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出版業界を経済学から読み解いてみよう! 経済学者・池尾和人先生
2016年5月13日


日本経済論や金融論がご専門の経済学者・池尾和人先生にインタビューしました。今回は、自著を電子書籍でも出版している池尾先生に、デフレ傾向が続く日本経済について解説してもらいつつ、出版業界や電子書籍について経済学の視点から切り込みます。また、電子書籍を出版したきっかけや、経済学の知識を身に付けたい学生や新社会人に向けた、池尾先生オススメの本もご紹介!
実は我々編集部も経済学についてあまり明るくなかったが、面白くて分かりやすい経済学のお話をしていただきました!

 
 
本当に経済を良くしていくためには、企業の競争力を高めるしか方法がありません

――まず、池尾先生の現在の活動について教えてください。

慶應義塾大学経済学部で教授をやっていて、教育と研究を行う以外にも大学の組織運営や社会活動を行なっています。最近の社会活動としては、「コーポレートガバナンス・コード」の策定にかかわりました。「コーポレートガバナンス」というのは、日本語で言うと「企業統治」のことですが、それについてのコードは、株主の権利や取締役会の役割、役員報酬のあり方など、上場企業が守るべき行動規範を指針として示したものです。最近ですと、東芝が不正会計をしていたことが明らかになった「東芝事件」が代表的ですが、企業不祥事が続いており、日本の企業の企業統治には問題があると思われます。それを少しでも改善していこうということで、「コーポレートガバナンス・コード」が策定されました。

――例えば、今でてきた東芝のお話もそうですが、その「コーポレートガバナンス・コード」に沿って企業がより良く発展するために、収益を上げることも必要になってくると思います。現在の日本の経済状況の中で、デフレは発展を阻む一つの要因にもなっているように思うのですが……。

デフレというのは結果です。例えるなら、風邪を引いて熱が出ている状態。「熱が出る」というのは「症状」で、病気の原因ではないですよね。つまり、何かしら原因があった結果、デフレという症状が表れているのです。経済学者によってさまざまな見解はありますが、私は「日本企業の競争力が落ちている」ことが原因だと考えています。
経済用語では「交易条件」と呼ばれる、要するに「どれくらい有利、不利に貿易しているのか」という指標があります。

――有利に貿易、不利に貿易というのはどういうことですか?

有利に貿易できているというのは、日本が輸出するものが高く売れ、輸入するものが安く買えている状態。逆に不利に貿易しているというのは、日本が輸出するものが安くしか売れず、輸入するものを高く買っている状態です。だから、輸出物価を輸入物価で割った値を「交易条件」と定義しています。この値が大きい(小さい)ほど、有利(不利)なわけです。日本は1980年代後半から90年代末くらいまでは交易条件の値が大きかったのですが、その後どんどん低下していっています。

――なぜ日本の「交易条件」が悪化したのでしょうか?

一つの大きな原因は、日本が輸入している石油をはじめとした第一次産品の値段が上がったことです。しかし、それだけではなく、もう一つ残念な原因があります。それは、輸入原材料の値段が上がっているにもかかわらず、日本で作った製品の輸出価格を引き上げられなかったことです。日本には引き上げられるだけの国際競争力がなかったんです。電気機械産業が典型的ですが、日本と韓国がお互いに激しい競争をしていて、価格を引き上げることができなかった。

――たしかに、サムスンといった韓国の企業が安価で割と質の良い製品を作っていますよね。

その結果、輸出するものを安く売り、どんどん交易条件が悪化していきました。それが原因で現在のデフレという状態になっています。最近は、幸いなことに石油の価格が再び下がってきていて、交易条件が少し改善してきています。しかし、企業の競争力が乏しいので、円安に頼らないといけないというのが現状です。本当に経済を良くしていくためには、企業の競争力を高めるしか方法がありません。要するに、体質改善をする必要があるわけです。しかし、人間も短期間では体質を変えられませんよね。それと同じで、経済回復は忍耐が必要になってくる気の長い話なのです。そのための成長戦略の一環として、先に述べた「コーポレートガバナンス・コード」の策定とかに取り組むべきだということになったわけです。

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昔にあった「電子手帳」が好きで、電子書籍にはかなり初期から興味がありました

――ここからは、電子書籍についてもお伺いしたいと思います。先生は紙の書籍だけではなく電子書籍も出版していますが、出版のきっかけを教えてください。

電子ガジェットって言っていいのかどうか分からないんだけど、昔にあった「電子手帳」のようなものが好きで、電子書籍にはかなり初期から興味がありました。まだ日本語に対応したモデルが出る前に、アメリカで発売になったSONYのリーダーやKindleなどの電子書籍端末を、おもちゃを買う感覚で買ったりしていました。

――かなり初期から電子書籍にご興味をお持ちだったんですね。

そう。だから、紙の書籍でなければならないというこだわりはなかった。それで6年前、筑摩書房が出している新書シリーズ「ちくま新書」の中から既存の作品も含めて100~200冊程度、電子書籍化しようという話になって、そのうちの一冊として私の『現代の金融入門[新版]』が選ばれました。もともとその本は、大学生向けの教科書として使われていたりして、累計だと3万部くらい売れている本なんです。自分で言うのもなんだけど、「売れ筋の作品を電子書籍化してみよう」ということになったのでしょうが、反対する理由もないので、同じ版元から電子書籍版も出してもらいました。

――先ほど先生の本が教科書として使われているというお話がありましたが、もし、大学の授業で電子書籍の教科書を導入するとしたらどのように思われますか?

電子書籍は、研究目的や教育分野では、まだまだ使いにくいのではないかと思います。副読本のようにして、とにかく文字を読むだけならいいんだけど、データを多く使う本だとグラフも表もすごく小さくて、よく見えないことも多い。だからそういう図表や数式のウェイトが高い分野にはまだ向いていないのではないかと思いますね。

――教科書として使用するのは、まだ難しいということですね。

そう。小説を読むのにはいいんですけどね。電子ペーパー端末はまだカラー化されていないし、その点でも図表についてはこれからですよね。タブレットではカラーで読めるけど、電子ペーパー端末でグラビアに印刷したような感じのカラーで見たいですよね。

――そういうところも電子書籍の課題となってきますね。

そうですね。かさばらないっていうことが最大のメリットなんだけど、その反面ボリューム感がつかみづらいところがあります。読んでいるときに「今何ページくらいで全体の中のどれくらいにいるのか」ということが、数字で見れば分からないわけではないけれども実感はしづらいですよね。それから2ヶ所とか3ヶ所を同時に参照するのもなかなか難しい。

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