
けったいで、ほんまかいなと思わせるような小説を書いていきたい
―― 新潮社の新潮新人賞受賞の際には、主人公の人生で母親との関係の描き方が巧いという評価がありました。
石井 この辺は完全にフィクションで、自分で一生懸命考えて書いたところですね。母親は存命ですが、こんな人じゃないですし。
作中の母親がいわゆる緘黙症(※)という設定も、主人公が「愛想がなくて人付き合いの苦手な人」という設定からルーツを考えたときに出てきたものです。まずは設定を決め、それに見合った状況や描写なりを考えて書いていきました。
なので、この部分を評価して貰ったということは、自分の設定したフィクションが評価されたということなので、かえって嬉しかったです。
※「緘黙症」とは特定の場所や状況で話せなくなる症状。場面緘黙症と、どの場面でも話せない全緘黙症がある。
―― 芥川賞の選考委員からは、「言葉の勢いに押されて泥の中を進んでいくという前進力がある。」という評価をされていました。
石井 自分でも読み返してみて、結構テンポの早い文章だなと思いました。多分、書いて物語の内容を掘り下げるよりも、物語を先に進める方が好きなのかもしれません。
私は大阪出身なので、やっぱりウケをとってナンボの性質なのだなと思います。「感動した。」と言われるよりも、「笑った。」と言われるほうが嬉しい(笑)。実はいろいろなところにボケを入れています(笑)。
笑ってもらうために、思いついたボケをテンポよく入れたので、そのような評価を頂いたのだと思います。
―― 今後の活動や展望などをお伺いできればと思います。
石井 そうですね。こういう素晴らしい賞を頂いたからにはやっぱり作家に専念して、日本で活動をしたいなと今は思っています。
最初にお話しましたが、今回私は4ヶ月ほどお休みをいただいて日本に帰ってきましたが、今も夫はチェンナイで日本語教師の仕事やっています。上司には、「こいつ、置いていきますからこいつをコキ使って下さい。」って頼んであります(笑)。今まで私が夫の口車に乗せられてチェンナイで散々働かされたので、今後は夫には2人分働いてもらおうかと思っています(笑)。
―― 今後は、作家活動に専念したいということですが、どういった作品を書いていきたいと考えていますか?
石井 まだ2作目は決まっていませんが、やはりけったいで、ほんまかいなと思わせるような小説を書いていきたいです。ただ、これから先もカルマ(業)の流れとしての世界のからくりを、言葉の力を最大限に発揮して書き続けていきたいです。
―― 最後に、このインタビューをご覧のかたにメッセージをお願いします。
石井 日本に帰ってから、たくさんの慣れないインタビューを受け、受賞記念エッセイなどを一生懸命書いているのですが、どれも一人でも多く私の小説に手を取って欲しいという想いでやらせていただいております。
『百年泥』という作品自体は、3ヶ月ぐらいで書いたものですが、インドに限らずネパールで考えたことやら経験が元になったエピソードもあり、その一行一行に私の人生が詰まった作品となっています。
手に取って下さった皆さんとは作品を通して交流をし、同じカルマ(業)の流れの中に入り混じることになります。どうか私の本を読んで、私と一緒にぐちゃぐちゃになって欲しいです(笑)。
■石井遊佳(いしい・ゆうか)
1963年11月大阪府枚方市生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程満期退学。
日本語教師。
2017年『百年泥』で新潮新人賞、第158回芥川龍之介賞を受賞。
インド、タミル・ナードゥ州チェンナイ市在住。
『百年泥』
<内容紹介>
私はチェンナイ生活三か月半にして、百年に一度の洪水に遭遇した。
橋の下に逆巻く川の流れの泥から百年の記憶が蘇る!
かつて綴られなかった手紙、眺められなかった風景、聴かれなかった歌。
話されなかったことば、濡れなかった雨、ふれられなかった唇が、百年泥だ。
流れゆくのは――あったかもしれない人生、群れみだれる人びと……。
















