こんにちは。小池一夫です。
これから毎週、「キャラクターマンPiP!(ピッピ)」と題して、「キャラクター」をキーワードに、創作論や、僕の好きな本、小説や漫画、映画の感想や批評など、ジャンルをこだわらずにいろいろとお話をしていきます。
批評の場合も、実際の作品を通じて、キャラクターの創り方、活かし方を学べる「キャラクター新・新論」となるようなものを目指したいと思っています。
1.PiP!(ピッピ)って何ンだ?
では、まず最初に、みなさんにお尋ねします。
『キャラクターマンPiP!(ピッピ) ~全員集合~』という今回のエッセイのタイトルは、どういう意味だと思いますか?
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わかりましたか? 難しいでしょう?
でも、「なンだろう」「どういう意味だろう」「変な言葉だな」「意味なンかないンじゃないか」と、いろいろ考えたのではないでしょうか?
そう。
それなんです。
こういうふうに「誰かに質問されると、答えを見つけようと考えてしまうのが人間」なのです。
これは一見、当たり前のことですが、実はとても大事なことです。
人間って「ナゾナゾ」や「クイズ」が、たまらなく好きな動物なのです。
ほら、夕飯時にテレビをつけてみてください。
芸能人たちがワイワイ言いながら、面白おかしくやってるのも、アナウンサーが難しい顔をして喋ってるのも、みんな「謎」なんですよ。
「ここでクエスチョンです! ふしぎ発見!」とかいうクイズ番組は言うまでもありません。
「お前、アイツと付き合っとるンやろ!?」とバラエティ番組で、たとえば明石家さんまさんのような芸人さんが、後輩芸人のゴシップネタをイジるのも「謎」です。
「謎」が見る者の好奇心、悪く言えば「覗き趣味」を刺激するわけです。
「犯人は、あなただったンですね」と崖の上で謎を解く「ミステリー劇場」もそうだし、恋愛物で「彼は私のことを嫌いなのかしら」と女の子が友達に相談するシーンも「謎」。
真面目なニュース番組で火事や交通事故の原因を解き明かすのも「謎」、今の政治がどこがどう良くないのか、どうすれば良くなるのか、という討論番組のテーマも「謎」。
人間の興味というのは、「謎」に吸い寄せられるものです。
そして、全ての物語とは、「なぜ?」「何?」「誰?」「このあとどうなる?」といった謎を追っかけることだといえます。
人を惹きつけるために、とても重要なのが、「謎」を自在に操る技術なのです。
で……僕はそういった「謎」を「リドル」と呼ぶことにしました。
「クイズ」や「クエスチョン」「ナゾナゾ」などは使い古された言葉だし、なかなかインパクトがありませんが、「リドル」だと、なんだか新鮮でインパクトもあり、言葉自体も謎めいている感じがするでしょう?
人の心を動かす物語を創るためには、まず、あなたは謎を使って人の心を操る「リドル使い」にならなければなりません。
でも「謎」だけでは当然ダメですね。
謎を追っかける誰か……つまり「キャラクター」が必要なのです。
2.物語ではない、キャラクターから考えよう
物語を創るとき、まず最初に「誰がこうして、こうなった」という《お話》を緻密に決めた《設計図》を考えようとする人がいます。
これはこれで正しいのですが、この方法は初心者にはとても難しいのです。
だから、とっても簡単で成功率の高い方法をお教えします。
みなさんも経験があるかもしれませんが、《お話》というのは、なかなかの思い描いたとおりには進まないものです。
すぐに行き詰まってしまい、いろいろ調整をして《お話》を新たに考え直し、また書き出すのですが、再び辻褄が合わなくなって、その結果「書き出し」ばかりが溜まっていく。
漫画でも、小説でも、どんなに絵や文章が上手くても、エンドマークが付かない物語は、ただの「未完成品」であって、《作品》ではありません。
逆に、どんなに下手であっても、エンドマークがついた瞬間に、それは《作品》と呼べるのです。
だから、考え方を変えましょう。
「まず《キャラクター》から考えよ」ということです。
エンターテインメントの物語全般に漫画でも、小説でも、ゲームシナリオなんかにも共通する考え方です。
もちろん、例外はたくさんあります。これは「こうして創る方が簡単に創れるぞ」という僕からのテクニックの提案だと思ってください。
まず「キャラクターを創る」。
物語の主人公となるキャラクターに関することを、考えて考えて、考えぬいていく。
名前や見た目、年齢、性別、生い立ち、職業、家族、交友関係、好き嫌い、好物と苦手、夢、好物、性格、趣味、能力、持ち物、くせ……。
考えて、考え抜いて……そしてキャラクターに「話しかける」こと。
キャラクターから返ってくる言葉に「耳を傾ける」ことです。
たとえば「大五郎」というキャラクターの絵を、部屋に貼っておく。
それに向かって、
「アンパン買ってきたぞ。半分食べるか?」
「食べたくない? そうか。俺が全部食べるぞ」
みたいなやりとりをしてみる。
そうすることによって、キャラクターの性格が浮き上がってくる。
「キャラクターに話しかける」「キャラクターの言葉に耳を傾ける」などというと、「小池は頭がおかしいンじゃないか。そんな恥ずかしいことできるかよ」と思う人もいるかもしれませんが、おかしくて結構。
存在感の強い、確固たるキャラクターを創りだすためには、そういったちょっと傍目から見るとおかしいような「キャラクターとの対話」作業をしたほうがいいのだ、ということです。
そうすることによって、そのキャラクターの性格や人間味、物事に対する反応など、細かいところが見えてきます。
もちろん、慣れれば心の中で対話できるようになりますが、最初は対話を行うということを意識するためにも、声に出してキャラクターと対話してみましょう。
3.キャラクターは1人では起たない
いきなり何もないところから、主人公のキャラクター一人を考えるのは難しいものです。
なぜ難しいか。
世界の中にその主人公しかいないと、何をしてよいかわからないからです。
ここでいう「キャラクター」とは「物語の中で何かを成すもの」です。
その物語が《正義》をなす物語なら、主人公は「《正義》という役割を背負った存在」ですし、《夢》を叶える物語なら、主人公は「《夢》を叶えるという役割を背負った存在」なのです。
だから、もう1人、「正反対のキャラクター」を創ってください。
キャラクターは、2人で考えると創りやすいのです。
《正義》を成す主人公には《正義》を邪魔する敵役のキャラクターを。
《夢》を叶える主人公には《夢》を叶えるのに障害となる敵役のキャラクターを。
そして、主人公には親しみを覚える《オーラ》と《弱点》を、
敵役には恐ろしさや近づき難さを覚える《カリスマ性》と《欠点》をつけて。
(「オーラとカリスマ」「弱点と欠点」は、今度ちゃんとお話しします)。
正義と悪、というほどでなくともかまいません。
スポーツ物なら、地道な努力型で気が優しい主人公と、クールで人を見下す天才型のライバルとか、OLのお話なら、性格のいい女性と、イヤミで意地悪な女性とか、なんでもいいから、正反対の性格を持つようなキャラクターを創る。
感じがいい温かい人とはずっと一緒にいたいものですし、意地悪な人にはなるだけ近づきたくない、関わりたくないものです。
主役と敵役、主人公とライバル。
簡単でわかりやすく、正反対の性格の二人を描けばいい。
そして、世界に悪役・敵役を作ることによって、「主人公がなにをしていいかわからない」という状態から脱することができます。
その悪役、敵役が「何か」をすることで、事件が起こり、物語が始まるのです。
必ずしも、主人公の宿敵となる巨大な悪のキャラじゃなくてもいい。
小さなエピソードで主人公と敵対するだけの悪役でもかまいませんから、二人一緒に、行ったり来たりしながら創ってみましょう。
4.「まず悪より始めよ」
「まず悪より始めよ」――物語の発端は、事件はまず「悪いこと」が起こることから始まると考えてみると、物語が創りやすくなります。
事件が起これば、作者にも読者にも「主人公がやるべきこと」「進むべき方向」はおのずとわかってきます。
僕はアメリカの連続ドラマのDVDを浴びるように見ます。
「24」「BONES」「デクスター」「フリンジ」「ヒーローズ」「プリズン・ブレイク」「CSI:科学捜査班」……これらの作品を観ていると、ほとんどの作品が、冒頭で何か「悪いこと」が起こり、事件の発端になります。
暴力、殺人、爆発、炎上、銃撃戦、カーチェイス、嘘、裏切り、不倫、エロス……。
映像作品ですと顕著ですが、こういったド派手でヤバい「悪いこと」を観た視聴者は、アドレナリンなどのホルモンを分泌して、興奮状態になり、完全に心を掴まれてしまいます。
対称的な性質と役割を持つ、主人公と敵役を同時に創っていき、敵役に先に「悪いこと」すなわち、事件の発端を起こさせる。
主人公はその事件の「謎」を追いかけていく。
それだけで、もう面白いお話が簡単に出来そうな気がしてくるでしょう?
5.主役と敵役はベラベラ喋らない
主役と敵役の二人には、あんまり自分から喋らせちゃいけません。
「俺は強いンだ。空手三段で、剣道五段だ!」「俺は正義感が強いンだ」と、聞かれもしないことを自分からベラベラと喋る主人公は格好よくありませんし、「俺は魔界の大王様を一目置く魔界の将軍の一人で、炎を操ると向かう所、敵無しなのだ!」などと自己紹介する敵役も同様に、小さく弱そうに見えます。
しかし、読者には伝えたい情報を伝えなければなりません。
そんな時、ナレーションの字幕を使うのはあまり良い手ではありません。
ではどうするのか。
もう一人、主役や敵役の周りをウロチョロしている、お喋りな奴を創る。
「彼はとっても気が優しくて、こないだ、火の見櫓に登って降りられなくなった猫を助けて居たよ」
「奴は仲間内で《悪魔》と呼ばれて畏れられてるんだ!おっかねえ」
とか言って、そいつに喋らせればいいんです。
こういうキャラクターのことを「引き回し役」といいます。
主人公の傍にいて、先に飛び出していって失敗をして足手まといになるとか、シャーロック・ホームズに対するワトソンのように、読者が知らないことを代わりに聞いてくれる とかいった、物語の進行をスムーズに、ドラマチックにしてくれるキャラクターです。
「引き回し役キャラクターが必要」というと、それが、ずっと固定のキャラクターでなければいけないと思う人もいるようですが、実際の物語の中では、時と場合によって引き回し役になるキャラクターが違うことが多くあります。
今回は「キャラクター・メソッド」の基本中の基本である「主役」「敵役」「引き回し役」について説明しました。
この三つの役を「キャラクターの三角方程式」と呼んでいます。
キャラクターを創り、「リドル」=謎を創って、それを追いかけさせる。
「リドル」=謎は主人公や敵役のキャラクターだけでなく、様々なものにくっついています。不可思議な事件、いわれのある古いアイテム、その世界の秘密、そして主人公自身のキャラクター……。
人の心を掴んで離さない「リドル」を、魅力的なキャラクターが追いかける。それが物語を創るコツであり、両輪であるといえると思います。
6.リドルの達人になろう!
さて、冒頭でみなさんに問いかけた「リドル」…「キャラクターマンPiP!~全員集合~」というタイトルの意味についてですが……。
これは、僕・小池一夫が「ピッピ」「ピッピ」と笛を吹いて、
「みんな、小池が今から面白いことやるぜ! だから、ついて来いよ~!」
といっているイメージから名づけました。
ほら、「ハーメルンの笛吹き男」みたいに……って言うと、イメージ悪いか。
じゃあ、学校の体育の先生みたいな感じで……。
え? 馬鹿くさい? しょうもない?
それでもいいんです。わかって、ちょっとスッキリしたでしょう?
大抵の「謎」なんてものは、わかってしまうと他愛もないものです。
でも、わからないから、気になるんです。
モヤモヤするんです。
そして、わかればスッキリする。
まあ、謎が解けた時、「なんたよ、つまンねえ!」と思われたら、作品の場合は問題なので、「なるほど!」と思うような「リドル」の仕掛け方を工夫することが重要ですね。
それが「リドル使い」の技術ということになります。
日常でも、会話の面白い、話術に長けた人というのは、「リドル」の使い方が上手い人だといえるでしょう。
ですので、クリエイターを目指す人だけでなく、そうでない人も、こういう「リドル」の使い手になると、いろいろ面白いことになると思いますよ。
僕は80歳ですが、これからが自分が全盛期だと思っています。
だから、みなさんも、これからが全盛期だと思ったほうがいいですね。
がんばりましょう! また来週!
ピッピピッピ!
筆:小池一夫
(次回3月16日掲載予定)