新しい漫画家のスタイルを作りたい
――2012年に、作品『ブラックジャックによろしく』を完全無料ダウンロード化したことは、現在の電子コミック業界が発展するにあたり、マンガ表現の先駆けとして大きく影響したと思います。「Comico」や「マンガボックス」などのWebでの漫画連載サイトが、ここ数年で定着しつつありますが、それについてどうお考えですか?
大企業のやっているベンチャーというフェーズだと思いますが、これが作家にとって良いことなのか悪いことなのかというとどうなんでしょうね。チャンスが増えたとも捉えられるし、原稿料の値崩れも起こっている。スマホで読むことを想定して絵と物語が簡素になってきているので、漫画が読者にとって暇つぶし以上の価値を持たなくなってしまい、お金を出してまで読むものではなくなってしまう気もします。単行本収益やメディアミックス狙いのビジネスモデルでは心もとないですよね。作家側がアプリをシステムの一つとして主体的に利用するのはいいと思いますけど、利用されないように気をつけたいです。
先日、あるブックアプリ開発者の方とお話をする機会があったんですけど、その人は「『ブラックジャックによろしく』のフリー化で無料アプリが大ヒットしたのが第1世代だとすると、『サラリーマン金太郎』などの体力制アプリが第2世代で、そこに広告を組み合わせたのが第3世代。さらにその仕組みをそのまま利用して、大手出版社が豊富なコンテンツを武器に展開してるのが今じゃないか」っておっしゃるんです。
某アプリが月間2億円売り上げているという話もありますが、ストアに3割支払って、広告費で4000万使って、人件費にいくら使ってと考えていくと、何千人といる作家の一人一人に渡るお金はほんのわずかなんだろうなと思います。僕は広告費も人件費もほとんど使わずにロイヤリティを独占できるので、作家側からすればこっちの方が収入になると思いますよ。
例えば、「LINEマンガ」は既存作品をストア販売することから始めて、今はオリジナルコンテンツを作って売っていこうとしていますよね。無料連載したあとに、単行本化もしていますがあまり順調ではないようです。逆に「マンガボックス」はオリジナルコンテンツから始めて、それだけで収益を得られるはずでしたが、結局ストア販売をやっています。どちらも同じ山を反対側から登ろうとしているだけで、目指している頂上は一緒なんでしょうね。
一方でそこで仕事をしている作家の労働環境は、一般企業に当てはめて考えると超ブラックなんじゃないかと。運営側は電子書籍の世界で自分たちがいかに覇権を握るかに興味があるのでしょうけど、必ずしも作家のためには動いていないのだと思います。僕は裏側の想像がつくので違和感があります。
――Web連載漫画や電子コミックを従来の紙媒体と比較してみて、どのように思われますか? もしよろしければWeb連載漫画や電子コミックのメリット・デメリットも含めて、お教えください。
電子書籍は儲かりますよ。やり方次第ですが。
紙媒体の場合、その「やり方」を版元が仕切ってしまうので、僕にはつまらないです。電子書籍は各ストアのルールの中で自分で闘い方を決められるのが楽しいです。裏を返すと、失敗しても誰の責任にもできないというのはあるかもしれませんね。紙媒体は版元があって、システムが整備されているので、漫画家は良くも悪くも下請けやサラリーマン的な立場になってしまう部分がありますが、電子はまだまだ未開な分野なので可能性も大きいけどリスクも大きいです。そこがメリットでもありデメリットでもあるという感じでしょうか。
――8年ぶりの新連載『Stand by me 描クえもん』は、紙媒体ではなくWebの漫画連載サイトですが、もしきっかけがありましたら、お教えください。
2015年4月から「マンガ on ウェブ」というWeb雑誌を発行しています。「電書バト」という取次サービスを行っている中で、いろいろな作家さんの既存の作品を取り次ぐのは当然として、新作も電子書籍で独自に展開したいと思い、Web雑誌を作ることにしたんです。僕も同じ山を登る一人ということです。雑誌はまだ黒字化できていないんですけどね……。
そこで、雑誌に自分の作品も掲載してみようと考えました。昔、「漫画家漫画」を描こうとして、諸事情から未完に終わってしまったことがあったので、同じテーマで新たに描いてみようと。
描いてみると、いくつかの編集部から「ウチの雑誌に掲載したい」というようなご要望をいただきました。紙媒体ではヤングジャンプに第1話を掲載していただき、そのあとは「トーチWeb」にもお声がけいただき、Web雑誌と同時連載という形を取っています。ありがたいですよね。
一つの連載が一つの版元、一つの場所でしか読めないという常識に異議を唱えたい部分もあって、積極的に展開していきたいと思っています。新しい漫画家のスタイルを作りたいんですよ。
――また、作品『Stand by me 描クえもん』の魅力についてもお聞かせください。
私小説的な物語にしていきたいです。今のところ、よくある「漫画家漫画」のフリをしているけど、実は家族のことを描きたいんですよね。これまでの自分の作品を振り返ると、主人公の成長物語がメインだったので、家族関係をメインに描いた作品というのがないんです。プライベートを振り返ると、漫画家としての成功と引き替えに両親や兄弟との関係がおかしくなってしまった部分がありました。そのことを描いていきたいですね。漫画を描いていなければ、普通に仲良くできていたのかなと考えるときがあるので。
――サイト上のご自身のプロフィールで、「目標は“漫画を描き続けること”」と書かれていらっしゃいますが、「漫画onWeb」を始め、8年ぶりに新連載をスタートするなど、先生の思い描くこれからの「マンガの未来」についてお聞かせください。
僕には漫画しかないですからね。ずっと漫画で遊んでいたいんです。そのためには漫画の未来を明るいものにしていきたいという思いはあります。僕は出版社を敵視しているかのように言われてしまうことが多いんですけど、仲良くさせていただいている編集さんも多いですし、紙媒体で執筆している作家さんを尊敬しています。ただいろいろなやり方があっていいと思うので、平凡な言い方ですけど、多様な価値観が認められる社会になればいいと思っています。
――先生は、電子書籍を普段からご利用されていますか? 最近、電子書籍で読まれたオススメの本やコミックがありましたら、お教えください。
普段は Kindleを使うことが多いです。電子書籍を利用するようになってからいろいろな作家さんの作品を読む機会が増えましたね。最近だと『フォーナイン~僕とカノジョの637日~』という韓国の作家さんの作品が面白かったです。韓国を舞台に徴兵制度について描かれた作品で、自分の知らない世界を知ることができるのが単純に面白かったのと、泥臭い漫画を描こうとしている作家さんがいるということが分かって嬉しかったです。あとは昔から好きだった作品を買い直したり、知り合いの作家さんの作品を改めて読んだりしています。

佐藤秀峰(さとう・しゅうほう)
1973年北海道生まれ。漫画家。福本伸行、高橋ツトムのアシスタントを経て1998年「週刊ヤングサンデー」(小学館)に掲載の『おめでとォ!』で漫画家デビュー。代表作に『海猿』や『ブラックジャックによろしく』がある。2010年、「漫画onWeb」の運営を始め、Web雑誌の発行もしている。「マンガ on ウェブ」「トーチWeb」にて『Stand by me 描クえもん』を同時連載中。
「漫画onWeb」 http://mangaonweb.com/












