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快作『歪んだ波紋』・著者塩田武士さんインタビュー 初短編集に込めた真っ直ぐな想い
2018年8月8日


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読者一人ひとりがゾッとするような、突き刺さるようなものに

 
―実際にあった事件を想起させる箇所がありますが、取り上げている事件は塩田さんにとって、何か思われるところがあったのでしょうか?
 
塩田 : イメージとして分かりやすいと思いました。フェイクニュースは、アメリカの映画『ニュースの天才』(2003年)のように、これまでにも取り上げられていました。ただ、それを毎日、意図的に創ってビジネスにしているということは、これまでのメディアとは根本的に違うなと思っています。
 
インターネットやSNSの普及により、誰でもニュースを配信できてしまうという怖さがあります。一般の人がそこまで底意地の悪いことをしてニュースを発信するのはまれだったと思うんですよ。ニュースは報道機関をはじめ、物書きのプロが報じていましたから。
 
―登場人物こそ「新聞記者」ですが、情報過多の時代においては自分ごとのように感じました。こういうところは意識されましたか?
 
塩田 : そうですね。僕たちはたぶん歴史上初めて、自らが第五権力になろうとしているのかもしれません。今までは、三権に加えて「報道」という第四権力というのがあると言われていました。今、情報を発信する、公にするというのは権力と言ってもいい、とても重たいことなんですよ、と今回伝えたかったんです。読者一人ひとりがゾッとするような、突き刺さるようなものになっていると思います。
 
―作中には元記者を含めて多くの記者が出てきますが、塩田さんの記者時代と性格が近い人物はいますか?
 
塩田 : 沢村のようにやる気はなかったですね。だから、やる気のなさの描写はリアルやなとは思います。僕も記者としてそれなりには頑張ったつもりですけれど、ある程度の年齢になって調査報道をやろうという感じにはならなかったですから。
 
相賀にはモチーフにした人物がいます。グリコ・森永事件取材のときにお会いした、読売新聞の「ミスターグリ森」と呼ばれた加藤譲(ゆずる)さんです。現在70歳なんですが、今もグリコ・森永事件の取材をしているんですよ。本当に頭が下がる思いです。すごくかっこいいな、自分には到底できない継続取材だと感服しています。



 
―相賀は一度登場し、再び出てきますよね。
 
塩田 : 超高齢社会となり、男性は肩書きがなくなったときに、基本的に何もできなくなると思うんですよね。ただ、ジャーナリズムに名刺は関係ないと思います。「伝えなあかんと思うもんがあんねやったら動きなさい」ということだと思うので、気づいてからの相賀はそういう意味で、ジャーナリズムに突き動かされている。
 
ご年配のかたに読んでいただき「ああ、いいな」と思ってほしいですね。趣味に生きるのはもちろんいいんですけど、社会に対して自分の経験や才能をどう還元していくかを考えるきっかけになったら嬉しいです。
 
―作品を貫く主人公が不在なのは理由があるのですか?
 
塩田 : それぞれのテーマが独立しているからです。例えば、沢村なら沢村で、一つのテーマに性差や世代別で抱えているものを誤報に溶けこませている形にしています。ただし、短編なので最終的にはそれぞれの登場人物が交わるほうが、読者に内容をより伝えることができると思ったんですよね。それほど、一つひとつのテーマが強いってことなんです。一人の主人公がそれぞれのテーマで活躍していると、どうしても読んでいて飽きてしまいますので……。
 
次ページ>280ページ目を閉じたあとに、自分ならどう考えるかを楽しんでいただきたい




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