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快作『歪んだ波紋』・著者塩田武士さんインタビュー 初短編集に込めた真っ直ぐな想い
2018年8月8日


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280ページ目を閉じたあとに、自分ならどう考えるかを楽しんでいただきたい

 
―フェイクニュースが生み出される背景には、「情報の壁」がなくなったことがあるのでしょうか?
 
塩田 : そうですね。それがビジネスとして成立しているところがあります。今までとの決定的な違いは、ニュースを自分で編集、発信できるということです。また、ニュースソースと受け手が直接結び付く環境も大きいかと思います。
 
―一般読者がフェイクニュースに気づく、騙されないためには何が必要ですか?
 
塩田 : そのニュースの情報ソースや論調に気を使うとよいかもしれません。内容が良くも悪くも過度なニュースには反応しない。反応するとフェイクニュースの拡散に加担したことになるので。ちょっと引いたさめた目で見て、「笑ってしまった、拡散しよう」ではなくて、「ちょっとできすぎていないか?」と考えることは重要だと思います。
 
あとは、災害情報などには極力気をつけるということですよね。フェイクニュースを流したら他人に迷惑がかかるし、災害情報は善意がおせっかいになるかもしれないということは、つねに肝に銘じておくということ。ジャーナリズムの原則は真実のためにあって、その真実は市民のためにある、ということをきちんと理解しておくのは大事かなと思いますね。



 
―たとえば、多くのニュースに目を通し、情報に偏りすぎないということが大事ということでしょうか?
 
塩田 : そうですね。ただ非常に難しいんですよね。じゃあ「新聞を五紙読め」って言ったら、現実的には不可能ですし。ただ、新聞を一紙きっちり読むことは大事かもしれないですね。WEBニュースはアルゴリズムの問題もあるし、心地よいニュースばかり受け取る側面があります。
 
新聞などのレガシーメディアが、ネタを抜いた抜かれたと言っていたものは、いわばコップの中の争いなんですよね。必要なのは、早さよりも深さだと思うんですよね。情報の深さを発信していけば、われわれ受け手も質の高いニュースに慣れていくんじゃないかなと思います。ただ、いきなり受け手に何かを強いるっていうのは難しいので、まず送り手側の意識改革は大事かなと思いますね。
 
あと、本を読むことがあらためて大事になってくると思います。ニュース媒体ばかりではなく、本をきっちり読んで、自分の中に思考の連続性を保つことが大事だと思いますね。
 
―塩田さんは、過去のインタビューで「小説ほど優れたメディアはない」と仰っていますよね。
 
塩田 : 小説はやっぱり深いです。「行間を読むってどういうことか分かるか」と聞かれたことがあります。その人は「行間を読む」ということは、文章を読んで何かしらの表現を目にしたとき、自分の経験や考えを整理している時間のことだと教えてくれました。
 
情報過多の時代では、例えば、LINEの返事をすぐに返さないといけないというように、自らの時間をコントロールするのが難しくなっています。一方、活字には自らの時間をコントロールできる豊かさがあるぞ、と思っています。自分で考える、自分で時間を止めてみることが実は大切です。
 
そのクセが身につくと、フェイクニュースに騙されたりしないんじゃないかなって思いますね。
自分の世界観を作るために、自分の時間に没頭していくことも大切だと思います。
 
―同じインタビューに、「出版社ももっと変わっていかないと危ない」と仰っていました。出版社もタイトルやキャッチコピーを公募しているそうですが、このような取り組みも最近増えつつあります。
 
塩田 : 僕はタイトルは作家がつけるものだと思っています。読み手との距離を近づけるということは大事だと思いますが、別の方法を考えますね。タイトルは創作の領域に入ることだと思います。キャッチコピーはアリだと思います。優れたキャッチコピーをいただいたら、それを積極的に使いたいですね。作品の本質をちゃんと見抜いてくれているものならありがたいです。
 
小説はエンターテインメントの選択肢として端のほうに追いやられているので、それをもう一回中央のほうに戻したいっていう気持ちがあります。「小説は本当に深くておもしろい」ということをどうやって伝えていくかだと思うんです。
おもしろい作品を書くことと、プロモーションをどうやって展開していくかという両輪ですよね。読者も参加できる機会というか、『騙し絵の牙』のときは配役当てみたいなことが流行ったんですけど、そういった形でも読者参加していただけるかなと思っています。
 
でも、イベントなどがどうやったら上手くいくんかなっていうのは考えます。直接、読者の方と触れあう機会を作りたいですね。
 
―次作のテーマとして考えているものはありますか?
 
塩田 : 経済に挑戦したいなとは思っています。バブルをテーマにしたときに、土地や株へ展開していくか、仮想通貨にいくかは全然違いますよね。そこのあたりを整理できないかなと。『歪んだ波紋』でも経済システム、シュンペーターの「創造的破壊」の話が出てきますが、そのシステムで何が行われているのかを俯瞰したうえで、人間を書きたいなという欲望はありますね。
 
あと、アニメ業界についても調べています。世界に名だたるアニメは多くありますけど、現状を取材すると、けっこう業界はボロボロみたいです。「アニメ」「世界」「すごい」っていう看板があったら疑わないじゃないですか。こういうものを、一つひとつ疑っていきたいなと思っています。そこから「アニメ」といろんなことをつなぎ合わせて、「ああ、結局一緒やん」というものが見つかったら嬉しいというか、意義があるかなって思いますね。人の話を聞いているだけでおもしろいので、いろいろ挑戦していきたいと思います。
 
―このインタビューをご覧のかた、これから書店さんで手に取っていただくかたに向けて、メッセージをお願いします。
 
塩田 : まず、『歪んだ波紋』はおもしろいです(笑)。それぞれのストーリーが序盤と終盤で意表をつき、人間の疑心暗鬼、悪意など非常にゾっとするような展開があるので、読みものとして楽しんでほしいです。そのうえで、そこのテーマとして流れているものを感じとっていただければ、現代の混沌とした情報社会の霧やモザイクが薄まるんじゃないかなと思います。
 
あとは、読んだあとが勝負というか、280ページ目を閉じたあとに、自分ならどう考えるかを楽しんでいただきたいなと思います。
 
塩田武士(しおた・たけし)
兵庫県出身。2010年、プロ棋士を目指す無職の三十男を描いた『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞を受賞。2011年、同作で作家デビュー。第23回将棋ペンクラブ大賞(文芸部門)を受賞した。
 
2016年、グリコ・森永事件を題材のモチーフとした『罪の声』で第7回山田風太郎賞受賞。同作は2016年版の「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位、2017年版の「このミステリーがすごい!」で第7位、第38回吉川英治文学新人賞候補に選ばれた。
 
2018年初の短編集となる『歪んだ波紋』を刊行。
 
Facebook:@tk.shiota
Instagram:@tk.shiota


『歪んだ波紋』

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<内容紹介>
記者は一度は未知の扉を開けるものだ。「黒い依頼」――誤報と虚報 「共犯者」――誤報と時効 「ゼロの影」――誤報と沈黙 「Dの微笑」――誤報と娯楽 「歪んだ波紋」――誤報と権力 新聞、テレビ、週刊誌、ネットメディア――情報のプリズムは、武器にもなり、人間を狂わす。そして、「革命」を企む、“わるいやつら”が、いる。『罪の声』の“社会派”塩田武士が挑む、5つのリアルフィクション。誤報の後に、真実がある。
 
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