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アイキャッチ候補②

原作者と映画監督が語る映画『恋は雨上がりのように』 眉月じゅん×永井聡対談インタビュー
2018年5月23日


 

 

2014年に連載を開始するやいなや、繊細な心情を描いたストーリーが人気を集め、 “恋雨”ブームを巻き起こした『恋は雨上がりのように』。2018年1月からはフジテレビの 「ノイタミナ」枠ほかにてアニメ化もされた。原作は、2018年3月に連載が終了したが、同年5月に実写映画として公開される。
映画上映を前に、原作の眉月じゅんさんと映画監督の永井聡さんに映画『恋は雨上がりのように』のそれぞれの作品へのこだわりや見どころ、制作秘話をお伺いした。

 

アイキャッチ候補②

原作のリアルさをとことん追求

――『恋は雨上がりのように』が実写映画化されると決まった時のお気持ちをお聞かせください。

 

眉月じゅん(以下、眉月):今年の1月から3月に放映されたアニメ化の話と実写映画化の話が連載の早い段階で、ほぼ同時くらいのタイミングで来ました。漫画を連載するにあたってクリアしたい“関門”みたいなのがあって、アニメ化、実写化はまさにそんな感じです。ですので「よしよし、キタキタキタ!」って感じでした(笑)。

 

永井聡監督(以下、永井):偶然なんですが、オファーが来る前から、近しい知り合いに薦められたこともあって原作を読んでいて、とても好きな作品でした。ただ、読んだときは「映画化しよう」とは思っていなくて、単純に「面白い漫画だな」と思って単純に読んでいました。ですので、実写映画化のお話をいただいた時に、「あ、これキタか!!」とびっくりしましたね。

企画書を渡されてから結構考えましたね。あきらと店長を実写で表現するには、これを演じられる人がいるのかとか、いろいろ悩みました。

 

眉月:実写映画化の話が来る前から読んでいてくださったというのは驚きましたし、すごく嬉しいです。読んでいた方に撮ってもらえたというのは、つくづく良かったなと思います。

 

――すでに出来上がったものを観られたということですが……。

 

眉月:試写を2回観させていただきました。撮影現場も見学させて頂いたのですが、小松菜奈ちゃんがあきらそのまんまだったので、監督が先ほどおっしゃられた箇所は全然心配していなかったです。出来上がったものを観せてもらって、「面白いな」と思いました。走るシーンなどのスピード感溢れるシーンがすごく良くて、スカッとしました。あと、映画オリジナルのシーンがとても良いんですよ!

 

永井:1回目に観ていただいた時に、「すごく良かったし、監督の『恋雨』になっている」というすごく素敵な言葉をいただきました。眉月先生は原作者で、原作の台詞や構成を考えているので、いろいろなことを発見しちゃうと思うんですよ(笑)。例えば、「このキャラクターこういう事言わない」とか(笑)。なので、正直言うと眉月先生には観て欲しくない(笑)。今すぐ忘れて欲しい(笑)。ですが、映画オリジナルシーンを褒めてもらったのは嬉しいです。

 

―― 永井監督は、『世界から猫が消えたなら』(2016年)、『帝一の國』(2017年)と3年連続で原作のある作品を演出しています。実写映画化する際に気をつけていることはあるんですか。

 

永井:漫画って台詞やストーリーもそうですが、画も含めて1つの作品だと思うんです。作者が考えた構図やコマ割りから感じる間合いがあって、そういったことも作品だと思うので、実写化するときは、全く同じ画を撮るぐらいの気合いでやっています。ですので、原作を真剣に見て、コンテ代わりにしています(笑)。原作と映画との違いは音が無いだけで、完成された作品なので、原作の「リメイク」という気分で撮らせて頂いています。

 

眉月:漫画だと構図とかウソつけるじゃないですか。『恋雨』でわかりやすいところだと、あきらが店長に雨の中で2回目の告白をするシーンですね。漫画だと、ザーザー降りの中、店長は屋内であきらが外という状況で「好きです」って言うのですが、リアルにやると雨音がすごくて告白の声は聞こえない。なので、そのシーンは原作とは変わったのですが、変えることによって漫画で私が伝えたかったことと違うニュアンスになるおそれもあるのですが、永井監督の場合はバッチリでした(笑)。

そういった漫画では可能で、実写化では不可能な場面のシーン変更は、問題ありませんでした。

 

メイン
©2018 映画「恋は雨上がりのように」製作委員会 ©2014 眉月じゅん/小学館

―― 「セリフの一字一句まで正しくやらないとNG」という話もお伺いしましたが……。

 

永井:役者にはそこをクリアしていただくのが前提です(笑)。眉月先生が書く台詞って、非常に文学的で特徴があるんです。普段あまり使わない言いまわしで表現しているのですが、これを普通の会話に直してしまうと、原作の良さがなくなっちゃうなと。役者本人たちはブーブー言ってましたけど(笑)。『恋雨』の実写化なので、台詞とか細かいところを含めて、先生の“想い”を全部拾っていこうかなと。

例えば、清野菜名さんが演じる喜屋武(きゃん)はるかは、長距離選手の設定なのですよ。なのに、スタッフ全員が短距離選手と間違えて、練習させてしまい。清野さんが「今日も、(短距離の)練習してきました」と言ってきて、私と話が噛み合わなくてスタッフがザワザワし始めて、そこでスタッフに設定が伝わっていないということが発覚しました。

 

眉月:この設定は別に後付けじゃなくって、最初から私の中ではそういう設定になっているんです。でも、大々的に言うタイミングがなくてコマの外に書いておいたんです。実はそういうものがいくつかあるんです(笑)。

その一つに、ユイちゃんは女子校に通っているという設定なんですよ。ただ、あんまりユイちゃんの学校のシーンがないので、それも言うタイミングがなくて。まあ、言わなくても話の進行的には問題ないんですけど(笑)。

 

永井:そういった箇所を丁寧に拾っていきました。普通の漫画家さんだと詳細を“見せる”ことで、キャラクターの細かい部分が分かるようにするのですが、眉月先生の場合は、“感じさせる”ぐらいなんですよ。あきらの両親や店長の近藤の離婚原因までは深く描かず“想像させる”手法で。この手法って、いろいろな解釈もできるしリアルなんですよね。例えば、親が離婚している友達がいたとしても、本人が言うまでは、わざわざ尋ねないじゃないですか。そーいう繊細な部分は非常にリアルな感じで描いているなと思いました。

 

眉月:そのあたりは何も意識していないんです。ただ、説明的な台詞は書かないようにと決めていました。そういった台詞を入れると、ウソくさくなってしまうので。リアルに描くことで、現実の世界にこのキャラクターが、自分たちと同じように生活しているんじゃないかと思わせたくって。なので、普段の生活でしないような台詞は入れない作り方を意識したら、永井監督が仰っているような“想像させる”感じの作りに自然となりました。

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