新潮社、小学館に続いて、講談社が「本づくりプロジェクト」という名のキャンペーンを行った。
このキャンペーンは、「本づくり」の楽しさを一人でも多くの方に共有したいという思いから発案されたプロジェクトだと聞く。講談社の「本づくりプロジェクト」の本質は、先の2社とはどのように異なるのか。
電子書籍ランキング.comは「本づくりプロジェクト」の発案者・担当者に、本づくりプロジェクトの意図や、今の出版業界を取り巻く環境について、お話をお伺いしました。是非、ご覧ください!
「本づくりプロジェクト」は、読者との「共同作業」。
― 「本づくりプロジェクト」は、どのようなきっかけで始まったのでしょうか?
本づくりプロジェクト担当(以下、担当):このプロジェクトは、まず電子書籍のみ、もしくは電子書籍を先行で出版する小説の企画があり、電子のみの発売であれば、何かおもしろい仕掛けができないかと思ってはじめた試みです。電子書籍のみであれば、当然ですが印刷所を通さずに本を作ることが可能になり、制作費を抑えることができます。しかしこれまで電子書籍だけで出版したことがなかったので、電子媒体ならではの仕掛けを行えばさらに売れるのではないかという危機感を覚えたのを機に取り組みました。
― 今回のプロジェクトでご参考にされた取り組みはございますか?
担当:昨年7月に行われた『ルビンの壷が割れた』(以下、ルビン)のキャッチコピーキャンペーンは知っていましたが、参考にしたというよりも、そういうことをやっている出版社があるんだな、という程度の認識でした。キャッチコピー募集は過去にも事例があり珍しくないのでタイトルを募集しようと思っていたのですが、昨年11月小学館さんに先を越されてしまいました(※)。
その次に、何ができるかを考えました。三浦明博さんの『集団探偵』という原稿があったので、「集団装幀」という単語を思いつき、装幀(表紙デザイン)募集は未だにどこもやっていなかったため、装幀募集を皮切りにこのプロジェクトを始めることにしました。
※2017年11月17日から12月7日まで行われたタイトル公募キャンペーン。対象作品は蘇部健一『小説X』(当時)。
― プロジェクトはいつごろ発案されたのでしょうか?
担当:ルビンのキャンペーンが始まる少し前です。
― 電子書籍の売れ行きをみて、紙書籍の出版をしようと思っていたのですか?
担当:はい。ルビンのキャンペーンと「本づくりプロジェクト」の違いは、企画のきっかけが根本的に違います。あちらは新人作家とその作品を売るための取り組みでしたが、こちらは電子書籍のみ、もしくは電子書籍の先行配信を盛り上げようという取り組みです。これに関しては僕が担当した安藤祐介さんの新刊『本のエンドロール』を呼んでくだされば理解しやすいと思いますが、電子書籍で出版するとなると、印刷所に支払う組版代やゲラの製版代が掛からないことになります。電子書籍で校了テキストを作ってから、紙書籍を出版すれば単行本の原価率が大幅に下がるんです。
なので、紙書籍の原価率を下げるために電子書籍で校了データを作る。電子ファースト出版と呼んでいますが、販売促進の一環としてではなく、採算性重視です。「本づくりプロジェクト」はあと付けですね(笑)。
― このプロジェクトに参加された作家さんはどのような反応でしたか?
担当:お三方とも大賛成でした。相談する時は、全て正直にお話しました。単行本の売れ行きは厳しいし、損益分岐点を下げないといけない。だから「まずは、この作品を電子書籍ファーストで行いませんか」と。
でも「それだけではおもしろくないから読者から何か募集しようと思っています」と言ったら、「面白そうですね」と言ってくださいました。
― 実際、読者からの反応はいかがですか?
担当:良かったです。第一弾に実施した『集団探偵』(三浦明博=著)は、無料キャンペーンで、計1,457ダウンロードされました。第二弾の『 』(行成薫=著)は、4,670ダウンロードされました。
3月30日(金)から実施する第三弾のカバー写真募集では、スマートフォンで撮影した写真でも応募可能で、読んでいただくのも短編一本なので、前回や前々回よりも応募やダウンロードは増えると期待しています。
― それぞれの応募総数はどれくらいでしたか?
担当:第一弾は49作品です。こんなにも多くの方がイラストを描いて応募してくれるとは思いませんでした。集まったイラストを会議室に並べて、みんなで考えるのはとても楽しかったし、面白かった。まさに、「本づくりプロジェクト」の醍醐味だと感じがしました。
第二弾は570タイトルも集まりました。新聞や雑誌広告を掲載せずに、ツイッター広告とホームページを立ち上げただけで、これだけの数が集まったのはすごいと思います。
― ツイッター広告とホームページのみで宣伝したのはなぜですか?
担当:費用をかけたくなかったからです。新聞や雑誌にも広告出稿しようと思えば可能でした。しかし、それらの費用をかけようと思うと決裁を取る必要がありますし、赤字が膨らめばプロジェクトがすぐに終わってしまう。広告費をかけて、無料で読んでくれた人も応募してくれた人も多かったけれど、結果大赤字でした、ということではダメなので。だったら、費用を掛けずかつスピード感をもって運用していくことで、利益を生み出すことができれば良いなと考えました。
このプロジェクト以外には一切広告費を使わなくていいと思っています。新聞宣伝もしませんし、書店での販促物も作りません。書籍一冊あたりの宣伝費を、イラストやタイトル募集にあてています。
― どのような方に多く読まれましたか?
担当:2,30代の方が多く読んでくださいました。思ったよりも応募年齢が低くならなかった印象です。しかし、特定の年代に読ませたいという戦略的な意図はありませんでした。
― 小学館さんに先に越された時、率直にどう思いましたか?
担当:愕然としました(笑)。以前からタイトル募集企画を温めていたんですが、温めすぎて小学館さんに先を越されましてしまいました(笑)。その教訓として、ウェブの企画はスピードが何より大切で、思いついたらすぐ取り組まないといけないと痛感しました。見切り発車でもまず始めて、修正しながら進めればいいと。
新潮社さんも小学館さんも、「助けてください」というニュアンスで募集されていましたが、「本づくりプロジェクト」は、読者の方々にも、本づくりはこんなに楽しいので、「一度一緒にやってみませんか?」という気持ちではじめました。「募集」というより「共同作業」に近いような気がします。やって良かったなと思います。