
デビュー作かららせん階段を回って一段高くなった作品
―― 辻村さんのデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』(以下、「冷たい校舎」)も、『かがみの孤城』と同じく10代の子たちの群像劇であり、密室劇です。読者から「デビュー作に対してのアンサー」という声も出ています。
辻村:デビュー作に対してのアンサーと言ってもらえるのは、本当に嬉しいです。他にも「原点に戻った。」とか「辻村深月が帰ってきた。」っていう風に言ってくださる方もいますね。デビュー作のころからずっと一緒に歩いてきてもらった読者の存在に感謝していますし、私自身、胸を張って「帰ってきました」と思っています。
その上で読者の何人かから、「同じ地点に帰ってきたけど、それはらせん階段を通って回って戻ってきたようなもの。マップ上で見ると同じ点にいるけど、高さが違う。」という声をいただいて、非常に印象に残っています。
―― とても深いですね。
辻村:そうなんです。「一段高くなっているから見えている景色が違うし、広い視野から書いている。」と言ってもらえた。
「冷たい校舎」の頃は、どこかに正解があると思って書いていた気がします。ただ、今は、私達は正解のない世界を生きているんだと思いながら書いています。
例えば、学校を休むという選択をしたときに、昔は学校に戻す事が正解のように言われていましたが、必ずしもそれだけが正解じゃない。その子にとって一番良い形があるはずだと信じて、考え続けることが大事なんだと思うんです。こころ以外の登場人物たちにも、それぞれの道がそれぞれの数だけあるはずだと。考え続ける事からは絶対に逃げないという思いで、最後まで書き進めていきました。
―― 『かがみの孤城』は、その子達なりの解決策を考えることを意識して書いた。
辻村:書きながら私も考えていましたし、それが見えてくるかも分かりませんでした。「冷たい校舎」の頃だと登場人物8人全員の視点をとって、それぞれの心情を描写していました。ただ、今回はこれまで小説を書いてきた経験から、こころのみの視点で他の子たちのことも全部書ける、と思いました。
なので、私も最初から全員のことを分かっているわけじゃなかった。だから、物語が進むにつれて、こころが彼らを理解すると同時に、私も一緒にそれぞれのことがわかっていくような感覚でした。こころがその子のことを嫌いな時には嫌い。大好きな時には私も一緒に大好きになる。そんな書き方でした。
―― 物語の終盤、なぜ彼らがここに集められたのか、城の秘密がわかっていきますが、これには大変驚きました。
辻村:実は、この秘密、書き始めた当初にはなかったものなんです。この話は5月に始まって、3月に終わる物語ですが、実は作中の夏休みが過ぎるあたりまで私の中にはなかったんです。ただ、それに気づいた時は、「思いついた」とか「閃いた」ではなくて、「気づいた」とか「わかった」という感覚でした。書いているうちに、こころたちが「実はこうなんだよ」と教えてくれたような気がしています。
―― タイトルですが、最初は『かがみの城』という案だったのが、最終的に『かがみの孤城』に変わったとお伺いしました。
辻村:タイトルを決めるときに「『かがみの城』かな?」と言ったら、担当編集さんから「孤城はどうでしょうか?」と提案していただきました。あまり耳慣れない言葉でしたが、調べたら「敵に囲まれて、援軍も来る当てもない城。」という意味で。この状況は、心細い心理状態にいるこころ達にとても近いと感じ、『かがみの孤城』というタイトルに決めました。「孤城」はこころたちの心理状態であると同時に、みんなが立てこもる城のイメージも「孤城」そのものだったと思っています。
―― この『かがみの孤城』では、ご自身の原点に戻ったという形で書かれたと思いますが、今後はどういった作品を書かれたいですか?
辻村:やっぱりその時々の興味に応じてになると思いますが、大人の目線と子供の目線、どちらかに比重を置くとことなく、両輪で回していくような形で書き続けていきたいです。来年でデビュー15年になるのですが、今回らせん階段を一段上がったと言っていただいたみたいに、15年後もまた一段上がったと言われるようなものを目標にしていきたいです。
―― では、15年後にはまた一段進んだ「冷たい校舎」や『かがみの孤城』のような作品が読めるのでしょうか?
辻村:そうですね。ライフワークのように続けていけたらいいなと思います。
―― 最後にファンの皆さんやこのインタビューを読まれる方に一言お願い致します。
辻村:皆さんの鞄の中や本棚で、私の本が皆さんにとっての扉になる事を祈っております。たくさんの扉を開いていけるよう、これからも書いていきたいです。
辻村 深月(つじむら・みづき)
1980年山梨県生まれ。
2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』(新潮社)で第32回吉川英治文学新人賞を、12年『鍵のない夢を見る』(文藝春秋)で第147回直木賞を受賞。今年、『かがみの孤城』(ポプラ社)で2018年本屋大賞(主催:NPO本屋大賞実行委員会、オフィシャルメディアパートナー:ヤフー)を受賞した。幅広い作風と繊細な心情描写に定評がある。近作に『青空と逃げる』(中央公論新社)。
『かがみの孤城』

<内容紹介>
学校での居場所をなくし、閉じこもっていた“こころ”の目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。
輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。
そこにはちょうど“こころ”と似た境遇の7人が集められていた―― なぜこの7人が、なぜこの場所に。
すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。
『冷たい校舎の時は止まる(上)』

<内容紹介>
雪降るある日、いつも通りに登校したはずの学校に閉じ込められた8人の高校生。
開かない扉、無人の教室、5時53分で止まった時計。
凍りつく校舎の中、2ヵ月前の学園祭の最中に死んだ同級生のことを思い出す。
でもその顔と名前がわからない。
どうして忘れてしまったんだろう――。
第31回メフィスト賞受賞作




『かがみの孤城』はこちら
https://www.poplar.co.jp/pr/kagami/












