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5ヶ月連続刊行!青春サッカー小説<レッドスワンサーガ>を描く綾崎隼先生
2018年7月12日


ワールドカップの魅力は、配られたカードでいかに戦うかという点

―― サッカー小説を書くにあたって、高校サッカーを題材にしたのはなぜでしょうか。
 
綾崎:まず最初にサッカーを小説で描きたいという気持ちがありました。なぜなら、サッカーが大好きで、愛しているからです。とはいえ、サッカーって他のスポーツと比べて、小説に落とすのが技術的に難しいんです。スポーツ小説では、『一瞬の風になれ』(講談社、佐藤多佳子)や『DIVE!!』(講談社、森 絵都)が好きなんですが、その二作には共通する三つのポイントがあるんです。プレー時間が短いこと、数字が激しく動くこと、さらに記録さえよければ一気に世界まで目指せることです。それにくらべてサッカーは、プレーは切れないし、スコアもあまり動かない。いきなりすごい選手が現れて海外で大活躍というのも現実的ではありません。何故なら、個人種目ではなくチーム競技だからです。ただ、チーム競技だから楽しいんですよね。仲間がいるから美しいし、燃えます。
 そういった要素も踏まえながら考えていった時に、まず思ったのは、メインとなる戦いは絶対にトーナメント形式がいいだろうということでした。『GIANT KILLING』(講談社、ツジトモ・綱本将也)は素敵な漫画ですが、リーグ戦を描けるのは続刊が想定出来るから(2018年7月現在、47巻)です。一方で、僕は一冊で完結させていく必要があったので、トーナメントしかないなと。日本のプロの世界ですと、ルヴァンカップや天皇杯がありますが、印象的にトロフィーの価値としては、どうしてもリーグ戦に軍配が上がります。突然、ワールドカップやオリンピックの話が始まるのも違和感があります。そういった諸々の要素を考慮していった先で、エンターテイメントとして割り切るなら、注目を浴びる全国高等学校サッカー選手権大会をメインで考えるのがベストだろうという結論に達し、高校サッカーを題材とすることにしました。
 
―― レッドスワンや市条高校はモデルになっている学校やチームはあるのでしょうか。
 
綾崎:ライバル校、偕成学園や青森の絶対王者などは、高校サッカーを知っている人には、明らかにあの高校だろうなと想像されてしまうチームがあるのですが、レッドスワンと市条高校を構成するために参考にしたチームはありません。ただ、試合展開の中で、参考にした戦術やプレーは沢山あります。『レッドスワンの奏鳴』でも言及しましたが、プレミアムリーグにはストーク・シティというチームがあって、2000年代後半にデラップという選手のロングスローで有名になったんです。「人間発射台」と呼ばれた彼を活かすために長身の選手を集めてきて、テクニカルなチームを続々と破っていたんです。本当に面白いチームだなと思って。レッドスワンにも背の高い子が揃っていますので、当然、参考にしました。
 
―― そういったものが結構散りばめられているということでしょうか。
 
綾崎:そうですね。『レッドスワンの星冠』(2015.7)では、追い詰められた美波高校がフォワードを増やしていくんですが、あれもワールドカップの某試合でフォワードを6人くらい入れて、ポジションを次々と入れ替え、敵を混乱させた国がありまして、それを参考にしました。
 『レッドスワンの奏鳴』のラストシーンでイメージしていたのは、ベルギーのトーマス・ヴェルメーレンという選手のゴールですね。こちらは多分、動画で探すのは困難でしょうが、リアルタイムに見ていて思わず叫んでしまった試合でした。シチュエーションごとに好きなシーンを思い出して、文章にしています。
 
―― かなり試合観られています?
 
綾崎:普段はJリーグ、プレミアムリーグとチャンピオンズリーグを中心に、週に3~4試合ぐらいでしょうか。ワールドカップ期間中は寝不足ですね。大会前は仕事のことも考えて厳選して見ようと思うんですけど、結局、ほとんどの試合を見てしまうので……。
 
―― 『青の誓約』が5月末発売で、そこから<レッドスワンサーガ>が毎月刊行なのはロシアで行われるワールドカップに合わせたとお伺いしました。ワールドカップの魅力はなんでしょうか。
 
綾崎:配られたカードでいかに戦うかという点だと思います。クラブチームは、お金さえあれば自分たちがやりたいサッカーをするために選手を集めることができます。でも、ワールドカップは国や地域でチームを組むので、集まったメンバーの中で最適解を探していかなければならない。それが魅力だと思います。
 僕は新潟県民なので、Jリーグでは毎節、アルビレックス新潟の試合を見ます。これも今更、説明するような話でもないんですが、ジュビロ磐田の中村俊輔選手ってフリーキックがめちゃくちゃ上手いじゃないですか。ゴール前でファールを犯そうもんなら、恐怖で震えてしまいます。もう決まる気しかしないですから。でも、そういうリーグでは敵だった選手が、代表では仲間になって一緒に戦うんです。最高にワクワクします。クラブではライバル意識むき出しで戦っている選手が共闘するって熱いです。
 
―― 2020年はデビュー10周年になります。
 
綾崎:あっという間ですね。でも、今はまだ<レッドスワンサーガ>のことで頭がいっぱいです。サッカー小説なので、女性や興味のない読者の方も多くいると思うんですけど、読んでもらえれば絶対楽しんでもらえると思っています。友情の物語でもありますから。
 
―― サッカーが好きな方はずっと読んでいたいかもしれないですね。
 
綾崎:<レッドスワンサーガ>では教師を正面から書けたことも嬉しかったんです。僕も十年間教師だったので。舞原世怜奈の教師像は、ある種の理想ですね。そんな部分も楽しんでもらえればと思います。
 
―― そうなんですね。デビューしたときから変化したことはありますか。
 
綾崎:デビューしたころは書きたいものが無くなることが怖かったんです。実際にはそんなことなくて、書きたい題材はどんどん増えているし、幸いにも、うちで書きませんかと声をかけてくださる方も増えたので、気持ちに原稿が追いついていないことがもどかしいです。あとは、きちんと取材をすれば、自分が知らない世界でも書けるという自信を持てたことも大きな変化の一つです。
 ミステリー、SF、スポーツと、ジャンルを変えていくことは、読者さんが離れていくきっかけになってしまうのかもしれません。ただ、ジャンルが変わっても、自分が美しいと信じている感情や根幹は変わらないので。僕の恋愛小説が好きな方にも、ミステリーが好きな方にも、手に取ってもらえたら嬉しなって。
 
―― 以前のインタビューで2020年の東京オリンピックぐらいまでに<世界で一番可哀想な夫婦の話>を書きたいとおっしゃっていました。
 
綾崎:書いています、書いています。講談社タイガで書き始めています。既に1冊書き終えているんですが、続きも書き終えてからリリースしようという話になっていて。現在は<レッドスワンサーガ>の連続刊行に伴い、執筆を中断しているんですが、「飛翔」が完成次第、続きを書き始めます。
 担当編集には「レッドスワンの刊行が9月まで続くなら、うちは10月刊行で良いですか」と言われまして、「そのスケジュールでは普通に死にます」と答えました。そんなこともあり、発売はまだ決まっていませんが、遅くとも来年には刊行されると思います。この夫婦の話がですね。本当に、誰も読んだことがない愛の話になっていると思うし、大好きな感情を詰め込んだ小説にもなっているので、早くお届けしたいです。もうしばし、お待ち頂けたらと思います。
 
―― 最後に本インタビューをご覧の方にメッセージをお願い致します。
 
綾崎:『青の誓約』は現状電子書籍での配信の予定はありません。ただ、『レッドスワンの絶命 赤羽高校サッカー部』から紙書籍と同日に電子書籍でも配信されます。紙の形でも、電子の形でも読んでもらえると嬉しいです!
 <レッドスワンサーガ>について話し始めると止まらなくなるので、感情の赴くまま語ってしまいました。
 綾崎史上、最高に熱い小説になっています。ぜひ、読んで欲しいです! よろしくお願い致します!

 

綾崎隼(あやさき・しゅん)
1981年生まれ。新潟市出身。
2009年に第16回電撃小説大賞選考委員奨励賞を受賞し『蒼空時雨』(メディアワークス文庫)でデビュー。
「花鳥風月」シリーズ、「ノーブルチルドレン」シリーズなど、メディアワークス文庫にて人気シリーズを多数刊行するほか「命の後で咲いた花」などの単行本も刊行。
講談社タイガでも「君と時計と」シリーズ(全4巻)を刊行。
恋愛青春小説の書き手として10代20代女性読者から多くの支持を集めている。

Twitter:@Syun_Ayasaki
Instagram:@ayasaki_syun
ブログ:http://ayasaki8823.blog109.fc2.com/

『青の誓約 市条高校サッカー部』

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<内容紹介>
好きな人が、好きな人と、 幸せになれたら良いのに。

青森市条高校サッカー部は奇跡のチームだった。
稀代の名将と、絶対的エースの貴希に導かれ、全国の舞台に青の軌跡を描いたのだ。
あの頃、サッカー部の部員たちは、誰もが一度はマネージャーの真樹那を好きになっている。
だが、皆が理解していた。
真樹那が幼馴染みの貴希を愛していることを。
そして、その貴希が別の誰かを愛していることを……。
『青の誓約』を胸に刻み、少年たちは大人になる。
恋愛小説の名手による新時代の青春群像劇、開幕!

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『レッドスワンの絶命 赤羽高校サッカー部』

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<内容紹介>
私立赤羽高等学校サッカー部『レッドスワン』。
新潟屈指の名門は崩壊の危機に瀕し、選手生命を絶たれた少年、高槻優雅は為す術なくその惨状を見守っていた。
しかし、チームが廃部寸前に追い込まれたその時、救世主が現れる。
新指揮官に就任した舞原世怜奈は、優雅をパートナーに選ぶと、凝り固まってしまった名門の意識を根底から変えていく。
誰よりも〈知性〉を使って勝利を目指す。
新監督が掲げた方針を胸に。
『絶命』の運命を覆すため、少年たちの最後の闘いが今、幕を開ける。

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『レッドスワンの星冠 赤羽高校サッカー部』

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<内容紹介>
この情熱だけは、誰にも奪わせない。新時代の青春サッカー小説、第二幕!

インターハイ予選の顛末を受け、赤羽高校サッカー部はラストチャンスを得る。
最大の祭典、冬の全国選手権への出場が叶えばチームは存続、予選で敗退すれば廃部となることが決まったのだ。
舞原世怜奈の指導の下、戦力強化を図っていく『レッドスワン』にあって、高槻優雅もまた〈指揮者〉として鍛えられていく。
その未来は『絶命』か『生還』か。
赤き誇りを取り戻すため、少年たちは最後の決戦に挑む。
レッドスワンサーガ、誇りと覚悟の第二幕!

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『小説現代 2018年 8月号 』

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<内容紹介>
◇読み切り特集:青春小説 野球vs.サッカー 須賀しのぶ、額賀澪、朝倉宏景、喜多喜久、武田綾乃、綾崎隼、小島陽太郎、ディエゴ・加藤・マラドーナ
◇特別対談:朝井リョウ×額賀澪
◇読み切り:伊兼源太郎
◇電子版限定/村上竹尾「生きかえりクエスト」コラム:中瀬悠太
◇第64回江戸川乱歩賞発表
◇好評連載:今野敏、浅田次郎、宮城谷昌光、真梨幸子、楡周平、矢月秀作、西村京太郎、梶よう子、貴志祐介、夢枕獏、山本一力
※電子版では紙の雑誌と内容が一部異なる場合や、掲載されないページがあります。

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