» page top
unnamed

本は日用品 『本屋の新井』の著者・新井見枝香さんの哲学
2018年11月16日


自分の中で疑問に思ったことをそのまま文章として出した

51l3Ex7Rv3L
―― 『本屋の新井』は、出版業界向けに書いたものとおっしゃっていましたが、何を書くかなどはどう決めたのでしょうか。
 
新井:あとから考えてみると、何かを考えさせたいとか知って欲しいとかはなかったです。自分の中で疑問に思ったことをそのまま文章として出していて、エッセイの終わりも結論を出さずに放り投げています。

 ショーペンハウアーの「読書について」(『読書について 他二篇』所収)に、「読書は、他人にものを考えてもらうことである。」という一節があるのですが、人は読んだことでわかったような気になり、自分で考えたような気になる危険性があります。なので、あえて、あるがままをそのまま出すようにしました。
 
―― 執筆されたコラムの内容は、どういった時に考えられるのですか。
 
新井:だいたい締め切りを思い出したときに、いちばん心を占めていることについて書いています。なので、「来週は何を書くのですか」と聞かれてもわからないですし、早めに書いていても締め切り直前に衝撃的なことがあると、全然違うことを書いたりします。
 
―― 読んで新鮮に感じるのは、思いついたことをそのまま書いているからなんですね。
 
新井:特にお題は用意していません。今回、収録したものも自分で選んだというより編集の方が「これはいい」というのを選んだ感じです。

 各章のタイトルが基本的に最後の一文を引用しているのは、完全に編集の方の意見です。自分ではそんなことは意識していなくて、「終わるべきときが来たな」と思って書いた文章が「いいよね」って言ってくれて、タイトルになりました。
 
―― 帯に「本は日用品です。だから毎日売っています。」と書いてあって印象的です。
 
新井:前に「BAMP」というサイトのインタビューを受けた時に言った言葉で、結構反響があったんです。で、帯の話をしているときにその話をしたら編集の方が「すごい目から鱗だ」と言われたんです。自分としては、そんなに考えて言ったのではなくて、実感として思っていたことを言っただけだったんです。

 レジに入ってお客さんが本を買う様子を見ていると、小説なんて売上の一部であるということです。ほとんどの人は、テレビ雑誌やNHKテキスト、資格試験のための教本、ペットの飼い方の本とか……必要に駆られて本を買っているんです。そういう本が小説とかに劣るかと言われるとそういうわけはないんです。必要だから買うということは、日用品と同じことなので、つまり本って日用品なんじゃないのかなとレジで思ったんです。


―― 「その論法、一体誰がしあわせになるの?」では、本の購入冊数などにも触れられています。
 
新井:書店で働いたことがある人は絶対に言われたことがあると思うんですけど、「本は文化なんだから」とか「儲けなんか考えちゃいけない」とかって言われることがあるのですが、もちろんそういう考え方は素晴らしいですが、そんな霞を食って生きていけるわけないと思っています。他の業種は儲けを考えてよくて、本だけ考えるなっておかしいなって。
 
―― それがサイン会や写真集の本のお渡し会の冊数の話に繋がるんですね。
 
新井:これに関して言えば人が本をどう扱おうと人の勝手だと思うんです。応援のために100冊買ってもいいし、「読まない」という選択もありだと思うんです。それも楽しみ方の一つだと思うので。そういう人たちにお金を使う機会を提供すべきなのに、書店側があまりそういうことを言わない。『浪費図鑑』という本があるのですが、お金を使いたい人はいっぱいいて、使う機会を作ってあげることが商売に必要なポイントなんだなと思います。本1冊の儲けで食べていけるわけではないので、使いたいという人には何も言わずに使わせてあげればいいと思うんです。
 
―― 確かにお金をどう使うかは個人の自由ですからね。
 
新井:そうなんです。例えば好きな作家さんに会いたいと思っていた場合、私たちはそれを提供できるんです。「本を持っていても、もう1冊買えば参加できますよ」と言ったら、本当に会いたい人はお金払っても来るんですよ。でも、書店は儲けに貪欲になると悪いイメージがあって、そこを「無料」でと無理しちゃうんですよ。でも、実際は私たちの給料も発生しているし、作家さんは時間を削って来てもらっているのに、作家さんに御礼のお金も払えないんですよ。無料でやろうとしているから無理が多すぎるなって、この業界に来たときに感じたんです。それは、「神聖なるもの」っていうのがブレーキになっていて、「本屋が儲からない」と言われているのも、それがネックなんじゃないかなと思っていて、もっと商売っ気出していいよねってすごく思っています。
 
―― そういった考えというのは、やはり新井さんがバンドの追っかけとかをやっていた経験からなのでしょうか。
 
新井:そうですね。彼らももちろん儲けなきゃいけないんですよ。グッズ1万円買ったら帰りにチェキが撮れるって、「ひどい商売だ」って言う人もいますが、お金を出すファンが幸せなんだから、それは正しいと思うんです。だから、そういう場所もチャンスもある書店はもっとそのやり方を取り入れるべきだと思います。

 

次ページ>エッセイを読むチャンスとして一回手にとって欲しい





過去記事はこちら!

「映画には人生を変える力がある」『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』前田哲監督インタビュー

20181130_155606
講談社ノンフィクション賞と大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』が、今月28日(金)に公開されます。本作は、筋ジストロフィー症を患っている主人公・鹿野靖明と鹿野さんを支えるボランティアの克明な記録とともに「生きる」とはど...(2018年12月26日) >もっとみる

ラブコメ王・瀬尾公治先生が描く少年漫画編集部の熱い現場が舞台の『ヒットマン』

51W+hCWmhzL (1)
 『涼風』、『君のいる町』、『風夏』と3作連続アニメ化され、ラブコメ王ともいえる瀬尾公治先生。  今回は、最新作で新人編集者♂と新人マンガ家♀が少年漫画編集部を舞台に週刊20Pに命を懸ける情熱を描いた『ヒットマン』が10月17日に発売された。...(2018年10月29日) >もっとみる

どうして目がよくなると若返るの? 著者・日比野佐和子先生と、監修・林田康隆先生に聞いてみた

4
  関連記事一覧【立ち読み連載】日比野佐和子先生の新刊『目がよくなると 10歳若返る』 ←毎日17時更新!!//   10月に発行されたゴマブックスの新刊『目がよくなると、10歳若返る』。この本の著者である日比野佐和子先生は、『眼トレ』をはじめ累計55万部を超える著書のほか、アンチエイジング専門医としてテレ...(2018年10月25日) >もっとみる

直木賞受賞島本理生さん 『ファーストラヴ』というタイトルに込めた想い

IMG_4328(I)のコピー
今回は芥川賞に4回、直木賞に2回ノミネートされ、第159回直木賞が念願の受賞となった島本理生さんです。 受賞作の『ファーストラヴ』は、ある事件をきっかけに見えてきた家族間の闇に迫るミステリー風の作品となっている。 電子書籍ランキング.comでは、受賞した思いから作品への思いまでをお伺いしました。...(2018年09月28日) >もっとみる

「テレビゲームを一生懸命やっていれば、褒め称えられる世界になってほしい」国内eスポーツの第一人者・筧誠一郎氏の想い

ReIMG_4316
昨今、「eスポーツ」という言葉を耳にする機会が増えていますが、なぜ「テレビゲーム」が「eスポーツ」と呼ばれているのか疑問を持たれているかたも多いと思います。そのような疑問について、日本のeスポーツ第一人者である筧誠一郎さんにお話をお伺いしました。...(2018年08月30日) >もっとみる