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落合陽一氏の「デジタルネイチャー」という世界観を生きることについて
2016年5月27日


2015年、世界初の感情認識パーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」が登場し、最近ではモバイル型ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」が発売されるなど、人工知能の技術はめざましい進歩を遂げています。SF作品でよく描かれていたような、ロボットと人間が同じように生活する未来も、目前に迫っています。そのような未来がやってきたとき、私たちは、コンピュータや人工知能と、どう関わっていけば良いのでしょうか。
発売から5日で初版が完売したことでも話題になった『魔法の世紀』の著者で、「現代の魔法使い」と呼ばれている落合陽一氏にインタビュー。落合氏が提唱する「デジタルネイチャー」という世界観や、それに基づく研究内容について詳しくお伺いしました。コンピュータと人間の、遠いようで近い未来の話をお届けします!

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世界をもう一つ先に進めたいんです

――2015年に出版された『魔法の世紀』は、落合さんが初めて書かれた単著であり、その中で語られていた「デジタルネイチャー」という世界観が、大変話題になりました。この考えはどのようにして生まれたのでしょうか?

魔法の世紀』は、モリス・バーマンの『デカルトからベイトソンへ』とマーク・ワイザーの『The Computer for 21st Century(21世紀のコンピュータ)』の2冊と、潜在的にはノーバート・ウィーナーの『サイバネティックス』から影響を受けて作った本になります。
マックス・ヴェーバーは、近代科学技術の進歩によって社会から近代以前の呪術的思考がなくなるだろうということを、「脱魔術化」という言葉で表現したんです。それから1981年くらいに、バーマンが近代科学技術によって「再魔術化」していると言いました。そして、その10年後ぐらいにワイザーが「ユビキタスコンピューティング」という言葉を使い始めました。社会が「ユビキタスコンピューティング」になると、あらゆるコンピュータに囲まれて人間は生きることになるんだけど、そうするとかえって、コンピュータのことを意識しなくなるんじゃないかと言ったんです。
これらは同時期の出来事で、要するに、最初のヴェーバーは「人間は物を見たときに物の中に何があるのか分かるようになったから、魔術化が解ける」と言いました。ところが、バーマンは逆に「物が複雑になって中を見ても分からなくなった」と言ったんですね。そしてその後、ワイザーが「人間はコンピュータのことを全く意識しなくなるだろう」と言っているんですよ。
そこで『魔法の世紀』では、ワイザーの「ユビキタスコンピューティング」とバーマンの「近代科学の再魔術化」という考え方を融合させて、「人間はコンピュータのことを、魔法のようにしか捉えられなくなるんじゃないか?」ということを書きました。
僕は博士だったときに、コンピュータはICやノートパソコンのような形のあるものから、やがて形のないものに移行するのではないかということを研究していました。
例えば、物が空中に浮くとか、空中に絵が描けるとか。つまり、コンピュータの形はないけれど現象だけが見えるような装置というものが多分出てくるようになって、人間はコンピュータの形を意識しなくなるんじゃないかというふうに思ったわけです。
それで、それをどうやったら一つの研究として発表できるか、そしてパラダイムにしていけるかと考えたんですね。するとそこに当てはまるのは、人間は昔、ユビキタスな存在だったという考え方なんです。神様の身体の一部を世界中に切り取ってできたのが人間だという、キリスト教的な思想・価値観がありますよね。それが16世紀に活版印刷ができて、17世紀に地動説を唱えたニコラウス・コペルニクスや、ガリレオ・ガリレイがでてきて、ルネ・デカルトが『方法序説』を書いたりしてきました。人間の心身の二元論から自然を捉えようというような発想になってきたのが、17~18世紀以降。その頃は、近代科学技術が誕生したと言われていますよね。そんな中「望遠鏡を使って星を観察してみよう」、「化学薬品を使って新しい物を作ろう」と、近代科学というものの使い方をアイザック・ニュートンやフランシス・ベーコン、いろいろな人がやってきたわけですよ。今は人間が道具を使って世界を見ているんだけど、さらにコンピュータが発達していくと、人間とコンピュータと木々や動物などの自然という世界の中で、コンピュータの姿自体はきっと見えなくなるだろうと僕は考えたんです。
人間は自分の自己定義すらコンピュータを通して認識するようになると思うんです。なので、人間やコンピュータとの関係を構築するために、新しいインターフェイスを開発していくべきだし、そのときに人間というのはどう捉えられるのかを考える必要がある。そのためにデジタルネイチャー研究室を始めたんです。

――筑波大学で助教授をされていて、昨年ご自身主宰でデジタルネイチャー研究室を立ち上げられたんですよね?

そうですね。「デジタルネイチャー」を工学的に実装してみると、まずは、目や耳などの感覚器に規定されたメディアをやめるということになるんです。テレビや、映像の流れる画面、スマートフォンといったメディアは、人間中心のものだし、目と耳に頼っていますよね。今まではそれでも良かったかもしれませんが、それ以上に強度があって、高解像度で三次元的なものがどうやったら作れるのかということを考えています。
例えば、同じ「光」でも画面から発する光ではなく、光を収束させて、空気自体を発光させて形を作ったり、絵を描いてみたり。
どこまでが計算機の作用する空間で、どこまでが計算機のデータなのかが明確に判別可能な世界のことを、そういった世界観のことを「デジタルネイチャー」と呼んでいます。「デジタルネイチャー」では、今まで電線で配線されていたあらゆる物質の電線が全部見えなくなるような世界なんです。生き物を含めあらゆる物体がコンピュータによって操作できる。近い将来そうなったときに、我々は何をしないといけないのか、何ができるのかそして、何を楽しむのかということを研究しています。

――あらゆるものがコンピュータで操作できる世界……。想像が追いつかないです。

想像しにくいですよね。実際に研究室では、植物、生き物を他の色に染めあげてみるという実験をしています。あとは、人間の方をどうやったらロボットに近づけられるか、つまり身体が勝手に目的地に向かって動くような人間のコントロール方法がないかという研究。そして、木材やガラス、鉄そういうあらゆる素材を全て光を通す素材に変えてみることもしています。それが空間がディスプレイになったら、世の中の我々のアナログマテリアルとデジタルマテリアルの区別がつかなくなるので、そういう世界観をどうやって作っていくのかを意識しています。
単純に表現で言えば、物を動かすことや、絵を動かすこと、そんなものをたくさん作っているんですけど、本当にやりたいことは哲学で考えながら、世界をもう一つ先に進めたいんです。つまり、思想です。この世界をコンピュータで表現するにはどうしたらいいかということを考えています。一般向けのことも頑張っていて、例えば2015年の10月に行われた、「SEKAI NO OWARI」の1日限定ライブで、ステージに時計仕掛けの巨大な映写装置のようなメディアアート作品を作りました。そういった作品制作も含めて、我々はどうやったら、この三次元空間に映像を超えた表現をしていけるんだろうかということを考えています。表現のために、新しい装置をいかに発明できるかなんですよね。

>次ページ「人がどう楽しく生きるかのために、コンピュータはあると考えています」



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