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「新刊本のタイトルを募集します」。『小説X』担当編集者が語る 出版業界再生の可能性
2018年2月14日


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「完全にパクっています。」

 
― タイトル公募企画の発端を教えてください。
 
編集:蘇部さんの前作『運命しか信じない!』は面白かったのですが、あまり売れ行きは伸びませんでした。さらに、最近では本当に紙書籍として出版することのハードルがかなり高くなっています。蘇部さんもこれを書き上げたけど、紙書籍として出版できるかどうか分からなかったんです。
私が初めて読んだ時に、「面白い。前作よりは売れるかもしれない」と思いました。しかし、前作の売れ行きでは紙書籍での出版は難しい。それまでは文芸作品を電子書籍として出版する、という考えがなかったので、出版するのは厳しいかと思われました。
コミックは、電子書籍化が進んでいるんですけど、文芸は遅れていて。当初は、販売部や上層部からも、「紙書籍で出版するのは難しい」と言われていました。
 
― 電子書籍で出版することを前提にした取り組みだったんですね。
 
編集:流れでそうなりました。紙書籍として出版できない作品をどうすればよいかと考えていただけです。そんな状況下で、7月に新潮社さんが新刊『ルビン』のキャッチコピーを公募する企画を行っていました。このキャンペーンは画期的だなと。電子書籍だったら、流通コストも抑えられるうえに、新しいプロモーションもできると感じました。
すぐに、デジタル事業局の人に「蘇部さんの本も同じような形でできますか?」と、相談しました。そしたら、「デジタル事業局でプロモーションを行って盛り上げましょう。」と言ってくれたので、電子書籍だけで出版することを前提に始まりました。
蘇部さんには、「紙書籍で出版するのは厳しいですが、電子書籍だったら出版できます。その際に、ただ単に出版しても誰も注目しないので、読者からタイトル募集していいですか?」と相談しました。蘇部さんは「やりましょう。」と仰ってくれました。
作家さんにとって、作品のタイトルを決めるのは作品に命を吹きこむことと同じなので、厳しいのではないかと思っていました。蘇部さんは「じゃあ、お任せします。」と快諾してくれました。
 
― 今回の企画とそれが異なる最も大きな点は、作家の知名度だと思っています。蘇部さんは文学賞も受賞されている大物作家ですよね。企画開始前後には、社内外の批判や消極的な意見はありませんでしたか?
 
編集:全く無かったですね。本当に無くって。それよりも、本作は本当に出版できるかどうかの瀬戸際だったんです。
蘇部さん自身も現状を分かっているとは思っています。早稲田大を出て、デビュー作でメフィスト賞を受ける華やかな経歴をお持ちの一方で、最近では執筆する機会も減り、生活のために牛丼屋でアルバイトをしています。もしかしたら、今後蘇部さんが著書を出す機会が無かったら、一生牛丼屋でアルバイトしないといけない。そのような現状に置かれている蘇部さん、デジタル事業局や上層部と、そして面白いことをしたいと思っている文芸編集部がタッグを組んだ企画です。障害になるとしたら、紙書籍として出版できるか否かだけでした。
 
― 2016年に岩手県の書店で行われた「文庫X」や去年新潮社さんで行われた『ルビン』のような企画を取り組むにあたって、読者に対して”二番煎じ”だと受け取られるかもしれない不安はありませんでしたか?
 
編集:蘇部さんも私も「完全にパクっています。」と言っています(笑)。8月ぐらいに「この作品の原稿どうする?」と言って、9月ぐらいにデジタル事業局に相談して、10月に企画の方向性が固まって、11月に実施するというスピーディーさで進みました。
その後に聞いた話では、『ルビン』のムーブメント後に、「ウチもやろう。」と考えて、同じタイミングで企画を仕込んでいた出版社があったそうです。もしかしたら今、他の出版社がやっていた可能性もあったんです。だから、二番煎じで良かった。おそらく、この販促手法は飽きられてしまうと思います。だから、次を考えなきゃいけない。以前と比べてインターネットユーザーの飽き方は、本当に早くなっています。だから、もうこれが、今後の蓄積になるとは思わないようにしています。ただ、デジタル事業局と協力していくことに関しては、模索していく必要があると思います。
 
― デジタル機器で電子書籍を読み始めても、飽きたと感じれば他のコンテンツに移ってしまいますよね。
 
編集:そうなんですよ。だから、二番煎じでギリギリセーフだと思っています。インターネットやTwitterをご覧になっている方が、「『ルビン』のパクリじゃないか?」とツイートしていたのですが、「そうです。いや、パクってるというか、オマージュです。」というふうに開き直って、この企画を行っていました(笑)。
新潮社さんのTwitterから「ここまで堂々とされると逆に清々しいので応援します。」というツイートが返ってきて、Twitterで新潮社と小学館とがやり取りするという面白いこともできました。新潮社さんの二番煎じだったからこそ、話題作りが上手くいったなと思います。
 
― 新潮社さんと相互的にプロモーションしている印象を受けました。
 
編集:それがプロモーションになっているかどうかは、まだ分かりませんが。この企画の効果は少しずつ現れています。例えば、本作が売れたことによって、20年前の蘇部さんのデビュー作『六枚のとんかつ』に重版がかかったと聞いています。また、電子書籍化している本作を含めて「蘇部健一フェア」を行うそうです。出版社ってこれまで各社の競争に晒されていましたけど、デジタルツールに頼ることで、各社が上手く連携させていくってことができたら面白いなと思っています。
講談社さんや小学館はそれぞれで電子書籍化を進めていますが、それぞれの電子書籍作品を「蘇部健一フェア」として展開することも可能になるかと思います。電子書籍でのフェアは、紙書籍の場合と違って、「新潮社さんと講談社さんと小学館でやりましょう」と言って、横断的にフェアを行うことができます。だから、IT業界に明るい方達と協力して、大きく展開していくことも、出版社としては考えていく必要があると思っています。
 
― スマートフォンやタブレット端末の普及により、デジタル機器に親しみのある方が多いです。そのような人が手にとってもらえるような、デジタルプロモーションは増えています。
 
編集:小学館はコミックでは電子書籍化が進んでいましたが、小説・文芸では初めての取り組みでした。今後は全体でも広げていこうかなと思っています。また、今回の取り組みで、デジタルプロモーションはすごいなと思いました。読者属性だけでなくて、その方が何歳なのか、何時に読んでくれているのかが分かるんです。紙書籍では40代以上の読者が多かったのですが、デジタルプロモーションを行うことによって、若い方にも読んで頂きました。今回決まったタイトルを応募してくれたのは、20代の読者です。
20代の方に紙書籍を読んで頂くのは、本当に難しい。そんな中で、実際に本作を読んでタイトルを応募して下さった方が20代だということは、新しいマーケットの開拓に繋がるかなと期待しています。スマートフォン以外見てくれないじゃないですか。書店さんにも行ってくれない。
 
― 若い方に読まれている理由として、一般的に作品を知る過程を通り越して、新規読者への訴求に成功したしたことが一因だと思っています。コアな読者やファン層と新規読者とが、階層化されずに広がっていきましたよね。
 
編集:そうですね。デジタルプロモーションを行い面白いなと思ったのが、良い意味でいろいろな地域で読まれたことです。例えば、「なんでこんなに奈良県の読者は多いんだ。」といったことを知れたことが収穫です。市町村に書店が1店もない地域でも、インターネットさえあれば誰でも読めるので、全国津々浦々に向けてやれる手法だったなと。
 
― 出版市場はかなり縮小していますよね。紙書籍として出版することが本当に難しくなっていますよね。無書店自治体(※)も増えています。
※一つも書店がない自治体のこと
 
編集:書店がないということは、読書習慣がない人が増えますよね。ということは、Amazonにアクセスして本を買う機会も減ってくる。そのため、無料で読ませて本の面白さを知ってもらうことが重要になってくるなと。無料公開だけど、それも1つのプロモーションだと捉えようと思いました。本当は売上を作らないといけないのですが、そうも言えない環境になりました。
 
― 書店さんに行っても、Amazonや他のサイトで購入することも多いです。必ずしも書店で買うとは限らない。
 
編集:本当は、書店さんで手に取ってもらいたいのですが。今回、デジタルプロモーションを行って面白かったのが、ページビューの推移です。通常は、読み始めてからページビューが下がり、結末まで読まれなくなる傾向があるようです。本作では、読者のみなさんがずっと最後まで読んでくれたうえで、途中に戻って読み返しているというのが分かりました。この本はきちんと最後まで読んでもらえる作品なのか、それとも途中で飽きてしまう作品なのかどうかが分かったことは、新たな発見でしたね。
 
― ページビューや個体値以外に新たな気づきはありましたか?
 
編集:とにかくIT業界には、私の知らないマーケットを広げて下さる人達がたくさんいるんだということを知りました。私にとっては本当に勉強になりました。
以前は、インターネットメディアは1回流しちゃったらもうお終いだと思っていました。しかし、これだけ色んな段取り、例えば、記事を何時何分に掲載するから、その時までに原稿チェックしてというふうに、細心の注意を払いながらやっている様子を見てすごく勉強になりました。インターネットメディアは、プロモーションのみならず活字や動画を一挙に流すことができるので、あらゆるものが凝縮されているページを作れるなと。
今まで本を読むというと、小学館のホームページにアクセスして、作品ページにアクセスして、ようやく作品と出会います。しかし、スマートフォン1つで本を読みながら作家のインタビューも、動画も観ることができる。おのずと紙書籍を読まずに、スマートフォンで遊ぶよね、ということを強く感じました。だから、テレビや映画や新聞や出版社のようなマスコミ業界への、一大勢力としてスマートフォンを駆使した大きなメディアがあるということを痛感しました。
 
― 今回の企画は「ブクログ」さんや「小説丸」さんなどと連動しながら盛り上げていた印象です。とくに「SmartNews」さんに記事が掲載されると、それまでの100倍、1,000倍ものページビューになりますよね。
 
編集:「SmartNews」さんの拡散力には驚きました。ページビューが跳ね上がりましたね。それ以外にも「ブクログ」さんが、蘇部さんのインタビューを掲載したらページビューが増えました。「シミルボン」の時もそうです。だから、自分たちが行っている情報サイトとは別次元の大きな拡散力を持った、きちんとした形できちんとした情報を流す組織がインターネット上に成り立ってきていますよね。

広報:この企画でネットメディアの方たちと接したことで、かなり感覚が変わったと思いました。ネットメディアの方と協力することで、プロモーションの幅が広がると思います。
 
― 小学館さんとしては、デジタルプロモーションを広げていく予定はございますか?
 
編集:実は考えています(笑)。「X」つながりなんですけれど、「新刊Xレビュー募集」です。発売前の2月刊行の3作品を読んで、レビューを投稿してもらう企画を実施しています。発売前から、一般読者の評価を集めることで、読者発のベストセラーを作ろうという狙いです。反応は上々で、現在は第2弾として平谷美樹さんの『鍬ヶ崎心中』のレビューを募集しています。ご興味をお持ちの方は、是非「小説丸」からお申し込みください(笑)。(※)
※詳細はこちらのページをご確認ください。



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