「12歳の文学賞」はずっと花実ちゃんが主人公の話を書くつもりだった
―― 作業的なお話もお伺いできればと思います。今回本を出版するにあたって、4年生の時に書いた「Dランドが遠い」と6年生の時に書いた「いつかどこかで」をそれぞれ見直して、書き直されたかと思います。
実際に過去に書いた作品を見直してみていかがでしたか。
鈴木: 4年生の時の作品は、花実ちゃんの言動がより子供っぽかったです。例えば、4年生の時は花実ちゃんの一人称が「あたし」になっていて、6年生の時は「わたし」なんです。
こういった箇所は6年生の時の作品に合わせて直しました。
あと、花実ちゃんの行動も変わっていますし、文章の書き方も4年生の時の方が稚拙だなと感じました。
―― 今回は過去作品を書き直すとともに、新たに3作品を書き下ろしました。一番大変な作業なんでしたか。
鈴木:書く事は大変ではないんですけど、その後に担当の編集さんからいただく直しとかが結構大変でした。
こういった直しが初めてだったというのもあります。
―― 今回は5年生の時に書いた「マイワールド」は収録されていませんが、これはなぜでしょうか。
鈴木:「Dランドは遠い」と「いつかどこかで」は主人公が花実ちゃんで共通したストーリーだったのですが、「マイワールド」は全く別の話だったからです。
―― 4年生と6年生が共通のお話で、5年生が別の話になったのはどういった経緯からでしょうか。
鈴木:元々、5年生の応募の時も花実ちゃんを主人公に話を書こうと思っていました。
ただ、実行委員の方より「違う世界観の話も書いてみるほうがいいよ」と勧められたので、違う話を書きました。
―― そうなんですね。で、改めて6年生の時に花実ちゃんで書いてみたと……。
鈴木:はい。今回の書き下ろしも含めてですが、書きたいことはだいたい浮かんでいたので、それに沿って書きました。
それもあって、書き下ろしの作業自体は苦ではなかったです。
―― 『さよなら、田中さん』で個人的に上手く書けたという描写があったら教えてください。
鈴木:二篇目の「花も実もある」で、花ちゃんが紅茶を淹れるとき、過去にあったいろいろなことを芋ずる式に思い出す箇所がありますが、あれはプルーストの『失われた時を求めて』で、主人公が、マドレーヌを紅茶に浸して食べたら、昔のことが思い出された…というのを意識して書いてみたんです。
―― 以前に読んだ作品で気になったシーンがあったので、使ってみたと……。
鈴木:はい、プルーストには遠く足元にも及びませんが、面白いシーンになったかな、と思います。