» page top
unnamed

本は日用品 『本屋の新井』の著者・新井見枝香さんの哲学
2018年11月16日


エッセイを読むチャンスとして一回手にとって欲しい

unnamed (1)のコピー
―― 他に印象的だったのが「私が両方を売り続けることは、間違ってない。」で、電子書籍を担当されていた頃に書かれた文章です。結論でいうと、紙の書籍を売ろうが、電子書籍を売ろうが別に気にしなくていいのではないかということが書かれています。
 
新井:本が売れれば、紙の書籍だろうが電子書籍だろうがいいと思っています。「紙で買わないと書店の応援にならないから、電子が便利だけど紙にしよう」ってなると、その人の読む機会を減らしてしまっている気がするんです。その人が一番楽な方法で本を手に入れればよくて、夜中に「続きが読みたい」と思えば、上巻は紙だったけど、下巻は電子でもいいと思うんですよ。明日になったら本屋に行くのはどうでもよくなっていて、そのお金で映画に行っちゃうかもしれない。

 書店員に対して「電子で申し訳ない」とか「Amazonで買って申し訳ない」とか思っている人がいるんですけど、そんなことはないんですよ。イベントとかで、そうやって言われると「全然そんなことないよ」って言っているのですが、本を読む機会をそれで縛ってしまうなら、なんでもいいから読んでくれた方がずっといいんです。
 
―― やはりそれは「新井ナイト」でもあった、本が売れて全体的に売れる機会が増えればそれでいいんじゃないかという考え方が根底にあるからでしょうか。
 
新井:そうですね。「自分の店でだけで売れればいい」っていうのは一切思わないし、そんな小さい規模じゃ話にならないと思っています。社会がこうみんなワーって動かないといけないと思います。日用品のようにどんどん買っていってもらうようにならないとやっていけないと思います。
 
―― そういった中で書店はどんな役割が必要だとお考えですか。
 
新井:「変わらず在ること」だと思います。どこでも買えるし、家を出なくても買えるけど、リアルに物が置いてあって、売れていく場はニーズもあるし、そういう場も必要だと思うんです。人が財布からお金を出して、その物体を買って持って帰る時の高揚感っていうのは、かなり刻まれていて、なかなか消えないと思うんです。ポチって買うのも、もちろん高揚はあるけれども、見てそれをとって買って持って帰るっていうことをしたい人っていうのは絶対にまだまだいると思うんです。そういうことをしたい人が来る場所であり、やっぱり誰かが目の前でものを買っているのを見るっていうのは、すごく刺激的なんですよ。お店って不思議で、レジに誰もいないと誰も来なくて、混みだすと一気に混みだすんですよ。

 頑張って何かをする必要はないけど、健康的な感じであり続けるのがベストだと思っています。出版業界がすごく膨らんだ時期があって、それに対して売れないと言っていますが、需要に合わせて、それなりにサイズダウンすればいいと思っています。ただ、書店は、「本を買うこと」ということが一つのエンタメでテーマの場所なので、もっと「買うぞ」っていう場所にしたいです。そのエンタメを楽しむ場所として、必要な数の書店が残っていけばいいと考えています。


―― 「それが私の口をもごもごさせる理由なのだろう。」で、ひと月に読む量を聞かれてもうまく答えることができないと書かれていました。一冊をどのくらいのペースで読まれるとかはあるんですか。
 
新井:前はゲラなどを渡されたら、無理して頑張って読んでいました。それが仕事だと思っていたので。ただ、そうするともったいないなって。その作品を初めて読むのはその時しかないのに、そんなふうに無理して読むのはもったいないと思って、最近は一切無理をしないようにしています。

 なので、本を読むスピードもその本の文に合わせます。文の呼吸に合わせているので、すごく早く書くような人の文章では1日とか数時間で読んだりします。逆にすごく練って時間をかけたようなものに関しては、やっぱりそれなりの時間をかけて読んでいます。無理して急いで読んでも、あまり面白くないので。
 
―― 確かに無理して読むと辛いものありますよね。
 
新井:人によっては、「私、遅いんで」とか「なかなか進まないんですよね」と言われる方がいますが、それは全然悪いことじゃなくて、速く読んだから偉いとかそういうのはないんだよって言いたいです。実際に長く楽しんだほうが、お金のこと考えるとお得ですし(笑)。長く楽しむこともできて、本はエンタメとしてすごいと思います。
 
―― 書店員という本業を抱えながら、エッセイを執筆したり、イベントの準備をやるのはけっこう大変じゃないですか。
 
新井:池袋の時は、イベント担当だったので毎日のようにイベントを入れていました。それを考えると今はふわふわしていて、「暇だ」ぐらい(笑)。

 イベントも自分が出ていたので、ハレの場に出るスイッチを毎日オンにする必要があります。イベントに登壇いただく方は作家さんなので、その作家さんの本を読む必要もあり、頭の切り替えが大変でした。やってみて、この量を一人でやっていくのは無理だなということがわかりました。
 
―― その経験というのは今の働き方に活きていますか。
 
新井:活きていて、「ここはやりすぎちゃいけない」と感じることがよくあります。「やりたいことは全部やれない」というのを知れたのはよかったです。
 
―― 最後に『本屋の新井』について一言お願いいたします。
 
新井:「本」というテーマで括られていますが、本屋の本とかしこまらずにエッセイってこういうもんだよねっていう感じで書いた本です。「エッセイというものを読んだことがないな」とか「最近読んでないな」という方にはぜひ読んでほしいですね。

 エッセイって、実は売れるジャンルではないんですけど、本当のことが書いてあるのがエッセイだと思います。人はなかなか考えていることを人に話したりしないんです。でも、いざしたためようとすると人はすごく正直になるし、本人の意図しないところで本音が出たりするんです。それを読む人が気づいたり、読み取ったりするのがエッセイというジャンルの面白いところです。読み方は自由ですが、エッセイを読むチャンスとして一回手にとってくれればと思います。

 

新井見枝香(あらい・みえか)
東京都出身、1980年生まれ。
アルバイトで書店に勤務し、契約社員の数年を経て、現在は正社員として本店の文庫を担当。
文芸書担当が長く、作家を招いて自らが聞き手を務める「新井ナイト」など、開催したイベントは300回を超える。
独自に設立した文学賞「新井賞」は、同時に発表される芥川賞・直木賞より売れることもある。
出版業界の専門紙「新文化」にコラム連載を持ち、文庫解説や帯コメントなどの依頼も多い。テレビやラジオの出演も多数。



 

『本屋の新井』

51LaR6mPm1L
<内容紹介>
本は日用品。だから毎日売ってます――。
ときに芥川賞・直木賞よりも売れる「新井賞」の設立者。
『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』(秀和システム)も大好評の型破り書店員・新井見枝香による”本屋にまつわる”エッセイ集!
「新文化」連載エッセイ「こじらせ系独身女子の新井ですが」に加え、noteの人気記事、さらには書き下ろしも。
装幀、カバーイラスト、挿絵は寄藤文平!

kindlegoogle

『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』

51l3Ex7Rv3L
<内容紹介>
紹介
某有名書店の”型破り”書店員による初エッセイ。
「書店員が書いた心温まる本屋の話」ではなく、37歳、独身、彼氏なし、そんな女のおかしくてちょっぴり痛いお話です。
「会社員に向いてない」「結婚に向いてない」日常のエピソードが満載。
コラムニストのジェーン・スーさんからは「同業者の端くれとして、背筋の凍る文章力。
誰にでもあるどうってことない日常を、こんなにおもしろく仕上げるなんてズルい!」と絶賛推薦コメントも。

kindle




過去記事はこちら!

「映画には人生を変える力がある」『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』前田哲監督インタビュー

20181130_155606
講談社ノンフィクション賞と大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』が、今月28日(金)に公開されます。本作は、筋ジストロフィー症を患っている主人公・鹿野靖明と鹿野さんを支えるボランティアの克明な記録とともに「生きる」とはど...(2018年12月26日) >もっとみる

ラブコメ王・瀬尾公治先生が描く少年漫画編集部の熱い現場が舞台の『ヒットマン』

51W+hCWmhzL (1)
 『涼風』、『君のいる町』、『風夏』と3作連続アニメ化され、ラブコメ王ともいえる瀬尾公治先生。  今回は、最新作で新人編集者♂と新人マンガ家♀が少年漫画編集部を舞台に週刊20Pに命を懸ける情熱を描いた『ヒットマン』が10月17日に発売された。...(2018年10月29日) >もっとみる

どうして目がよくなると若返るの? 著者・日比野佐和子先生と、監修・林田康隆先生に聞いてみた

4
  関連記事一覧【立ち読み連載】日比野佐和子先生の新刊『目がよくなると 10歳若返る』 ←毎日17時更新!!//   10月に発行されたゴマブックスの新刊『目がよくなると、10歳若返る』。この本の著者である日比野佐和子先生は、『眼トレ』をはじめ累計55万部を超える著書のほか、アンチエイジング専門医としてテレ...(2018年10月25日) >もっとみる

直木賞受賞島本理生さん 『ファーストラヴ』というタイトルに込めた想い

IMG_4328(I)のコピー
今回は芥川賞に4回、直木賞に2回ノミネートされ、第159回直木賞が念願の受賞となった島本理生さんです。 受賞作の『ファーストラヴ』は、ある事件をきっかけに見えてきた家族間の闇に迫るミステリー風の作品となっている。 電子書籍ランキング.comでは、受賞した思いから作品への思いまでをお伺いしました。...(2018年09月28日) >もっとみる

「テレビゲームを一生懸命やっていれば、褒め称えられる世界になってほしい」国内eスポーツの第一人者・筧誠一郎氏の想い

ReIMG_4316
昨今、「eスポーツ」という言葉を耳にする機会が増えていますが、なぜ「テレビゲーム」が「eスポーツ」と呼ばれているのか疑問を持たれているかたも多いと思います。そのような疑問について、日本のeスポーツ第一人者である筧誠一郎さんにお話をお伺いしました。...(2018年08月30日) >もっとみる