今回は、現在5ヶ月連続で刊行中の綾崎隼先生にインタビューをさせていただきました。前回ご登場時には、以前に単行本された初の文庫化や電子書籍化の裏側を中心にお伺い致しましたが、今回はロシアで開催されている2018 FIFAワールドカップにあわせて刊行された『青の誓約 市条高校サッカー部』及び<レッドスワンサーガ>の文庫化についてお伺いしました。
綾崎先生のファンの方はもちろん、サッカー好きの方にもたまらなく熱いインタビューとなっております。
『青の誓約 市条高校サッカー部』 綾崎 隼 イラスト/ワカマツカオリ KADOKAWA
『青の誓約 市条高校サッカー部』は、<レッドスワンサーガ>の文庫化が頭にあった
―― 5月に発売された『青の誓約 市条高校サッカー部』(以下、『青の誓約』)は、「月刊ローチケ/月刊HMV&BOOKS」で連載していた作品ですが、こちらで書かれた経緯を教えてください。
綾崎隼(以下、綾崎):電撃文庫さんとローソンさんのコラボ企画で、他の作家さんが連載をされていたんです。面白そうな試みだなと思っていたら、第二弾が同期の有間カオルさんだったんです。それで、担当編集さんに連載後に単行本化されるなら、僕もやってみたいですと話しました。
―― 綾崎先生と有間先生はTwitterや直にやり取りしていて仲が良いなという印象を受けますが、有間先生がたまたまとはいえ連載していたのが大きかったと……。
綾崎:そうですね。外から見ている分には謎の企画だったんですが、同期がやっているなら自分も混ぜてもらえるかなと思い、言ってみました。
それから、連載用に何を書こうか考え始めました。連載が2018年の冬になるということで、<レッドスワンサーガ>の文庫化が近いなと気付きまして。ずっとレッドスワンのライバルとなる高校の話を書きたかったこともあり、青森県のサッカー部を舞台にして書くことに決めました。
短編連作にしたのは、デビュー以来、短編を書くことを苦手としていたので、そろそろ克服しておきたいという思いがあったからです。担当編集にも新しいステージに進むために、ぜひ挑戦してみましょうと言って頂けたので、頑張ってみようと。ちょうど一ヶ月ごとの連載になる企画だったので、そういう意味でもおあつらえ向きで。何話からでも読める短編を4本か5本書き、一つの物語にまとめようと決めました。
―― <レッドスワンサーガ>の文庫化を想定して『青の誓約』を書かれたということなのですが、なぜ市条高校だったのでしょうか。<レッドスワンサーガ>の第一章の最終巻となる『レッドスワンの奏鳴』(2016.1)では伏線となる形で名前だけは登場しております。
綾崎:まずはベースとして<レッドスワンサーガ>の主人公、高槻優雅の父親がどこかで監督をしているというアイデアがあったんです。物語の流れ的にも優雅の父親が指導している高校がラスボス的存在になるのが美しいだろうと。ただ、レッドスワンは一人称で書いているので、作中ではライバル校の詳細な描写ができません。優雅が知り得る情報の中で説明していくのにも限界がある。そんなこともあり、書くならタイトルを変えて、読み切りで一冊だなと考えていました。今回、文庫化と重なるタイミングで、そのチャンスを得られたのは幸運でした。
―― 『青の誓約』は、その優雅の父親にはほぼ触れず、エースの篠宮貴希を<花鳥風月>の『永遠虹路』(2010.7)の七虹のように他者から見た視点で描かれていますが、この視点にしたのはなぜでしょうか。
綾崎:レッドスワンとの死闘を描きたくて作り始めたチームなので、大前提としてスペシャルな選手が必要で、初めから篠宮貴希をスーパースターにしようと決めていました。外からの視点にしたのは、将来プロでも大活躍するような選手を内面から描いていくと鼻につくなと思ったからです。僕個人としてもサッカー選手は憧れの存在なので、貴希の内面ではなく、むしろ彼に憧れている人たちの内面を描きたいと思いました。
―― <レッドスワンサーガ>が一人称なのに対して、『青の誓約』が第三者の視点というのはわかりました。もう一つ<レッドスワンサーガ>の時系列が現在進行形なのに対し、『青の誓約』は現在進行形の部分は一部あるものの、大体は過去を振り返る形です。これはなにか意図があるのでしょうか。
綾崎:電撃文庫に有沢まみずさんという大先輩がいまして、よくフットサルなんかで遊んでもらっていたので、レッドスワンを書くと決めた時に「サッカー小説を描くことになりました」とお伝えしたんです。そしたら、集英社から出ている『1/11じゅういちぶんのいち』(集英社、中村尚儁)を薦められたんです。この作品は、短編連作で描かれる物語で、一本の芯はあるんですが、一つのストーリーが続いていくわけではなく、時代も変わるし、いろいろなキャラクターが主人公になるんです。サッカーってこういう描き方もあるんだなと知って、似たような形で書いてみたいと考えるようになりました。
―― <花鳥風月>の形式に少し近いかなと思いましたが……。
綾崎:人生は長いので。エンドロールの後も続きますし。隙間があれば、一冊の中で、若いころを書くだけでなく、大人になってからの描写もしたいんです(笑)。『永遠虹路』なんかが近いですよね。構成で遊ぶのは技術的にも好きです。
―― 今回は苦手な短編連作ということですが、<花鳥風月>はこの形に似ているなと思うのですが……。
綾崎:『青の誓約』は最終的に読むとすべての物語が繋がっていますが、一話一話を独立して読めるように意識して書きました。『蒼空時雨』(2010.1)や『永遠虹路』、『INNOCENT DESPERADO』(2010.1)、直近の『君を描けば嘘になる』(2018.1)も短編連作形式ですが、いずれもほかの章があって成立する短編になっています。30、40ページぐらいで、完全に独立した小説としてまとめるのが苦手なんです。書きたいことがいっぱい出てきて話がまとまらなくなるタイプなので……。ただ、ここ1~2年で短編を多く書かせてもらったこともあり、ようやく苦手意識が払拭出来たような気がします。
2017年に『謎の館へようこそ 黒』(2017.10)という講談社の新本格30周年記念アンソロジーに参加させてもらったんです。そこでも短編を書いているんですが、尊敬する綾辻行人先生の記念企画でしたので、即答で「参加させて下さい」と答えたものの、おそれ多くて、震えるような気持ちで執筆しました。刊行後に綾辻先生にお会いして、感想まで頂けた時は、天にも昇るような気持ちでした。