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ラブコメ王・瀬尾公治先生が描く少年漫画編集部の熱い現場が舞台の『ヒットマン』
2018年10月29日


ラブコメはヒロインの魅力を、主人公の目を通して、読者に伝えることが大切

P127G
©瀬尾公治/講談社

―― 『ヒットマン』に登場する指導社員・夏目が「論理的に面白さを説明してください」と言っていますが、これは「構成」が重要だと瀬尾先生がお考えだからでしょうか。

瀬尾:そうですね。僕も好きな漫画を何十回も読んで、「なぜここが面白いのか」というのをすごく考えるようにしていました。たとえば、情報の出し方も学んだことのひとつです。ただの「起承転結」ではなく、「転」の前でタメを作るために「承」を2回続けてみたり、「転」の後でさらに読者の予想を裏切る「転」を入れてみたり。ヒット作を紐解くことでたくさんのことを学びました。
 
―― その他に瀬尾先生が行った勉強法があれば、ぜひ教えてください。
 
瀬尾:勉強法とは少し違うかもしれませんが、当たり前のことを疑うようにしています。「主人公とヒロインが付き合っていいのか」とか、「このバトルで主人公が勝っていいのか」とか、普通だったら立ち止まらないところで客観的に考えることを心がけています。
 
―― それは「ベタ」とか「お約束」と言われるものを疑うということでしょうか。
 
瀬尾:その通りです。むしろ「ベタ」を利用して読者の予想と違う方向に物語を展開させ、ビックリさせたいですね。作品を読み進めていると、「どうせこうなるんでしょ」と思ってしまうところがあると思うのですが、そこをあえて捻って読者に驚きを感じてほしいです。
 
―― 週に20Pも原稿を描かなければいけないのに、そこまで考えていらっしゃったとは……。
 
瀬尾:だからこそ「生産量」も大事なのです。限られた時間の中で考えて描くことが週刊連載なので、「生産量」は武器になります。たまに一挙二話掲載の作品がありますが、「生産量」があればそのような施策を打つこともできますし、前々作の『君のいる町』と前作の『風夏』は最終回と新連載1話目を一緒に掲載してもらったので、大きな話題になりました。
 
―― 『君のいる町』の頃には、『Princess Lucia』と『Half&half』の3作同時に描いてらっしゃいました。
 
瀬尾:一度やってみたかったのです。いろんな編集者がうちに来て、「先生、うちの原稿を……」、「いや、うちのが先です!」みたいなことを(笑)。
 
―― まるで昔の手塚治虫先生みたいですね。
 
瀬尾:大変過ぎたのでもう二度とやりたくないです(笑)。やっぱり昔の先生方はスゴイなと思いました。別々の出版社の全く違うスケジュールに対応。しかも、単純に描く量が3倍ということではなく、違う作品のそれぞれのストーリーを考えなければいけないので、想像を絶する大変さですよ。



―― 多くある漫画雑誌の中から、瀬尾先生はなぜ週刊少年マガジンを選んだのでしょう。
 
瀬尾:友達のお母さんに「ジャンプよりもマガジンの方がいいんじゃない?」と勧められたのが理由です(笑)。自営業をやってらっしゃる方だったのですが、どうやらそのお店ではジャンプよりもマガジンが売れていたみたいで……。その一言で今の僕があるのですから、本当に「運」がいいようです。マガジンに持ち込んでいなかったら、僕は漫画家になっていたかどうかも分かりませんから。逆に、もっと売れっ子漫画家になっていたかもしれませんが(笑)。
 
―― 今後『ヒットマン』にも出てきそうなエピソードですね。
 
瀬尾:このエピソードではありませんが、『ヒットマン』には、僕の実際の経験がモデルになっている話もあります。龍之介が新人賞の結果を翼に伝えるシーンで、入選だったにもかかわらず言いよどむ龍之介の態度に、翼が落選したと勘違いしてしまうという場面があるのですが、僕が新人賞を授賞したときも、担当編集が「今回は残念ながら……」と超ローテンションで電話してきました。これは落選だったかと思ったのですが、実はそれが担当のイタズラで「見事、受賞しました!」とそのあとに言われました。当時はイラっとしましたが、今ではいい思い出です(笑)。

P150G
©瀬尾公治/講談社

 

―― では、龍之介のモデルは当時の担当編集なのですか?
 
瀬尾:いえ、全く違います(笑)。主人公である龍之介は、僕が一番描きやすい「バカで元気でアホな奴」がコンセプトです。なので、モデルとなった編集者はいません。ヒロインの新人漫画家・翼もモデルはおらず、龍之介との相性でキャラクターを決めました。彼女は現実的で夢を見ることを恐れるタイプの女の子で、理想を追いかける龍之介とは真逆の存在です。物語の中で、二人がぶつかってケンカするような仲にならないと作品が面白くならないと思ったので、今のキャラクターになりました。
 
―― ということは、主人公からキャラクターを作っていかれたのでしょうか?ラブコメ作品では、物語の核となるヒロインのキャラクターを先に考える印象があります。
 
瀬尾:僕は昔から主人公を先に考えることが多いですね。ラブコメはヒロインの魅力を、主人公の目を通して、読者に伝えることが大切です。この「主人公の目を通して」というところがポイントで、もし主人公の選択を誤るとせっかくのヒロインが台無しになってしまいます。
 それに、どの作品でも主人公は僕自身で、僕にこんな女の子が来たらどうするだろう? と考えながら描いているので、適当に決めてしまうと僕が作品に共感できなくなってしまうのです。
 
―― 『ヒットマン』では龍之介と翼を個性豊かなキャラクターが囲みます。特に編集部には濃いキャラクターが多い印象ですが、モデルになった方がいらっしゃるのでしょうか?
 
瀬尾:全員にモデルがいるわけではありませんが、週マガ四天王の1人、敏腕編集者の八神にはモデルがいます。とはいえ、僕は直接お話したことがない方なので、あくまでイメージだけですが。そして、八神ほど冷酷な感じではないと思います(笑)。
 八神の同期で龍之介の指導社員の夏目は、変り者を出したくて考えたキャラクターです。立ち上げた作品がゼロ。しかし打ち切り寸前の作品を引き継ぎヒット作として蘇らせる。そんな優秀な編集者がいても面白いかなと。

 

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