今回インタビューをしたのは『はちびっと彼女』の作者、高槻ナギー先生です。作品『はちびっと彼女』は、現実と二次元の8ビットクラスが直結する夢の世界を舞台に、繰り広げられるハチャメチャギャグファンタジー。この作品を重版するために、アイディアを募集し、面白いアイディアを応募をしてくれた人にはなんとDMMカード10万円分を自腹でプレゼントという企画を現在も行なっています。
『はちびっと彼女』の発売日である5月25日に「重版アイディア募集マンガ」をツイートすると、たちまち話題に。マンガ家自らプロモーションをするこの企画を断行した経緯の裏側や、『はちびっと彼女』の魅力についてお伺いしました。
※画像は、高槻先生が「重版アイディア募集漫画!」ツイートで公開したマンガ
「話題になる=売れる」という図式は成立しないということは身にしみて実感していた
――作者自らが重版を実現するためのアイディアを募集されていますが、これを実行しようと思ったきっかけを教えて下さい。
実を言うと、『はちびっと彼女』を最後の作品に、マンガ家を引退しようとも思ってるんですよね。それなら、以前から考えていたこの企画をやろうと思い立ちました。お金のやり取りになるので、初めのうちは出版社側から反対もされました。
それでも、どうしても重版したかったので、アイディアを募集するというゲスい企画を始めました。だから、AmazonカードやiTunesカードのプレゼントも考えたんですけど、ゲスいものを贈ろうかなと(笑)。DMMカードってコンビニで買うときに「エロ動画買うんだなー」と思われそうで手にしづらいじゃないですか(笑)。18禁以外のコンテンツもたくさんありますけど。でも、コンビニで買いにくいカードがタダで貰えるなら、嬉しいんじゃないかと思って。
実のところ、僕はもう重版するとは思っていなかったんです。「話題になる=売れる」という図式は成立しないということは身にしみて実感していました。今回の企画では知名度を上げて、過去の作品を読んでもらったり、Twitterのフォロワー数が増えたりしたらいいなと思っています。
――そのような想いがあったんですね。周りからの反響はどうでしたか?
始める前は、批判が殺到するんだろうなと思っていました。でももしそうなったら、それはそれで爪痕を残せるからいいかなと考えていて。でも実際にやってみると、驚くべきことにほとんどの人が肯定派だったんです。「コミックを買うので頑張ってください」という励ましの言葉もたくさんもらいました。特にびっくりしたのは、実際にDMMカードをプレゼントした人の6割くらいから「このポイントで『はちびっと彼女』の電子書籍を買います」、「カードはいらないから、飼っている猫ちゃんにいい餌を買ってあげてください」と言ってもらったことです。こうした温かいコメントに触れてみて、人生捨てたもんじゃないなと思いました。
――そうだったのですね。ご自身でほかにどのようなプロモーションを実施していましたか?
今回、突然この企画を思い立ったわけではなくて、過去にも自腹企画は結構やっています。「月刊コミック@バンチ」で連載していた作品『サディスティックフルロマンス』の単行本を発売するときに、自腹で試し読みができるサンプルを作ったんです。それを書店に置かせてもらおうとしましたが、店員さんへの負担になるということで却下されちゃいました。なので、次はもっといろいろな人を巻き込んだプロモーション企画をしてみようと感じていました。
自分の知名度が高くないということは自覚していたので、地道に書店を回ったりサイン色紙を描いたりしながら、もっと自分から働きかけるプロモーションをしていくことが必要だと考えていました。
なので、コミケで作品を買ってくれた先着3~4名に色紙をタダで配っていました。でも、その色紙がその日の夜にはヤフオクに出品されていたことがありまして、ちょっと悲しかったですね。なので本当に欲しい人に渡したいと思って、自分でヤフオクに出品してしまったこともあります。ちょうど『エウリアン桃子』という漫画を描いていたときで、「アキバのエウリアンの漫画を描いてる奴が色紙出品してる!」と話題になることを狙って出していました。
――自分の色紙を自らヤフオクに出品することは、あまり聞いたことがないですね(笑)。
そうですね。話題づくりにもなればと注目を集める企画としては面白いですけど、実際にやるにはかなりの勇気が必要でした。最高7万くらいで落札されていたこともありました! でも最終的には1万円くらいになったので、もう潮時かなと思ってやめました。ただ、色紙はアナログで描いていたので、作業工程をニコニコ動画で1年くらい配信するということもしていました。
たまにpixivで、全然評価されてないけど、ものすごく絵のうまい人とかがいるじゃないですか。逆もあって、あまり大したことないけど、必ず上位にいるという人もいる。それは、やはり知名度が関係しているのかなと思いまして。それで、自分の売り込み方法も考えてプロモーションしていかないといけないんだと感じて、いろいろと試していました。
でも、この企画をしてみて、この企画以上のプロモーションになるアイディアはないと自負しています。
重版させるアイディア、いかに本を売るかということは、各出版社のプロが考えています。しかし、素人ならではの、プロが気づかない視点があるかもしれない。いいアイディアがあったら、それをもとに重版につながればと思いました。10万円の営業費でここまで知名度が上がったなら、かなり効果的な企画だったのではないかと感じています。こうしてインタビューしてもらう機会もいただきましたし、損はなかったです。
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