前は小説家への憧れはありましたか?

沼田:ちょっと格好いい職業だなとは思っていました。雀士や棋士、プロレスラーの方が持っているようなたたずまいが作家にもあると思います。業務時間外でも個人として看板を背負っている姿勢が面白く、いわゆる粋な商売だとは感じましたし、憧れに近いものはありました。ただ、自分は縁の薄い世界だとも感じていました。

― 大げさに表すと生き方に憧れたということですか?

沼田:憧れではなく、何となく格好いいと感じていた程度のことです。逆に言うと、同じ社章をつけたサラリーマンがたむろしている姿とか、そういう群れる感じを格好悪いと感じてしまう人間なんです。自分は子供のときから舞台や映画、本が好きで、要するにフィクッショナルな世界に関心がありました。特に悪役というか悪党好きで、たとえば小説の登場人物でも、シャーロック・ホームズよりは怪盗ルパンのほうが好みでした。

― 現在、本は何冊ぐらいお持ちですか?

沼田:本にかぎらず、物事全般に愛着を持ちすぎないよう心がけていますので、ある程度時間が経ったら処分しています。蔵書を誇る、みたいなかたちになりたくないんです。これまで所有した冊数をトータルしたら、それなりに数は多いと思いますが、現在は文庫本も含めても500冊程度だと思います。

― 蔵書にしないために、読み終えると売るのですね。沼田先生は、電子書籍を利用されますか?

沼田:一度もないです。自分の携帯はまだガラケー(フィーチャーフォン)なので、電子書籍は利用できません。仮にガラケーからスマホやタブレットに替えて、そういうのが好きになれば利用するとは思います。文字を目で追うのは好きなほうですから。特別紙媒体にこだわっているわけでもなくて、たんにスマホで読む習慣がないだけの話です。

― 電子書籍に対してどのようなイメージをお持ちですか?

沼田:便利である一方で、ちょっと目が疲れるのではないかと思っています。自分は紙書籍の、パッと目的の箇所を開くことのできる速さだったり、ページを手でめくったりする感覚が好きです。ただ、電子書籍リーダーに内容を行き来しやすい機能があれば面白いとは思います。羨ましいのは大量のデータがスマホやタブレットにはおさまることで、部屋がすっきりすると思います。

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