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「書くことがカルマ」。芥川賞受賞作『百年泥』 著者・石井遊佳さんインタビュー
2018年2月22日


第158回芥川賞が1月16日に発表された。今回は2作品が芥川賞に選出されたが、新潮新人賞との2冠に輝いたのが、石井遊佳(いしい・ゆうか)さんの『百年泥』だ。
インドを舞台にした『百年泥』だが、著者の石井さんもインドの日本語教室で働いているという。
石井さんはなぜインドにいるのか?「書くことがカルマ(業)」と語るのはなぜか?

電子書籍ランキング.comでは、読者が持つであろう石井さんのいくつもの「なぜ?」をインタビューでお伺いした。
石井さんの「カルマ(業)」の世界へようこそ!!

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帰国当初は3人以上の日本人に緊張

―― 第158回芥川龍之介賞(以下、芥川賞)受賞おめでとうございます。受賞したと聞いた時のお気持ちを教えてください。

石井遊佳(以下、石井) 芥川賞の候補になりましたとお聞きしたのが、賞が発表される1ヶ月前(※)で、その時もインドにいました。私は、3年ほど前からインド南部のタミル・ナードゥ州のチェンナイという所で、夫と2人でIT企業の中の社内研修という形で設置されている日本語教室の教師をしています。

候補に選ばれたと上司に話をしようと思いましたが、上司はインド人なので芥川賞なんて知らない。しょうがないので、「有名な賞にノミネートされて、賞を取ったらいろいろインタビューされるので、少し忙しくなるかもしれない。万が一、賞を取れたら日本に帰国していいか?」というようなことを説明しました(笑)。

受賞の知らせは、当日の15時15分ぐらい(現地時間)に来ましたが、インドにいるので、電話会見ということになりました。そこから電話会見までに、いろいろな手続きをする必要があったのでとても忙しかったです。
※候補作は、2017年12月20日に発表された

 

―― 手続きですか?

 

石井 はい。上司には先の通りなんとなく説明はしていましたけど、正式に受賞が決まったので、改めて日本に帰る為の説明や、書類手続きなどで人事部などの関係する部署を駈けずり回っていました。そこでなんとか4ヶ月ぐらいお休みをもらって帰ってきました。

 

―― 発表からちょうど1週間が経ちました。(※)1週間経って、どのようなご心境ですか?
※取材は、芥川賞発表から1週間後の1月23日に行われた

 

石井 ずっとインド人ばかりみてきたので、帰国当初は3人以上日本人がいるとちょっと緊張するという状態でした(笑)。それからはインタビューを受けたり、受賞記念エッセイを1週間で7本ほど書いており、嬉しい悲鳴をあげています。落ち着いたら、大阪の実家に帰る予定です。

受賞後には一番初めに両親と家族にメールをしました。友人は、ニュースや新聞報道で、私が受賞したことを知ったようで、続々とおめでとうメールを貰いました。

 

―― 現在、旦那様と一緒にインドのチェンナイのIT会社で日本語教室の教師をされているということですが、どういった経緯でインドに行かれたのですか?

 

石井 夫がサンスクリット文学の研究をしており、研究のためにインドで仕事をしたかったというのがあります。

以前にネパールのカトマンズにいたことがあります。ネパールは貧しい国で海外に出稼ぎに行くしかないのですが、人気の出稼ぎ先のひとつが日本で、日本語学校がたくさんありました。その時知り合った日本語学校の先生から「ちょっと教えてくれる?」と誘われたのをきっかけに、私だけ日本語教師の仕事を始めました。

まったくの遊び半分で、1年ほど教えて帰国しました。夫は日本語教師に可能性を見出し、日本に帰国後に資格を取りました。その後、チェンナイに日本語教師の仕事があると面接を受けたのが今の会社です。そしたら、「2人で(チェンナイに)来てください。」と言われたので、インドへ移りました。なので、私は面接も受けていないのに勝手に決められた感じです。

 

―― インドというと、東京大学大学院人文社会系研究科インド哲学仏教学博士課程まで進まれています。インド哲学仏教学科に進まれたきっかけを教えてください。

 

石井 元々は早稲田大学の法学部を卒業して、仏教など全然興味がなかったです。20年ほど前に文學界新人賞の最終候補に残り、そこから本格的に投稿生活に入りました。小説を書くのに調べ物をしていく上で、いくら本を読んでも理解できないのが仏教でした。日本人として生まれたからには、仏教をきちんと理解すべきだなと思ったので、東大のインド哲学仏教学科に学士入学しました。

学部の時は、カリキュラムでサンスクリット語や、インド文学、インド哲学など仏教以外のこともやりました。最初はサンスクリット語を学びたかったのですが、動詞活用が72通りあったり、「性」と「数(すう)」がそれぞれ3つずつに、「格」が8つ(※)と複雑で挫折しました。それでと言うと申し訳ないですが、中国仏教を選択し、修士論文も書きました。

博士課程で本格的に研究と思ったときに、学科の時に知り合ったサンスクリット専門の夫がインドへの留学を決めてきてきたので、自分の研究などほっぽり出して、インドについていきました。そこからインドと悪縁に結ばれましたね(笑)。
※「性」は男性、女性、両性の3つ。「数」は単数、双数、複数の3つ。「格」は主格、呼格、対格、具格、与格、奪格、属格、処格の8つ。名詞は、「数」と「格」によって変化するため一つの名詞が24通りに変化する。

 

―― インド哲学仏教学科に入ってからは、小説は書かれたりしてたんですか?

 

石井 この当時は、小説は一切書いていなかったです。修士時代も雑記や日記などは書いていましたが、小説という形式で書いたものはないです。夫のインド留学に一緒に行った際に暇だったこともあり、執筆活動を再開しました。

 

―― 文章を書き始めたのは、子供の頃からとお伺いしました。なにかきっかけなどあったのですか?

 

石井 そうですね、10代の頃からです。小説を書くということが本好きのカルマ(業)だと思っています。小さい頃から本を読むのが好きだったので、モノを書くことは自然に始めていました。高校生の時には、書くことに執着し始めて、一日中雑記や日記を書いたりしていました。小説の体裁になったのは20代の終わりから30代になってからです。

ただ、中学生の時から作家になりたいという夢は持っていました。「書く」という行為が好きなので、小説家というよりは、作家になりたいなと思っていました。

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