
小学生から今までその夢を50年間思い続けていたことになりますね。夢は叶うものですね。
― 小学生の時から小説家になりたいと思っていたとお伺いしました。
若竹:そうです。何の根拠もなく、私は小説を書く人だと思っていたんですよ。しかもそれをずっと持ち続けてきたんですよね。諦めなかった。小説家を目指すきっかけは、『アルプスの少女ハイジ』や『安寿と厨子王』、『小公子』、『小公女』を図書館で読んだことですね。そのような小説の物語に憧れていました。そして、自分の本が図書館の本棚に置いているような人になりたいって。
― 小説家になりたいと思っていた若竹さんは、教育学部ご出身ですよね?その後、教師の道に進もうと思ったきっかけを教えてください。
若竹:小説家でご飯を食べることができると思っていなかったからです。具体的に生活していくために教師を目指しました。当時でも、小説家になりたいとずっと思っていました。小学生から今までその夢を50年間思い続けていたことになりますね。夢は叶うものですね。
― この作家みたいな物語を書きたいなという方はいらっしゃいますか?
若竹:好きな作家である町田康さんのような作品を書きたいです。町田さんのような作家になりたいなって。私は、ただただ面白い小説を書きたいです。私にとって小説が面白いと感じるポイントは2つあると思っています。1つは、小説のストーリー全体を通じて面白いこと。そしてもう一つが、部分的な表現や言葉に惹かれて感じる面白さです。
私は、その部分的な面白さが大好きなんですよね。言葉が立っているというか、言葉をこういう風に考えていますということを打ち出している作風や表現が理想です。書きたいのは何よりも面白い小説なんです。
― 町田康さんは若竹さんの作品をお読みになって、リズミカルだと評されました。文学の国いわての土壌が生み出したものなのでしょうか?
若竹:東北弁は重たいようなあまり感情表現しないようなイメージかもしれないけれど、東北弁そのものはすごくユーモアのある、面白い言葉です。
この間、町田さんとお話しさせて頂いて、何をどのように考えているかについて面白おかしく書きたいと感じました。些細なことでも深く掘り下げて、あらゆる角度から考えられる小説は面白いし、そのような小説を書きたいなあと思います。
― 町田さん以外の作家さんはどなたが好きなのでしょうか?
若竹:深沢七郎さんの『笛吹川』や『庶民列伝』。あとは石牟礼(いしむれ)道子さん。『椿の海の記』は面白かったです。これらの作品や町田さんの小説は方言を使っていますし。方言は標準語の風情と異なるような気がします。そういう小説が好きなのだと思います。
私は、心地の良い言葉やリズムが好きなのだと思います。例えば、五・七・五・七・七の短歌のリズムですね。自然に言葉を集めて読みながら書いていくと、それらがリズムを生み出すんだと思います。
― このインタビューをご覧の方に向けてメッセージをお願いします。
若竹:思いがけずこんなに大勢の方々に読んで頂けて、本当に望外です。想像の遥か上を行くようないまの状況が、信じられません。
私は63歳になり子育ても終わり、夫を見送りました。あと何が楽しみかなと思うと、やはり書くことです。このたびのような反響はありがたいこととして受け止め、これからも、私自身を楽しませるために書いていきたいと思います。
今まで普通の暮らしをしてきたので、ここ最近の生活には馴染めません。今後は、友人・知人と過ごす日常を大切にしながら、執筆活動を続けていきたいなと思います。
・若竹千佐子(わかたけ・ちさこ)
1954年、岩手県遠野市生まれ。
遠野で育ち、子どもの頃から小説家になりたいと思っていた。岩手大学教育学部卒業後は、臨時採用教員として働きながら教員採用試験を受けるが、毎年ことごとく失敗。目の前が真っ暗になるほど落ち込む中で夫と出会い、結婚。
30歳で上京し、息子と娘の二児に恵まれる。都心近郊の住宅地で子育てをしながら、深沢七郎、石牟礼道子、町田康、河合隼雄、上野千鶴子の本を愛読していた。55歳のとき、夫が突然、脳梗塞で死去。悲しみに暮れ自宅に籠る日々を送っていると、息子から「どこにいても寂しいんだから、外に出たら」と小説講座を勧められ、通いはじめる。主婦業の傍ら本作を執筆し、2017年、第54回文藝賞を受賞しデビュー。2018年1月、同作で第158回芥川賞を受賞する。
『おらおらでひとりいぐも』
<内容紹介>
74歳、ひとり暮らしの桃子さん。
おらの今は、こわいものなし。
結婚を3日後に控えた24歳の秋、東京オリンピックのファンファーレに押し出されるように、故郷を飛び出した桃子さん。
身ひとつで上野駅に降り立ってから50年――住み込みのアルバイト、周造との出会いと結婚、二児の誕生と成長、そして夫の死。
「この先一人でどやって暮らす。こまったぁどうすんべぇ」
40年来住み慣れた都市近郊の新興住宅で、ひとり茶をすすり、ねずみの音に耳をすませるうちに、桃子さんの内から外から、声がジャズのセッションのように湧きあがる。
捨てた故郷、疎遠になった息子と娘、そして亡き夫への愛。震えるような悲しみの果てに、桃子さんが辿り着いたものとは――
青春小説の対極、玄冬小説の誕生!
*玄冬小説とは……歳をとるのも悪くない、と思えるような小説のこと。
新たな老いの境地を描いた感動作。第54回文藝賞受賞作。
主婦から小説家へーー63歳、史上最年長受賞。
















