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第ニ回 仮想通貨税務の 全体像

これ1冊で大丈夫! 仮想通貨の確定申告

第ニ回 仮想通貨税務の 全体像

2018年11月27日

突然ですが、みなさんは「仮想通貨」を所有していますか?
2017年に「仮想通貨」ブームが巻き起こり、そこで仮想通貨に触れたかたもいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし、仮想通貨で得た収益を確定申告しないと「脱税」になるとご存知ですか?
 
そのような仮想通貨の税体系を解説した書籍『これ1冊で大丈夫! 仮想通貨の確定申告がわかる本』(ゴマブックス)が12月1日(土)に発売されます。
本コラムでは、その書籍の内容を一部抜粋してご紹介いたします。

以下、『これ1冊で大丈夫! 仮想通貨の確定申告がわかる本』から抜粋
 

仮想通貨に関する税金の勘違い


ここまでお読みいただけたら、仮想通貨の取引などで課税されるケースがあることは理解していただけたと思います。ここからは、
 

・別の仮想通貨(アルトコイン等)と交換しただけでは税金がかからない
・仮想通貨の税率は55%もかかる
・買い物をして仮想通貨を使ってしまえば税金はかからない


など、仮想通貨に関係した税金についての勘違いを一つひとつ解説していきます。仮想通貨に関する税金の仕組みをよく理解したうえで投資をして、誤った申告を行わないように注意してください。
 仮想通貨は、売買、決済、アルトコインへの交換、マイニングなど、取引に類することをしたら課税されるのが基本です。では、課税されるのはどのタイミングでしょうか。
 筆者も、仮想通貨取引と税金についての相談をよく持ちかけられますが、多くの方が税金のかかるタイミングについては勘違いをされています。
 
仮想通貨取引で税金が発生するタイミングは、その仮想通貨を手放して「利益(儲け)」が出たときです。売却にしても、決済にしても、手元の仮想通貨をアルトコインに交換したときでも、利益が出れば税金を納めなければなりません。
 
 参考として、筆者が実際に目にしたありがちの勘違いを紹介します。
 その方は、100万円分のビットコインを1枚購入しました。使わないで持ち続けていたら、その価値が買ったときの10倍、1000万円になったそうです。儲けが出たので、その半分、500万円を換金しました。
 このようなケースでは、税金がかかるのは換金した500万円から元手の100万円を引いた400万円だと思われるかもしれません。しかしこれは勘違いです。この例で言うと、100万円×0・5ビットコイン=50万円が換金した500万円から差し引ける取得原価となり、税金がかかるのは、500万円から50万円を引いた450万円に税率がかかってきます。後ほど、説明をしますが、実際の収入と税務上の利益の違いを正しく理解できていれば、このような勘違いをすることはありません。
 また、仮想通貨取引で利益が出た場合、税率は55%(所得税45%、住民税10%)、つまり100万円の利益が出たら55万円を納税しなければならないと勘違いしている方も少なくありません。
 「仮想通貨の税率は高率で55%もかかる」と、仮想通貨の投資家の間で言われているようです。しかし、これは仮想通貨取引以外で得た利益も合計して4000万円以下の方には当てはまりません。
 仮想通貨取引でも55%の税率で課税されることはあります。ただ、これは「所得」の金額が4000万円を超えた部分にだけ当てはまるのです。
法的な意味での「所得」とは、複数のルートで収入を得ている場合は、全部を合算した「合計額」を意味します。たとえば、サラリーマンの方が本業に加えて、何らかの副業をしていたとしたら、本業で得た給与と副業の収入を合計した金額が「所得」になるのです。
具体的な数字で示しますと、3000万円の給与所得がある方が仮想通貨の取引で1000万円を超える利益が出た場合、「所得」は4000万円プラスαになります。この場合、4000万円プラスαの「プラスα」の金額に対して55%課税されるということです。
 ちなみに、所得金額が増加した場合、所得税や住民税だけではなく国民健康保険料なども上がります。そのほかにも扶養控除や高額医療費の自己負担限度額といった点においても、負担額が増えますのでご注意ください。
 
 また、仮想通貨で得られた利益は「雑所得」に分類されます。雑所得に関しては、ルール上、もしも仮想通貨取引で大きなマイナスが出てしまった場合、この他に給与所得などの収入があっても、給与のプラスと仮想通貨のマイナスを相殺できず、税額を下げることができません。
 たとえば給与所得として年間800万円を得た人が、仮想通貨取引で大損してしまい、仮想通貨の収支がマイナス1000万円にもなったとします。この人が1年間で得られたお金はマイナス200万円ですが、給与所得800万円に対しては税金がかかります。
 これを「損益通算ができない」と言います。
 損益通算とは不動産、事業、山林、譲渡の所得の金額に損失が生じた場合に、他の所得と相殺できるという税務上の制度です。現状、雑所得である仮想通貨取引において生じた損失は他の所得との損益通算が行えないということになっています。
 

雑所得とは? 申告が必要な個人の場合


市場が活況を呈した中、仮想通貨投資により、億以上の利益を出した、いわゆる〝億り人〟と呼ばれる方が誕生しました。しかし、その反面、仮想通貨の取引をした多くの人には「税金」の問題が生じてきました。
 
税金の基本的な考え方
「利益(儲け)が出たら払う」というのが、税金の基本的な考え方と言えます。 しかし、会計税務の知識がない方には、その税務上の処理が難しく思えるでしょう。 
 では、どのように処理をすればいいのでしょうか?
 それは、「基本的には関係行政が定めた税法に従う」という原則に基づくということになります。関係行政の定めに忠実な税務処理をするためには、各種税法はもちろんのこと、通達(行政機関内部の上級機関が下級機関に対し、その所掌事務について示達したもの)や、国税庁のタックスアンサー(国税庁が公表している税に関するFAQ)を参考にしながら、問題ないであろうと思われる処理方法を用いなければなりません。
 
また、税務はその実質・実態を見た上で、「儲けの計算はどのようにするか」、それは「客観的にも問題はないか」という具合にステップを上がっていきます。ここでいう「客観的」というのは、自分以外の第三者や慣行、会計税務の慣行に照らしてという意味です。
 では、税務当局は仮想通貨をどう考えているのでしょうか。
 国税庁は、仮想通貨の市場が活況を呈していた2017年12月、「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」を発表しました(税務上、利益のことを〝所得〟といいます)。
 その中ではまず、仮想通貨についての個人の所得税のルールが明らかにされました。すなわち、

①仮想通貨の売却
②仮想通貨での商品の購入
③仮想通貨と仮想通貨の交換(アルトコイン(※)への交換)
④証拠金取引(FX)
⑤仮想通貨のマイニング

等、仮想通貨取引について課税されるケースが明文化されました。
(※) アルトコイン:ビットコイン(bitcoin)以外の仮想通貨の総称
 

仮想通貨取引は雑所得


上記の「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」に照らし、仮想通貨取引において把握された所得は、「雑所得」に区分されることとなり、この「雑所得」は、以下の計算式で算出されます。

総収入金額-必要経費=雑所得

一般的に、「総収入金額」とは、売却価額(時価×数量)がそれにあたり、「必要経費」は、当該仮想通貨の取得原価、仮想通貨取引についての書籍やセミナーなどの受講費、パソコン代金などが該当します。
そして、この「雑所得」にかかる所得は、その他の所得(給与所得等)と合算した上で、超過累進税率が適用され、最高所得税率45%と別途住民税(約10%)が課されることが決まりました。
なお、「総収入金額」にあたる売却価額には、「売買」だけでなく、「アルトコインへの交換時の時価」や、「財やサービスへの交換時の時価」も含まれますので、注意が必要です。思いのほか、この売却価額に含まれる場合が多いと思います。
 
また、仮想通貨取引時に損失が出た場合、ほかの仮想通貨取引やFX等で得た利益からその損失を差し引きすることができます(これを「内部通算」(※)と言います)。
しかし、給与所得など雑所得以外の所得と、その損失を差し引きすることはできず(これを「損益通算」と言います)、また上場株式などの場合のように、その損失を3年間繰り越し、将来出た利益と相殺することも認められないこととされました。
 
(※)内部通算:内部通算とは、同一の所得内(雑所得内など)での利益と損失を相殺する税務上の制度。
 たとえば、同一年度の雑所得内のビットコイン取引のマイナス600万円と同じ雑所得内のイーサリアム取引のプラス1000万円を相殺して、雑所得の金額を400万円とすることができる。
 
【仮想通貨取引の税務上の取扱い(個人の場合)】

・基本的には雑所得に区分される
・損益通算は認められない(内部通算は可能)
・マイナスの繰越しも認められない

 
仮想通貨に黎明期からリスクを取って投資をしてきた人にとっては、リターンに対して優遇がない課税になり、しかも、損失が生じた場合は他と相殺できないどころか、次の課税年度にも繰り越せないことから、税金を納める立場でいうと、厳しい税制と言えます。
そして、2017年度分の申告(2017年1月1日~12月31日分の所得を2018年3月15日に申告)で、このような納税者に厳しい制度がいきなり適用されたのです。そのため、そもそもアルトコインに交換せず、所得が発生しないようにすることもできたのにと不満を持った方が大勢いたようです。
 
現状、含み益には課税されない
なお、「①仮想通貨の売却」については、「売却〝時〟」のみに所得を計算することとなっている点に注意してください。
すなわち、仮想通貨を購入してから現在に至るまでの保有している期間に生じた、いわゆる「含み益」には課税されません。つまり、仮想通貨に投資してから一度も交換も売却も行っておらず、残高上で値上がりしている場合であれば、所得は発生していないことになります。
 より具体的に、10万円で購入した仮想通貨が現在100万円になっている状況を例にとれば、その間、売却もアルトコインへの交換などもせず、ずっと保有していただけであれば、課税されるような「所得」は発生していないことになります。それ故、この場合は、税金も0円になります(現在時価100万円-取得価額10万円の差額90 万円が〝含み益〟になります)。
 
アルトコインへの交換は課税される
弊社にも相談があり、なかなか難しいのが「③仮想通貨と仮想通貨の交換(アルトコインへの交換)」の落とし穴です。
この点は、かなり多くの方が、間違った解釈をしているので特に注意してください。
まず、仮想通貨は、日本円に換金していなくても、課税される場合があります。
「含み益」の概念で前述したとおり、期中に仮想通貨から法定通貨(円)への売買をしておらず、保有中であれば所得が発生せず、税金は0円と解説しました。しかし、仮想通貨から他の仮想通貨(アルトコイン)へ交換している場合には、その交換差益に課税されることになっているのです。
 
たとえば、10万円で1ビットコインを購入し、100万円になった段階でそのままアルトコインの1つであるイーサリアムへ100万円分を交換したケースについてみてみます。 
円や法定通貨に換金していないため、この場合、売却にはあたりません。しかし、税務上は、10万円で購入した1ビットコインをいったん100万円で売却し、その100万円で100万円分のイーサリアムを購入したと解釈されるのです。それ故、この場合、差益の90 万円(100万円-10万円)に対して課税されることになります。
この点に関し、国税庁の発表前は、「売却〝時〟」には、おそらく〝課税〟されるであろうと、心積もりして納税意識もあった方が多かったようです。その対策として、売却して円転(その他法定通貨)はしないが、ほかのアルトコインへ投資として乗り換えるという方は少なくなかったようです。「これなら税金もかからないだろう」と、どんどんとアルトコインへ移して稼ごうとする方が多くいらっしゃいました。
そんな時に「③仮想通貨と仮想通貨の交換(アルトコインへの交換)」への課税の発表があり、当該アルトコインへの交換差益にも課税されることが明確になったのです(アルトコインへの〝交換時〟にこれまでの〝含み益〟が一気に〝実現〟=所得認識されることになったのです)。
では、実務上、何が起こったのでしょうか。
 
2017年の年末までは各通貨ともに価値が上り調子だったため、仮想通貨の投資家には、保有通貨から別のアルトコインへ分散投資する方が多くみられました。
しかし、年明けに状況が一変、仮想通貨市場は下落トレンドに入り、〝仮想通貨を日本円〟に換えて利益を確定していない人たちは、仮想通貨残高がどんどんと目減りしていきました。
ところで、仮想通貨は所得税上、「暦年課税」といい、たとえば2017年1月1日~2017年12月31日までの期間に得られた所得は、翌年の2018年3月15日までに申告納付するという決まりがあります。
この決まりが、仮想通貨トレーダーの首を絞めることになったのです。
前年の1月~12月の期間に限ると、アルトコインに交換した方は、交換に際して生まれた含み益を得ています(実現利益=所得)。これが課税対象となります。含み益は売買や交換、財やサービスの利用時に、計算上、利益として計上されてしまうからです。
 
ところが、2018年3月の納税の時期には、アルトコインの相場が下落。手持ちの仮想通貨を全部、日本円に換えても、前年に得られた含み益に対して課せられる税金を払う現金に困った状況になったわけです。
その時点で別の仮想通貨に両替しようにも、相場が下落しているので含み損が発生してしまいます。つまり、納税資金がない!(税金は日本円での納税しかできません)といういわゆる″納税難民”が、非常に多く世に出ることになりました。
さらに同じ頃、コインチェック社のコイン流出問題もあいまって、取引所に預けたかたちの仮想通貨(自己資金)もロックされる始末。必死に納税資金をかき集めた方も多かったのではないでしょうか。
脅かすわけではないですが、国税には最大7年間、税務調査と徴収を遡る権利があります。仮想通貨の相場が不調だからといって、間違っても確定申告自体を行わない「無申告」や、利益金額をごまかして故意に税額を低くする「脱税」行為は行わないでほしいと思います。
無申告であれば、〝1年以下の懲役または50万円以下の罰金またはその併科〟が、脱税であれば、〝10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金またはその併科〟が課されます。さらに、別途、本来納めるべき税金に懲罰的な税金も追加で発生することになります。
この各罰則規定については、のちの第5章で詳しく解説したいと思います。もし無申告等であれば、今からでも申告納税の必要がないかチェックすることを強くお勧めします。
次回、「仮想通貨の税務 個人編」明日公開予定。
 
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■著者プロフィール

小山晃弘(こやま・あきひろ)
11987年大阪府生まれ。2010年03月 同志社大学経済学部卒業。大学在学中に公認会計士資格を取得する。世界に拠点を有する大手監査法人デロイト・トウシュ・トーマツに就職。トーマツ大阪事務所に勤務し、主に東証一部上場企業の会計監査や内部統制監査を担当。世界各国に子会社を有する連結売上2兆円規模の農業機械メーカーの米国基準監査・コンサルティングを経験。拠点を東京に移し、税理士法人 小山・ミカタパートナーズを独立開業する。

■著書紹介

【紙書籍】表1

<内容紹介>
税務上の仮想通貨取引の現在とこれからをわかりやすく解説。
個人で支払う?
法人で支払う?
仮想通貨に詳しい税理士が教える仮想通貨の税金の本!

出た!
これからの税金の本!
仮想通貨の税金について
一番わかりやすかった。――堀江貴文

【目次】
第1章 税務上の仮想通貨とは?
第2章 仮想通貨に関する国(各省庁)・国税庁のあゆみ
第3章 仮想通貨税務の全体像
第4章 仮想通貨の税務――個人編
第5章 完全網羅版! 仮想通貨取引のケーススタディ
第6章 仮想通貨の税務上の罰則
第7章 仮想通貨の税務――法人編
第8章 法人を利用した節税
第9章 中小企業経営強化税制
第10章 海外移転という道
第11章 税務調査

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