平成最後に人生を変えるだけの力をもつ一本
――『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』を通じて、監督自身はどのようなことを伝えたいと思っていますか?
前田 : それは言っちゃいけないんですよ、監督は。映画は自由だからね。受け取りかたは、みんな違っていいと思うんですよ。
だから、監督の僕自身が「こういうふうな見方をしてくれ」って言うのはありません。
ただひとつだけ言えるのは、今までにない障害者の姿を描きたかった。障害者が頑張って、健気に生きている、何か活躍している、闘病しているというようなことを描きたいわけじゃない。障害者の姿で感動させようとは思っていません。そこだけは絶対しないって決めていました。だから、親子のところだけ、感動的に描いています。親子の愛は、普遍的なものですから。闘病している姿をみせて、「苦しいけど、俺頑張っている」って描いていない。障害者の方に言われました「かわいそうだと思ってほしくない」。僕は障害を持っている人も持っていない人も楽しめることが、この映画のいいとこだと思いますし、そこをいちばん心がけましたね。どうしてもわかりやすく「感動」って言い方で宣伝していますけど、感動を売りモノにはしていない。普通に生きたい男が自分の人生を生き抜いた青春ストーリーなんですよ。
鹿野靖明という、障害者運動家でも、偉人でもない、市井の人が普通に生きようとした中で、多くの人と関わり、周りを変えていったんですよ。その人が普通の生活をしたい、水が飲みたいときは水を飲ませてもらう、おしりが痛かったら「ちょっと上げて」と言う、それだけなんですよ。鹿野さんが夜中にバナナをどうしても食べたい、だから「買ってきて」と、人に頼る。逆に、ボランティアから人生の相談を受けて力強いアドバイスをする。人と人の話なんです。そこが面白いわけですよね。全力で生きている姿に人は感銘すると思うんですよ。それは映画を観た時に感じてもらえばいいかな。「ああ、こういうメッセージもあったのか」、「こういう問題意識もそうだよな」というのは観た方それぞれが感じてもらえばいいと思っています。
――監督ご自身が鹿野さんから最も感銘を受けたことを教えていただけますか?
前田 :全力で生きているっていうことですよね。なによりも、鹿野さんのような人がいたのかという驚きです。人はみんな知らぬ間に壁を作っているわけですよ。初対面の人には気を使うし、よく見られたいと思ったり。ただ、鹿野さんはそんなこと言っている場合じゃないんですよ。遠慮なく何かを頼んだり、相手とズケズケとコミュニケーションを取ったりしないと生きていけないわけですから。だから自分を解放するんですよ。自分を解放するから相手も解放してくれるわけですよね。それが、人が生きるうえでの本質的なことだと僕は思うんです
「コミュニケーションを取る」っていろんな言い方がありますけど、つまり、それっていちばんは自分を解放するということだと思います。人は知らぬ間に壁を作って自縛をしてしまっている。障害者だから、子供だから、日本人だから、外国人だから、男だから、女だからとか、「だから〜」に縛られずに遠慮なく言ってしまえばいい。言わないと通じないし、聞かないとわからない、違っていたら「ごめんなさい」と謝ればいいんです。鹿野さんが言っている「人はできることよりできないことの方が多いんだから」ですよ。彼の生き方自体がそういうものを体現しているから面白い。みんなもっと自由に人と交わりたいのに、知らぬ間に壁を作っちゃっているでしょ? それを解き放つ力がこの映画にはあるんじゃないかなと思うんですよ。僕は鹿野さんと出会って、この映画を作った中で、どんどん自分が解放されていくのを感じました。何の遠慮もない、ありのままで人と付き合えばいいんだなっていうのを思い知りました。それが「ラブ」だしね。お互いを知る術ですよね。だけどぶつかることもあります。でもいいじゃない、ぶつかって。そこが素敵なんじゃないですか。ええかっこもするし、他人から良く思われたいと嘘もつくし、そういう人間味あふれるところも鹿野さんの素敵なところ、だからみんな鹿野さんが好きなんでしょうね。
――最後に、インタビューをご覧の方、映画を観られる方へのメッセージをお願いします。
前田 : 鹿野さんは、多くのボランティアの人生を変えていったんです。鹿野さんと出会って、医者を目指した人やジャーナリストになった方が本当にいます。それぐらい影響力があったんです。だから、この映画も観た方の人生を変えるだけの力があると思うんですよ。それは映画の力、もちろん俳優陣のおかげもあるのですが、それは鹿野靖明という人の人生を描いているから、それは鹿野靖明のパワーなんですよ。生きているときも人の人生を変えるぐらいの影響力があったすごい人ですよね。
まさに、鹿野さんの人生を描くことで、観た人の人生を変える映画になっていると思います。
前田哲監督
PROFILE:まえだてつ。フリーの助監督を経て、98年に相米慎二監督のもと、CMから生まれたオムニバス映画『ポッキー坂恋物語・かわいいひと』で劇場映画デビュー。主な作品に『sWinG maN』(00)、『パコダテ人』(02)、『棒たおし!』(03)、『陽気なギャングが地球を回す』(06)、『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ』(07)、『ブタがいた教室』(08)、『猿ロックTHE MOVIE』(09)、『極道めし』(11)、『王様とボク』(12)、2019年春に、初のドキュメンタリー映画『ぼくの好きな先生』が公開。
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』

映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』より – (C) 2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会
<内容紹介>
鹿野靖明、34歳。札幌在住。幼少の頃から難病の筋ジストロフィーを患い、体で動かせるのは首と手だけ。人の助けがないと生きていけないにも関わらず、病院を飛び出し、風変わりな自立生活を始める。自ら大勢のボランティアを集め、わがまま放題。ずうずうしくて、おしゃべりで、ほれっぽくて!自由すぎる性格に振り回されながら、でも、まっすぐに力強く生きる彼のことがみんな大好きだった―。この映画は、そんな鹿野靖明さんと、彼に出会って変わっていく人々の人生を、笑いあり涙ありで描く最高の感動実話!
実在した人物・鹿野を演じるのは、同じ北海道出身の俳優・大泉洋。減量で最大10キロ痩せるなどの容姿面を似せるだけでなく、彼の人間的な魅力をユーモアたっぷりに体現する。鹿野に反発しながらも、少しずつ心を開いていく新人ボランティアの安堂美咲役には、高畑充希。何も知らない感情豊かな女の子が、鹿野の最大の理解者へと成長していく姿を、伸びやかに演じる。その美咲の恋人で医大生の田中久を演じるのは、三浦春馬。将来や恋に悩みながらも、鹿野と触れ合う日々を通じて変わっていく青年を、繊細に演じる。その他、萩原聖人、渡辺真起子、宇野祥平、韓英恵、竜雷太、綾戸智恵、そして原田美枝子と、本格派・個性派キャストが勢揃い。佐藤浩市も友情出演し、豪華な俳優陣が脇を固める。
監督は『ブタがいた教室』『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ』など、デビュー以来「命」と「生きること」をテーマに映画を創り続ける前田哲。原作は、第35回大宅壮一ノンフィクション賞と第25回講談社ノンフィクション賞をダブル受賞した渡辺一史の名著「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」。実際に鹿野靖明さんが暮らしていた札幌や、美瑛・旭川などのオール北海道ロケで撮影が行われた。
誰もが見たことのない力強い人生に、生きる力と希望が溢れ、笑いと涙が止まらない!この冬、最高の感動作が誕生します。
原作『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』

<内容紹介>
大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞ダブル受賞作! ボランティアの現場、そこは「戦場」だった――。筋ジストロフィーと闘病する鹿野靖明さんと、彼を支える学生や主婦らボランティアの日常を描いた本作には、介護・福祉をめぐる今日的問題と、現代の若者の悩みが凝縮されている。単行本版が刊行されてから10年、今も介護の現場で読み継がれる伝説の作品が増補・加筆され堂々の復活!
















