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5ヶ月連続刊行!青春サッカー小説<レッドスワンサーガ>を描く綾崎隼先生
2018年7月12日


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『青の誓約 市条高校サッカー部』 綾崎 隼 イラスト/ワカマツカオリ KADOKAWA

書き下ろしのワカマツカオリさんの扉絵が最高にいい

―― 一話の「異世界サッカー革命 柏原聖夏」では、サッカーのない異世界でサッカーを普及させワールドカップのような世界大会を成功させていきます。市条高校の話ではなく、サッカー文化の背景がわかる話となっていますが、この話を最初に持ってきたのはなぜでしょうか。
 
綾崎:最初にプロットを組んだときには三番目においていました。ただ、HMVオンラインでも掲載していただくことになっていたので、周回遅れかもしれませんが、インターネットと親和性が高いのは異世界ものだろうと思って、順番を変えました。
 自分が読んだ異世界ものって『十二国記』(講談社・新潮社、小野不由美)で止まってるんですけど、現代の知識で無双するというのがモダンなパターンと聞いていたので、この短編ではサッカーの知識で無双させてみました。ここまで挑戦的な話を書く機会もなかなかないですし、大変、楽しかったです。
 
―― サッカーを知らない初心者でもわかるような形で話を進めていますが、先生の中でサッカーを知らない人にも楽しんで欲しいという思いがあったのでしょうか。
 
綾崎:はい。もちろんです。どの作品も基本的には自分のことを好きでいてくださる方に、まず読んでもらいたいと思って書いています。僕は恋愛小説やミステリーを書くことが多い作家ですし、割合的にも女性読者さんの方が多いんです。となると必然的について来て下さっている方たちはサッカーに興味がないだろうし、細かなルールも知らない方が大半だろうと思っていました。なので、サッカーの知識がない方にも楽しんでもらえるよう工夫しています。
 
―― 二話目の「夢見る頃は過ぎましたので 蜂屋靖彦」はサッカー選手のセカンドキャリアに触れつつ、単行本書き下ろしの「愛も知らずに今日も私は 高橋郁美」とリンクした形になっています。綾崎先生らしい、読んでいるこちら側がむずがゆくなるような恋愛話なのですが、この二人はどうなって欲しいとか先生の中であるのでしょうか。
 
綾崎:この書き下ろしの短編はすごく気に入っていて、ワカマツカオリさんが描いてくれた扉絵のイラストが最高にいいんですよ! こんな可愛い子がいたら絶対好きになっちゃいますよね(笑)。
 
―― 確かにTwitterでもつぶやいていましたね。


 
綾崎:話が逸れるんですが、今でもフットサルやサッカーを週1回くらいのペースでやってるんです。ただ、年齢を重ねたことで、一緒にプレーしてくれる友達がどんどん少なくなってきて、ここ数年はよく個人参加のフットサルに一人で顔を出しているんです。お金を払って、誰とも喋らずに、黙々と二時間、フットサルに興じるみたいな。個サルって僕のように友達はいなくても蹴りたくて仕方がないみたいな人が集まるので、大抵、レベルが高いんです。時々、女性も見かけるんですが、そんな中に混じる勇気があるくらいだから、そういう方々はやっぱり凄く上手いんです。一人で来るような女性は絶対経験者ですね(笑)。知り合いが一人もいない場所に、ただボールを蹴りたくてやって来て、しかも、サッカーが上手いとか、もう筆舌に尽くし難いくらい可愛いなと思って。これ、特にオチのない話なんですが……。
 書き下ろしは、郁美と靖彦の話にしようと決めていたものの、連載時にはどう落とすかを考えていなかったので、「どうするの?」と二人に問いかけながら書いていきました。お見合いをしている姿は想像出来ませんでしたし、流れに任せてみたわけなんですが、結果的には実に二人らしい展開になったなと思っています。僕にとっては、ある意味、夢物語ですね。
 
―― 書き下ろしで書く登場人物は最初から決まっていたんですね。
  
綾崎:はい。郁美にしようと決めていました。今年のお正月に、実家で熱を出しながら書いていたんですよ(笑)。熱にうなされながら書いたんですが、本当に気に入っているので、ぜひ読んでほしいです。 
―― 久しぶりに先生らしいエピソードをお伺いしました(笑)。三話目の「二人きりの椅子取りゲーム 五十嵐翔太」は、まさに高校時代の話を書いています。
   
綾崎:一番というか唯一と言って良いかもしれない、高校サッカー部らしい話ですね。
   
―― 早川景吾が翔太へ絶縁を告げるシーンは、<ノーブルチルドレン>の千桜緑葉が舞原吐季を高校時代に振った時に似ているなと。本当は意味があってキツいことを言ってるんだけど、汚れ役に徹するために本当のことは言わないみたいな。
   
綾崎:たとえひとりよがりでも、自分を犠牲にして、大切な人の幸せを考えられる子の話を書くのが好きなんだと思います。
 あとはゴールキーパーってサッカーの中で特殊なポジションなので、そのポジションじゃないと生まれない物語を書きたったというのがあります。異世界の話と、このゴールキーパーの話を思いついた時に、短編連作でいけるなと思いました。
   
―― 卒業式の場面や最終話でも景吾が出てきますが、かたくなに本当のことを話していない。いい大人なのに……。
   
綾崎:「いい大人なのに」という言葉は突き刺さりますね。僕にも。本当のことを話したらいいと思うんですけどね。言えないことがいっぱいあるんですよね。男には。
   
―― 最終話の「青の誓約 綿貫真樹那」の話は、真樹那の貴希への片想いの人生を描いていき2024年まで書いています。最後に続きがあると思わせるような終わり方ですが、こういう形でしめたいというのがあるのでしょうか。
  
綾崎:最初は書き下ろしを二つ書くつもりだったんです。一つは先ほど話した郁美の話で、もう一つは真樹那のその後のお話です。でも、既にかなりの文量がありましたし、担当編集に「おいおい。綾崎君、<レッドスワンサーガ>の新作の発売日、分かっている? まだプロットも出来ていないよね?」(意訳)と言われ、最終的に諦めました。続きの話、書きたいんですけどね。
   
―― 『青の誓約』の読者はかなりモヤモヤするんじゃないでしょうか。
   
綾崎:連載時には、聖夏が異世界を行き来している描写があったので、その話を読みたいという感想もいただきましたし、真樹那と貴希の未来を見たいという声もいただきました。そんな中、スポーツ少女の話を書きたいという個人的な欲望を優先して、本編にあまり関係ない、郁美の話を書いてしまいました(笑)。
 女性の作家さんや少女漫画だと付き合ってからの話も描かれることが多いですよね。ただ、僕は男なので、どうしても『YAWARA!』(小学館、浦沢直樹)の最終話のような形が、ゴールとして理想的だなーと思ってしまって。その未来は想像してもらえたらな、なんて考えてしまうことが多いです。
   
―― 先生の作品はくっつくというのがわかって、その先を想像する感じだと思いますが、今回はどっちに転ぶかわからない中途半端ではないかなと……。
   
綾崎:二人、どうなるんでしょうね。貴希から動くことは考えられないので、真希那が頑張るか、周りの人間がお前は何をやっているんだと貴希の頭を叩くかしないんじゃないかなと……。
 


―― 現状この続きを書く予定はあるのでしょうか。
 
綾崎:現状ではないです。本編である<レッドスワンサーガ>が『青の誓約』の最終話、2024年に追つくこともありないですし……。
 ただ、未来の話は書けないと言ってる傍からアレなんですが、講談社が刊行している文芸誌『小説現代』の7月号に「勇気の戦場」という話を寄稿したんです。『青の誓約』の中で貴希と伊織が東京オリンピックに出たと書いてあるんですが、そこに楓を加えて、東京オリンピックの試合を書いています。
ワールドカップに合わせて「野球VS.サッカー」という企画が特集で組まれることになって、野球の話を書いてくれる人とサッカーの話を書いてくれる人を探したらしいんですが、サッカーの試合を書いてくれる人が全然いなかったらしく、タイガの担当編集を経由して、話がまわってきました。<レッドスワンサーガ>の連続刊行に被っていたこともあり、スケジュール的には厳しかったんですけど、<レッドスワンサーガ>『青の誓約』のキャラクター使うことを、講談社の編集者さんとKADOKAWAの編集者さんに了承してもらい、オールスターで書かせていただきました。
 
―― 作品ごと移籍してしまうならまだしも、現在進行形で進んでいる作品のキャラクターが別の会社に出てくるって、なかなかないですよね……。
 
綾崎:ワールドカップ期間中だからしょうがないですよね(笑)。だって、全世界が盛り上がっているんですから(笑)。『小説現代』を読んで面白いと思ってもらえたら、<レッドスワンサーガ>『青の誓約』を買ってもらうしかないですし。KADOKAWA的にも、むしろ宣伝に……。
「勇気の戦場」では大人になった伊織や楓が描かれているので、ぜひ。
 
―― それは楽しみですね。『青の誓約』ではJ1クラブ関係者が所属選手に配布したという手紙をもらったとお伺いしたのですが……。


 
綾崎:そうなんです。どこのクラブかまでは書いていなくて。住所から大まかな予測はついたんですが、完全に絞り切れていないので、気になるところではあります。
  
―― J1クラブ関係者の方からいきなりそんな手紙が来るというのはどうでしたか?
   
綾崎:もちろん、嬉しいですよ! 女性の方で元々そのチームでスタッフをやっていたみたいなんですが、ご主人もチームスタッフらしく、選手たちに配ってくれたみたいです。プロ選手に読んでいただくって、怖いですけど、光栄この上ない話です。

 

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