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第18回 キャラクターはメタモルフォーゼが必要!

小池一夫のキャラクターマンPiP!(ピッピ) ~全員集合!~

第18回 キャラクターはメタモルフォーゼが必要!

2016年7月5日

小池一夫です。

キャラクターには「メタモルフォーゼ」が必要です。

「メタモルフォーゼ(Metamorphose)」とは、ドイツ語で「姿を変える」「変身」、あるいは「転生する」(生まれ変わる)という意味があります。
英語では「Transform」ですね。

「変身」。
人間には、誰しも「変身願望」があります。
太古から、人間は想像力を駆使して、《変身譚》を語ってきました。
世界中の神話の中には、神々が人間や動物に自由に変身する話が数多くありますし、
人間が自分とは違う人間や人間以外のものに変身する伝説も洋の東西を問わず残されています。
例えば、西洋なら人間から狼に変身する「狼男」伝説などが特に有名ですね。
そして、魔物や魔力を持つ動物(例えば日本では狐狸や化け猫など)が人間に変身する話もあります。

このように世界各国で神々や人間の変身を語った話が神話やおとぎ話として語り継がれてきました。
近代文学でも『ジキル博士とハイド氏』(ロバート・ルイス・スティーブンソン)、『変身』(カフカ)など、多くの作品が変身をテーマにしています。

なぜでしょう?
人間には、自分ではないものに変身してみたいという、変身願望があります。
「変わりたい」というのは、何もおとぎ話のような変身のことだけではありません。

たいていの人は、もっとより良い自分に変わりたい、と考え、
そのために様々な努力を行いながら生活しています。
しかし、その歩みは遅々としてなかなか進まず、一朝一夕で夢は叶えられるものではありません。

その「変身」の願望・夢を、劇的に充足させることができるのが、物語……そう、キャラクターの《メタモルフォーゼ》なのです。

「ヒーロー」になりたい。
「美女」になりたい。
「お金持ち」になりたい。
「冒険者」になりたい。

読者が抱いている「こんな人になりたい」という願望を、たとえば漫画の物語の中で、キャラクターが叶えること。
それによって、それを見ている読者の欲求を満たすことができます。
《夢》を、キャラクターに叶えさせることで、《カタルシス》(快感)を感じさせることができるのです。

変身キャラクターといえば、やはりヒーローキャラクターでしょう。
アメコミの『スーパーマン』や『バットマン』『スパイダーマン』『ハルク』もそうですし、円谷プロの『ウルトラマン』シリーズや、石ノ森章太郎の『仮面ライダー』シリーズ、戦隊ヒーローも、「カッコよくなりたい」「強くなりたい」という男の子の願望を刺激するキャラクターです。
『マジンガーZ』や『機動戦士ガンダム』といった、ロボットものもまた、普通の人間が巨大な力を手に入れて強くなるという変身願望だということができるでしょう。
女の子の場合は、古くから、シンデレラ・ストーリーというお話があるように、今は冴えない見た目だったり、不遇な立場にあっても、いつかはシンデレラのように美しいお姫様に変身して、王子様に見初められたいといった願望のパターンがありますね。現代でその流れを汲むのは、横山光輝さんの『魔法使いサリー』、赤塚不二夫の『ひみつのアッコちゃん』から『美少女戦士セーラームーン』『ふたりはプリキュア』につながる「魔法少女もの」でしょうか。これらは女の子の変身願望に訴えかけるキャラクターです。
子どもたちのごっこ遊びは、まさに人間が持つ変身願望の本能的な現れです。

この人間の変身願望は、日常生活の中でも、さまざまな場面で見ることができます。
キャラクターになりきるコスプレもそうですし、お化粧もそうかもしれません。
ダイエットや整形、アンチエイジング。美しく変わりたいという欲求です。
また、裁判官や警察官といった職業の服装には、役割や権威を纏うという意味もあります。

変身。
メタモルフォーゼ。
トランスフォーム。
何度も言いますが、人間とは、「変身したい」存在なのです。
弱かったキャラクターが、ヒーローに変身することで強くなり、ピンチを乗り越える。
平凡だったり、地味だったりするキャラクターが、メタモルフォーゼして、美しく一目を引く存在になる。
「能ある鷹は爪を隠す」で能力や身分を隠していたキャラクターが、正体を明かして周囲を驚かせる。

その瞬間、観る人の中のストレス、フラストレーションは、一気にカタルシスに変わります。胸がすく思いをします。

物語が、劇的に変化します。
その変身願望、「メタモルフォーゼ」のもたらす劇的な効果を、あなたの作品やキャラクターに取り入れない理由はありません。

そもそも、人間とは毎日小さな変身を繰り返している生き物なのです。
赤子から子どもへ。
子どもから大人へ。
大人から老人へ。
心や体が変わっていくことがドラマであり、物語とは主人公の変化、変身を描くものでもあるのです。
人間の肉体は毎日毎日、少しずつ古くなっていきますが、同時に人間の心は常に新しくなっていきます。
自分を見つめなおしたり、人の批判を聞きいれることによって自分を更新していくのです。

物語も同じです。
変わらないキャラクターは面白くありません。
常に変身を続ける。
心や体が変わっていく。
「変身」であり、「変心」です。
成長でも、堕落でも、人間が変化していくことがドラマであり、物語なのです。
その変化を、実生活のような地味な形ではなく、派手に劇的に行うことで、物語もまたドラマチックに動いていく、ということです。

以前、「起承転結」の「転」は、「技」であるといいました。
それは、物語が、キャラクターが「とんぼ返り」することであると言いました。
パタン、と姿を変える。
その一瞬で、キャラクターのあり方が変わる。
思っていたものと違うものに変わる。
それが、「メタモルフォーゼ」なのです。

スーパーマンやウルトラマン、仮面ライダーのような変身ヒーローは、
メタモルフォーゼすることで、クライマックスに突入します。

変身とまでいわないまでも
『北斗の拳』は、怒りで服が破けたときに、
『水戸黄門』は、印籠を出した瞬間に、
『遠山の金さん』は、桜吹雪を出した途端に世界が変わります。
見ている世界が意味を変え、メタモルフォーゼします。

ビジュアル的に姿を変えるだけが「メタモルフォーゼ」ではありません。
見た目はあまり変わらなくてもいいのです。
全然変わらなくてもかまいません。

主人公の心が、そして読者の心がメタモルフォーゼすればいいのです。

例えば、

『幸福の黄色いハンカチ』という映画では、画面一面に黄色いハンカチがたなびいた瞬間に主人公の世界はメタモルフォーゼしました。

「ハッ!?」とさせられ、
見ている人の前で、そのキャラクターの意味や役割がパタンと変化して、全く違うものに見えてくる。
世界のありようが、パタンと変わる。
読者が見ている、その視界、世界の全てが、主人公の色に塗り変わる瞬間。
それがメタモルフォーゼなのです。

勝利にかける技や手段。
解决につながるアイデアや気づき。
怒りなど感情の変化。
すべてをかける決意や覚悟。

何らかのきっかけがあって、「メタモルフォーゼ」のスイッチが入る。

主人公の中で何かが変わった瞬間、姿が変わらなくても、「オーラ」が変わるわけです。
そして、物語世界自体が、劇的に姿を、そして色を変える。

その瞬間、見ている人の脳下垂体から、ドバッとホルモンが出る。
興奮や、哀しみや、喜びや、愛情や笑いや……。
感情を司るホルモンが出て、感情が激動するのです。

これも、「メタモルフォーゼ」です。

そして、それを、キャラクターとして、もっとわかりやすく、象徴的に端的に表したのが、変身ヒーローやヒロインの変身姿だと考えればいいのです。

つまらない、と言われる人の作品には、このメタモルフォーゼ、キャラの、そして読者の感情の「とんぼ返り」、すわなち「!?」が入っていないことが多いのです。

あなたの作品には、メタモルフォーゼは入っていますか?

なければ、メタモルフォーゼを入れていきましょう。
それでは!

筆:小池一夫
(次回7月13日掲載予定)



小池一夫
作家・漫画原作者
 中央大学法学部卒業後、時代小説家・山手樹一郎氏に師事。70年『子連れ狼』(画/小島剛夕)の執筆以来、漫画原作、小説、映画・TV・舞台等の脚本など幅広い創作活動を行う。  代表作に『首斬り朝』『修羅雪姫』『御用牙』『春が来た』『弐十手物語』『クライング・フリーマン』など多数。多くの作品が映像化され、その脚本や主題歌の作詞なども手がけている。  また、1977年より漫画作家育成のため「小池一夫劇画村塾」を開塾。独自の創作理論「キャラクター原論」を教え、多くの漫画家、小説家、ゲームクリエイターを育てる。  主な門下生としては、『うる星やつら』の高橋留美子、『北斗の拳』の原哲夫、『バキ』の板垣恵介、『サードガール』の西村しのぶ、『軍鶏』のたなか亜希夫など多数。  ゲームでは『ドラゴンクエスト』の堀井雄二、『桃太郎電鉄』のさくまあきらなど。

 2000年以降は学校教育でのクリエイター育成に力を入れ、大阪芸術大学、神奈川工科大学の教授を歴任。現在は大阪エンタテインメントデザイン専門学校でクリエイターの育成を行う。  また、『子連れ狼』は最も早くに海外でヒットした日本漫画の一つであり、2005年、漫画界のアカデミー賞といわれる「ウィル・アイズナー賞」の「漫画家の殿堂入り」(The Will EisnerAward Hall of Fame)を受賞。  現在も漫画原作を書きながら、コミックコンベンションや講演会などで、日本国内や海外を飛び回っている。

小池一夫先生の著書

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