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本は日用品 『本屋の新井』の著者・新井見枝香さんの哲学
2018年11月16日


 「新井さんがプッシュした本はヒットする!」という都市伝説(?)もあるほどのカリスマ書店員が三省堂書店にはいる。それが今回『本屋の新井』を出版した新井見枝香さんだ。
本を読む人が減り、書店も年々減り続ける状況のなか、それをもろともせず、独自のアイディアで本を売り、テレビやラジオなど数多くのメディアに露出している。

 今回、電子書籍ランキング.comでは、人生二冊目のエッセイとなる『本屋の新井』の出版記念として、本のお話も聞きつつ、書店員として何を考えて日々活動しているかをお伺いした。

作家の魅力を知ってもらって、ファンを増やしたい

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―― 現在、新井さんは三省堂書店神保町本店で働かれていますが、どんなきっかけで書店員になられたのでしょうか。
 
新井見枝香(以下、新井):当時、アルバイトを探していて、最初はパン屋にしようと思ってパン屋を受けに行ったら、本屋も募集していてそっちも応募したんです。興味の幅が広いので、興味があるならなんでもよかったんです(笑)。パン屋よりも本屋のほうが先に決まったので、本屋で働き始めました。
 
―― もともと本を読むのは好きだったのですか?
 
新井:好きかと言われると好きですね。特別に好きだという意識もなく、書店員になる前から本を買うのは当たり前でした。本を毎日読むのが当たり前で、毎日読みたいから本屋に本を買いに行くという感じです。

 例えると、アイス好きの人が、アイスを毎日食べたいがために、冷凍庫にアイスがいっぱい入っているのと同じ感覚です。そのぐらいの感覚で本を読んでいました。
 
―― 新井さんの書店員としての日常を教えてください。
 
新井:今は2階の文庫を担当しています。なので、新刊が入ってきたら棚に出したり、補充したり、売れない本を下げたりするなどの棚の管理をしています。棚に置ける本の量が決まっているので、本を出したり、下げたりと日々、取捨選択です。あとは、レジに立つことがメインの仕事です。
 
―― 文庫と一括りに言ってしまいますが、一般文芸の文庫から学術系まで幅が広いですが、それをまとめてやっているのですか。
 
新井:そうですね。ジャンルは幅広いですね。今まで文芸担当だったので、文芸書に関してはそれなりの知識もありますが、全く知らないジャンルもあります。ただ、棚を作るのは文芸の時よりも楽ですね。
 
―― それはなぜでしょうか。
 
新井:文芸書の文庫は、単行本が文庫化されるので、ある程度予備知識があるんです。単行本だと本当にまっさらな状態のものが出るので、未知数な部分が多いんです。

 ライトノベルとかは書き下ろしのものが多いのですが、表紙で売れ行きが決まるので、表紙を見せてもらって、感覚で決めています。また学術系の少し堅めの文庫は、買われる方が詳しくて自分で何を読みたいか分かっているので、きちっと発売日にわかりやすく置いています。

 レーベルによって置き方は変わりますが、それぞれ決まっているので、文芸の時よりは楽です。


―― 新井さんというと、著者を呼んで話を聞く「新井ナイト」が有名ですが、始めたきっかけはなんでしょうか。
 
新井:実は書店員って、作家さんと会う機会が多いんですよ。そこでお話すると作家さんがとても魅力的で、それをみんなに知ってほしいなと思ったんです。ただ、普通のトークイベントとしてやると、来歴とか、受賞歴を述べて、執筆のきっかけなど『ダ・ヴィンチ』とかに載っているようなことで、わざわざ聞くまでもないので、ゆるいトークイベント的な形でやっています。
 
―― この「新井ナイト」ですが、三省堂以外の書店でもやっていらっしゃいます。
 
新井:以前にいた有楽町店や池袋店のときは場所があったので目一杯やっていたのですが、営業本部に異動したりして、場所がなくなった時に他の書店にそのまま話を持っていって、作家さんを紹介して、おまけで自分も付いていっています。

 書店がイベントをやるときは本を売って収益を上げることが目的なのですが、「新井ナイト」についてはもっと大きな目標があって、その場の利益でなく、作家さんを知ってもらって、作家さんのファンを増やして、今後、その作家さんが作品を出した際にお金を出してくれる人を増やすというのが目的なんです。単店で一時的に売れてもたかが知れていて、全体の売上をアップしていかないといけないと思っています。なので、場所はどこであってもいいと思っています。

 確実にファンを増やすためには、1回だけでなく次も次もというふうにしていく必要があるので、「新井ナイト」はそのための地道なライフワークになっています。
 
―― そうすると「新井賞」もそういった意図があるのでしょうか。
 
新井:最初は、『男ともだち』(著:千早茜)という作品が直木賞候補になった時に、どうにかして売るために苦肉の策で作った賞だったんです。その作品が直木賞になったら売るつもりで準備をしていたのに、「直木賞獲れませんでした。では売りません。」というのはおかしいので、どうにかして売ることができないかなと。で、私の名前と顔を使って「新井賞」と名付けてオリジナルの帯を巻いて売ったのがはじまりです。これも意外に反響があったので、そこから恒例化しました。
 
―― いろいろとメディアに取り上げられて、カリスマ書店員として呼ばれることはいかがでしょうか。
 
新井:そういうふうに呼ばれて、嬉しいとかそういうのはないんですね。ただ、そういうふうに取り上げてもらうことで信頼が生まれたかなと思っています。私が本を薦めたときに信じてもらいやすくなったなというのがあります。自分がメディアに出ることを受けてきたのは、お客様に信頼してもらうために出たところもあるので、結果として私という人を通して本を買ってくれた人が増えたと考えると、その効果というのはあったんだと思います。

 

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