1月16日に発表された直木賞。今回の受賞者は、過去2回ノミネートされ、3度目の挑戦となった門井慶喜さん。
ノミネートされた『銀河鉄道の父』は、詩人で童話作家の宮沢賢治を父・政次郎からの視点でその関係を描いた作品となっており、今までにはない宮沢賢治が書かれている。
今まで注目されていなかった父・政次郎をスポットに当てた理由、そこから見えてきた家族関係などをお伺いしつつ、歴史小説を書いている人間としては意識するという司馬遼太郎までお伺いした。
受賞決定の連絡が早く、突然の不意打ちだった
―― 第158回直木三十五賞(以下、直木賞)の受賞おめでとうございます。受賞したと聞いた時、どのようなお気持ちでしたか?
門井(以下、門井) ありがとうございます。今回は、受賞決定が早かったので不意打ちでした。というのも、僕は過去二回直木賞候補にノミネ―トされています。その二回とも19時を過ぎてから、その知らせを受けていたのですが、今回は18時50分に受賞決定の電話を頂きました。心の準備ができていない時に受賞を知ったので、不意打ちは不意打ちでしたが、嬉しい不意打ちでした。
―― 心の準備ができていないうちに受賞の電話を頂いたのですね。
門井 そうですね。僕も全く準備ができていませんでした。携帯電話をマナ―モ―ドにしていたので、着信にも気づかず、一緒に待機していた編集者に言われて初めて気づいたぐらいです。
―― 直木賞受賞から10日ほど経ちましたが(※)、実感は湧いてきましたか?
取材は、2017年1月25日に行われた
門井 段々と落ち着いてきています。インタビュ―取材を含めてメディアに出演する時には、一種の興奮を覚えますが、原稿を執筆している時は、以前と変わらない気持ちで取り組めているなと。良い意味で変わっていません。
―― 今回、三度目の正直となりましたね。
門井 2015年に初めてノミネ―トされた時は、ダメ―ジは大きくなかったです。初めてのノミネ―トで受賞できると思ってもいないですし。「こんなもんだよね、今回は名刺代わりだよね。」っていうのを、僕も周りも思っていました。ただし、翌年2回目のノミネ―トをされたときには、少しダメ―ジはありました。というのは、最後の決選投票まで選ばれたのに、受賞を逃したと聞いたからです。その時は、荻原浩さんが『海の見える理髪店』で受賞され、僕は準優勝だったわけです。
―― 今回のノミネ―トは、プレッシャ―を感じていましたか?
門井 今思えば、まずノミネ―トされる前からプレッシャ―を少し感じていました。これは受賞作に限った事ではありません。初めて直木賞にノミネ―トされた『東京帝大叡古教授』では受賞を逃しました。すると、その次に出版する本では、周りの人たちが直木賞受賞への期待感を膨らませています。「これで取れるんじゃないか?」と期待されているなと感じるようになりました。あるいは「この本で取りましょう!」と、はっきり仰る方もいらっしゃいます。なので、今回ノミネ―トされた時は安心しましたね。かえって、当事者の方が楽なのかもしれません。
―― 受賞された後、周囲の方からはどのような反応をされましたか?
門井 子供に聞くと、やはり学校の先生や友人から僕のことを言われたみたいですね。次男は、クラスでのあだ名が「直木」になったそうですけど(笑)。小学生や中学生にまで認知されている文学賞だと、その時実感しました。僕だけでなく、実家にも家内にもたくさんお祝いの言葉を頂きましたし、僕がよく行くお寿司屋さんにも電話が掛かって来たそうです。
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